小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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さて、そろそろ競技が始まる頃だろう。
最初の競技が何とか、どのくらいの競技を行うのかとか、プログラムみたい
なものがないので、皆目見当もつかない。
学校として、それは大丈夫なのか?

あの学園長はただ水着見たいだけなんじゃねーのか。
こんなこと思ってるのは、俺だけじゃないはずだ。
一子とかだって、そうだろう。
ていうか、隣にいるはずなのに、さっきから静かすぎないか?

一子のほうを見る。
すると、一子もこちらを見ていて、何か言いたそうにしていた。


「海斗、あのさ…」

「ん、どうした?」

「この前、大きさは気にしないって言ってたじゃない?」


大きさは気にしない?
なんだっけ、それ。
確かにそんなことを言った記憶はしっかりとある。


「ど、どうかな…、アタシの水着姿…」

「ん?水着姿?」


“どうかな”って、どうゆうことだ。
大きい小さいの話はもうどっかいったのか。
それにしても、一子の水着姿ね…

着ているのは勿論、学校から指定されているスクール水着だ。
小柄で明るいイメージの一子にはぴったりな気もするがな。
まさにスポーツ少女といった感じだ。


「似合ってんじゃねーか?」

「いや、そうじゃなくて、海斗がどう思ってるのかを聞きたいなーなんて…」

「健康的で可愛らしい格好だと思うが。」

「かかか、可愛らしい…!?」


びっくりすんなよ、そっちが聞いたんだろ。

体は日々の修行で適度にしぼってあり、無駄な肉はない。
かといって、筋肉で角ばった感じなどは一切なく、締まりつつも丸みがあっ
て、一子の小動物的な可愛さを損なっていない。
というか、普段はポニーテールに縛っている髪を下ろしているという日常と
のギャップに魅力を感じてしまうのは、男としては仕方ないだろう。


「あ、ありがと。あの、海斗もさ…水着…その、かっこいいと思うわよ……、
ううぅぅ」


そういった一子からは蒸気でも噴出さん勢いだった。
顔も言うまでもなく真っ赤で、ただでさえ暑い陽射しの中、その周辺だけが
最高気温を記録していたほどだ。
もはや、恥ずかしさからのうめき声も、暑さのせいで瀕死の状態になってい
るようにしか、伝わらなかった。


「だ、だいじょうぶか?一子。」

「だ、大丈夫よ!」

「まあでも、この水着、店員にすすめられたのを買っただけなんだけどな。
そんなに有名な会社のやつだったのか?」

「え…そうじゃなくて、アタシがかっこいいって言ってるのは、その…、水
着自体のことじゃなくて…」

「海斗!」


一子が何か言いかけたときだった。
その間にクリスが割って入ってきた。


「犬ばかりでなく、自分はどうだ。」

「ちょ、ちょっとクリ!いきなり入ってこないでよ」

「ああ、似合ってる似合ってる。」

「ふふ、そうだろう。海斗に認めさせてやったぞ。」


まあ、クリスもいつもとは違った感じで髪を結んでいて、可愛らしいことに
違いない。
だが、みんな何故俺に聞くのだろう。
そんなにセンスがあるわけでもないのだが…。


「もう、クリ邪魔しないでよね!」

「なんだ犬、勝負するか。」

「望むところよ!」

「いざ…!」

「はいはい、そのやる気は競技にぶつけとけ。」


何故か急に機嫌が悪くなった一子と好戦的なクリスが決闘を始めようとした
ので、俺は二人を適当に押さえておいた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「では、最初の競技を発表する。」


はあ、やっとか。
しかし、海でやる競技って、どんなもんなんだろうな。
流石に泳ぐだけじゃ尺足りないだろうし。


「最初の競技は借り物競走じゃ!」


…………は?
いやいやいや、全然海関係ないんだけど。
なに、海にも入らせてくれないわけ?
せっかく、こんなにも水があるのに、活用しないのかよ。
“水上”でもなんでもないよね、それ。


「まあ、今海と全く関係ないとか思っている者もいるじゃろうが、落ち着き
なさい。その辺りはしっかりと考えておる。」


ほう。
その考えを是非聞かせてもらいたいもんだ。
今の状態では確実に俺と同じ考えのやつも落ち着けないだろう。


「借り物競走とは、その名の通り、物を借りる競技じゃ。そして、水上体育
祭の要素を入れるのは、ずばりここ!借りるものは全て例にもれず、海や水
にちなんだ物になっておる。貝殻だったり、水羊羹なんて変り種も入ってお
る。その難易度は高いものから低いものまで様々じゃ。何を引くのかも運次
第じゃが、重要ということになるのぉ。ワシが色々考えといたので、難しい
ものも生徒らの頑張りに期待する。」


へぇ、色々考えられてんだな。
まだ、海にまで来なくてもできるんじゃないかという疑問はあるが、大体の
頑張りは認めよう。

海に直結するものだったら、手に入りそうなもんだが、名前だけが水に関係
しているとかいうものだと大変そうだな。
そこら辺は運に任せるしかねぇか。


「よーい、始め!」


一斉にスタートする。
まずは紙をとらないとな。
一番に紙が置いてあるところまで辿り着くと目の前にあった紙をとる。
こんなの悩んでも仕方ないから、さっさと決めた方がいい。
そして、その紙を見ると、

“1年生の水着(女子に限る)”

と書いてあった。


……おい。
確かにドストレートで水には関係があるが、難易度も高すぎないか。
絶対にこれ書いたの深夜とかだろ。
徹夜特有のテンションで書いただろ。
もはや、あのじじいの願望としか思えん。
主にかっこの中とかな。

ていうか、皆着てるものをどうやって借りてくんだよ。
ともかく向かうしかないか。
俺は1年女子の塊に走っていく。


「ねぇ!流川先輩、こっち来てない?」

「ほ、本当だ、なんか借りに来たのかな。私が貸したいな…」


「おい、ちょっといいか。こんなかで水着もう一着持ってるやついないか。」

「え?どういうことですか?」

「いや、あの変態が…じゃなくて、指示が1年生の水着なんだよな。だが、
当たり前だが、皆着てるだろ?スペア持ってるやつでもいないかと思ったん
だが、普通いねぇよな…」

「そうですね…」


いや、まず指示がおかしいんだけどな。


「わ、私、先輩のためなら、別に…」

「おい!馬鹿、やめろ」

「きゃ…///」


いきなり水着に手をかけた少女の両手を押さえる。
こんなとこで脱がれたら、確実に俺が脅迫したようにしかならない。
第一、行動が思い切りすぎだろ。
もっと自分を大切にしようぜ。

ん?待てよ。


「おい、ちょっと一緒に来てくれるか。」

「あ…は、はぃ。」


手を掴んでいる少女の目を見て、頼んでみる。
何故か顔はそらされたが、了承してくれた。
うむ、優しい子だ。

そうだ、別に水着単体で持っていく必要はない。
水着を着ている子に来てもらえばいい話だったんだ。
危なかった、危うく一人の少女に心の傷を負わせてしまうかもしれなかった。

そのまま、手を引っ張ってゴールに向かった。
終始、その子は何も話さなかった。
やっぱり少し迷惑だったかね。


「よし、これでクリアだろ。」

「うむ、ええのうええのう。」

「何を触れようとしてんだ。」

「失礼な、手も動かしておらんわ。」

「いや、もう目が犯罪者だったから。確認できたんだったら、もうこの子は
元の場所に返してくるからな。」


学園長は“もうちょっと”みたいな目を向けてきたが、その目を確認したう
えで完全に無視してやった。
やっぱ、もろあいつの願望じゃねーか。

はじめっから、カオスな体育祭だった。

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