小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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Side マルギッテ

ふっ、流川海斗、面白い。
フランク中将の命令であり、クリスお嬢様を守るためと思って、あまり気が
乗らない、ひ弱な野うさぎを狩りにきたんだが…

思わぬところで獣は発見できるものだ。
麻酔銃という強力な武器があるとはいえ、あの大勢の精鋭部隊に、この短時
間で勝利してしまうとは。
しかも、銃弾をかわすときのあの動き…
まるで見切っているかのような無駄のない回避だった。

受ける印象は完全に弱者のそれだと思っていたのだが…
“人は見かけによらない”なんて、一度たりとも信じたことはなかったが、
こいつに関しては信じざるをえないな。

こいつなら、あるいは少しは楽しめるだろうか。

Side out


「この銃って、結構軽いんだな。」


流石、良い武器は違うといったところか。
1つくらい持って帰っても、罰はあたらないだろうか。


「じゃ、帰ろっかね。」


帰るのを邪魔してた軍人さんもお休みのようだしね。
そして、橋を進もうとするのだが。
目の前に立ち塞がった、あの女少尉が。


「なんだ?まだ、何か用なのか?倒したんだから、帰っていいだろ。」

「まだ私が残っている。」

「お前もそういうタイプなのね…。悪いけど、俺は別に自ら女の子に手を出
そうなんてことはしねぇんだよ。銃なんて向けるかっつーの。」

「お、女の子!?貴様、馬鹿にするのもほどほどにしなさい。私は軍人であ
り、戦いのプロだ。言葉に気をつけなさい。」

「いや、職業がどうだろうと、関係ないだろ。まあ、誇りがどうこうっての
は分からんでもないが…つってもなぁ。」

「私と勝負して勝利する。それしか、貴様が家に帰れる方法はない。」

「おいおい、勘弁してくれ。俺はさっきの戦いでヘトヘトなんだよ。限界な
わけ、分かる?何を勘違いしてるかは知らんが、今の俺と戦ったところで面
白くないぞ。」

「ふ、何を言うかと思えば…。貴様の状態がどうであろうと、現時点での全
力をもって、戦いに臨めば、私はそれで満足だ。貴様がどれだけ疲れていよ
うが関係のないこと。」

(微塵も疲れていないようだがな…)


こいつ、俺が疲れてないってこと、見抜いてやがるな。
だが、何を言ったところで無駄と判断し、この対応。

はあ、まったく疲れる相手だ。
クリスといい、こいつといい、なんで軍の関係者はことごとく俺の演技を見
抜いてくんだか…。
やりにくいこと、この上ないな。


「鬼だな。流石軍人ってとこか?強引過ぎやしないか。」

「強引だろうがそんなのは私の知るところではない。私は貴様と戦うことで
戦闘欲を満たす。ただそれだけだ。貴様からはただの野うさぎとは違うにお
いがする。」

(私と同じ狩る側のにおいがな。)

「おいおい、軍人がバトルジャンキーなんて、色々と問題があるんじゃない
のか?よくクビになってないな。」

「それだけ実力を買われていると理解しなさい。」

「ん〜、しょうがねぇな。俺だって自分の命の方が大事だからな、相手が女
の子だろうと、必要とあれば、銃を使うのもやむなしだ。どうしても、俺の
邪魔をするっていうなら、ここら一帯に転がってるお前の部下同様、眠って
もらうが、どうする?」


そう言って、麻酔銃の銃口を相手に向ける。
勿論、引き金を引こうという気持ちなんて、これっぽっちもないがな。
ただの脅しだ。

俺が素人とは言っても、さっきの戦いを目の前の女軍人は見ている。
そう、俺が一発も銃弾を外していないこともだ。
脅しは十分な効果を持っているだろう。


「もしかしなくとも、私は脅されているのか?」

「そんな滅相もない。俺は今日は体調が優れないから、帰らせてくれって、
言ってるだけだぜ。」

「随分と態度のでかいお願いだな。」

「ま、そういうことだ。今日のとこは大人しく…」


次の瞬間、拳がとんできた。
その動きを見る限り、銃の脅しなんて全く効果がないようだった。


「なっ、あぶね!」

「やはり、回避能力だけは本物のようだな。」

「そりゃ、どうも。痛いのは嫌だから、こっちは必死なんだよ。」

「それにしては無駄のない動きだがな。」

「気のせいだっつーの、偶然だ偶然。」


こいつ、本当に見透かしてきやがる。
もうほとんど、何言っても無駄な気がするが、一応返しておく。


「ならば、これは避けられるかな?」


そう言うと、相手はどこからかトンファーを取り出した。
なるほど、それがお前の愛用の武器ってところか。
警戒レベルを上げといた方がよさそうだな……って!

ヒュン

トンファーが鼻先をかすめる。
こいつ、段違いにスピードが上がりやがった。
武器でリーチも長くなっているのは分かるが、拳のときとここまで違うもん
なのかね。
おそらく、トンファーの扱いは幾度もの戦場での経験によって、仕上げられ
たものなんだろうな。
少しも気は抜けないな。


「よく今のをかわすことが出来たな。」

「いや、身の危険を感じて咄嗟にね…。っていうか、お前は一般人の命を奪
うつもりなのかよ。」

「この期に及んで、一般人などとはよく言う。心配せずとも、気絶くらいで
済むから、命の心配はない。」


そう言って、次々と縦横無尽なトンファーの攻撃が繰り出される。
縦、横、横、ななめ、横、縦、ななめ、ななめ、縦。
規則性なんて、全くない連撃が襲ってくるが、焦ることはない。
1つ1つをしっかりと目で捉えて、対処していく。

避け続けていれば、相手も疲れてくると思ったのだが、どうやら違うらしい。
時間が経つ度に、攻撃の密度や激しさは増していった。
普通の奴なら、何事かと、心を乱されるだろうが…
攻撃のパターンに慣れてきた俺には今更速くなろうが、強くなろうが関係の
ないことだった。

落ち着いて、相手の隙を探す。
どんなに速く攻撃を行ったとしても、その攻撃間の隙というのは絶対になく
すことは出来ない。
…ここだな。
俺はその隙にカウンターを入れる。


「なっ!?」


相手が驚いて、後退する。
まあ、そうだよな、戦闘中にデコピンされれば、誰でもそうなるだろう。
極めて正常な反応である。


「どうやら、馬鹿にしているようだな…」


あれ?もしかして、怒りでも買っちゃったか。


「ならば、こちらも本気を出そう。」


そう言うと、おもむろに眼帯を外す。
てっきり、戦場で目に傷でも負ったのかと思っていたが、中身は綺麗なもん
だった。


「Hasen Jagd!」

「な!?」


馬鹿だった。迂闊だった。油断していた。
相手はきちんと“本気を出す”と言ってくれていたのに。

次の瞬間の攻撃は、明らかにさっきのが別人と思わせるような変容ぶりであ
った。
威力もあがっていたりするのだろうが、何より迅い。
しっかりと、もっと大げさに警戒していれば、反応できただろうが、そんな
いきなりの攻撃に俺は回避行動をとる暇がなかった。
そして、俺は咄嗟に…

バキッ

体に凄まじい衝撃がはしる。
おー、これはやばい威力だったんじゃないか。


「なん…だと…」


目の前には呆然とするマルギッテ。
その手には無残に折られたトンファーが握られていた。


「危なかったぜ、銃を持ってなかったら、やばかったな。」

「馬鹿な…、このトンファーはドイツの高価な木材で作られている特別製の
ものなんだぞ。」

「所詮、木は木だったってことだろ。鉄の方が硬度があったってだけだ。」

「ありえない…」


いや、なんかそんなに落ち込まれると罪悪感が…。
え、もしかしておばあちゃんの形見とかじゃないよね。
やめてよ、そういう取り返しのつかないのは。


「まぁ、そのなんだ。お前みたいに強い奴が俺みたいな逃げ腰の奴を相手に
してたら、自分の品位を下げるだけだぜ。」

「慰めてでもいるつもりか…」

「いや、俺が女の子を泣かしている最低野郎だと思われないための、せめて
もの自己防衛だ。」

「く…!また、女の子などと。それに泣いてなどいないだろ!」

「いや、言葉のあやって奴だよ。」

「……………………」


そんな目で睨まないでくれ、頼むから。
本当に俺が泣かせたみたいになるだろう。


「まあ、怪我はないよな。トンファーは悪かったが、経費かなんかで落とし
てくれ。」

「逃げる気か。」

「お前はまだ言うか…。そんなのはまた今度な。あー、それとそのホットド
ッグだかなんだかに言っておけ。俺は誰に何と言われようが、クリスと友達
でいることをやめるつもりはないってな。俺を縛れるなんて、思わないこと
だな。」

「ふん……。フランク中将だ、馬鹿者…」

「じゃあな。」


銃を放り投げて、俺はやっと家へと向かう。
今日はなんか凄い濃い一日だった。




Side マルギッテ


はあ、完敗だ。
眼帯をとった状態で、手も足も出なかった。
そして、勝負に負けた挙句、女の子扱いされて、優しくされるなど…。

トンファーも粉々に砕かれた。
だが、おかしい。
演習のときもあんな銃くらい軽々と壊せたはずだ。
それなのに…

そこへ流川海斗の放った銃が目に入る。
これに私は負けたのか…

む?
何か違和感を感じる。
そう、その銃は弾が減っていること以外、新品のように綺麗だった。
傷一つついていないのだ。
仮にトンファーがこれに壊されたとしても、ぶつかり合って、傷一つないの
は、どう考えてもおかしい。


「どういうことなんだ?」


考えても考えても、なかなか疑問は解決しなかった。


Side out


「へっくしゅん、ああー、手いてぇ。」

-35-
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