小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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時刻は3時過ぎたころ。
教壇に立つ教師が話をしめくくる。


「では、ホームルームを終わる。気をつけて帰るように。」


はぁー、やっと放課後である。
さてと、今日はどうするか。


「海斗〜」


一子が近づいてきた。
なんか用でもあんのかな。


「あのね、海斗。この前の水上体育祭のことを大和が調べてたんだって。」

「あの最後の競技か。」

「うん。でね、大和が皆に呼びかけておけって言ってたんだけど、えーと…
“ゆーとぴあ”?みたいな悪いお薬が広まってるんだって。」

「聞いたことないな。」

「それに気をつけてだって。」

「まぁ、クスリなんて興味ないし大丈夫だ。」


わざわざ俺にも言ってくれるなんて、優しい奴だ。


「それとね、なんか親不孝通りの中にある“とこよ”ってとこには近づくな
って言ってたわ。」

「………………」

「海斗?」

「…あ、悪い。ボーッとしてた。」


俺は笑う。
笑えているはずだ。


「もぉ、しっかりしてよね。危ないから近づいちゃだめなんだからね。いく
ら強いからって、そこには悪い人がいっぱいいるって大和も言ってたし。」

「ああ、分かったって。」


思わず顔を背けてしまう。
心から心配してくれてるのが分かる…


「あとね、全然関係ないんだけどもうひとつ話があって……。あのね、今度
ね、私と一緒に…デ、デ、デー…」


一子が何かを言いかけたところで…


「流川くーん、なんか廊下で呼んでるけど。」


クラスメイトが俺を呼んだ。


「あ、分かった。じゃあ、ちょっとごめんな一子。呼ばれてるみたいだから
俺行くわ。」

「あ…」


呼ばれてるなんて、正直どうでも良かった。
だが、今の俺にとっては好都合な口実だ。
これ以上この場にいること、というか一子と顔を突き合わせているのが、非
常に居心地の悪さを感じさせた。

なんか話があったようだが、今度聞くことにしよう。
一旦、気持ちをリセットさせたほうがいい。


そして、俺は足早に教室のドアに向かった。
ほんとナイスタイミングな救世主だな。
今の俺にとってはまるで天使のような感じだ。

そして、廊下に出たところでそれらしき人物発見。


「悪いな、待たせて。俺を呼んだってのは…」

「そうだ、私だ。」


…そこには悪魔が立っていた。

いや、少し状況を整理しようか。
微妙な空気のところにクラスメイトの助けの声。
呼んでいる奴がいるというので、廊下に出てみたらいたのはあの暴力少女。
一子の姉なんだっけ?
それだったら、川神なんとかだね。

…おい!
いたたまれない状況からの脱出は望んだにしても、誰も状況を悪化させるこ
となんて頼んだ覚えはないぞ。

とにかく、こいつにだけは捕まるのはまずい。
流川海斗、離脱を試みる。


「なんか人違いっぽいから、失礼。」

「ちょっと待て。」


ガッシリと肩を掴まれた。
ていうか、もはや女子のパワーではない。
逃がす気は微塵もないようだ。

今、振り払って全速力で逃げることも可能だ。
だが、そんなことをすれば相手がますますやる気になってしまうのは、火を
見るより明らかだ。

よって結論。
なす術なし。


「流川海斗、私はお前に用があるんだ。」

「はぁ…なに?」

「お前が水上体育祭で不審者二人を退治したんだってな。その相手は川神院
の技を使うほどの実力者だっていうのにたった一人で撃退したらしいじゃな
いか。」

「そんな記憶は残ってないが。」

「あとでワン子に聞いたら、嬉しそーに事細かに話してくれたぞ。禍々しい
気を持った強敵を圧倒してたってな。」

「………………」


おい、一子!
何話しちゃってるんだよ。
あの怪物退治のあとのやりとりで察してくれてるもんだと思っていたのに。
これじゃ、いくら弁解したところで怪しくなるだけだ。


「いや、あれは運が良かったのもあるし。弱点とかが分かったしな。」

「ほう、学園が用意した着ぐるみのどこに弱点があったのか、ぜひ教えてほ
しいんだが。」


食いついてくるなよ。
でっちあげに決まってんだから。


「それを説明するのはフェルマーの最終定理を証明するくらい、面倒なこと
になるから一言では言えん。」

「何故隠す?」

「あ?」

「お前がある程度強いことは誰もが思っているところだろうが、私には分か
る。お前はまだまだ何かを隠し持っている。そして、その強さを絶対に誇示
したりはしようとしない。」

「買いかぶりすぎだっての。」

「………………」


全く信用していない目で俺を見てくる。
やっぱ実力者はごまかせないもんかね。


「ところで用件はなんなんだ?」


どう言ったところでこいつには俺の言葉は嘘になり続けるだろう。
そこで俺は強引に話題を変えた。


「勿論、決闘…」

「却下だ。」

「冗談ではないが、冗談だ。まあ、そういうと思ったからな。私もお前とは
本気でやり合いたいからな。今のところは無理強いはしない。それほど、強
いと見ているのだがな。」

「で?本当の用件は…」

「ああ、今回は依頼をしにきたんだ。お前やっているだろう?」

「あー…」


確かにストーカー以来、依頼は俺の収入源の一つとなっている。
手軽であるうえに、儲けも結構なもんだしな。

実際、最近は大和に報酬の食券を換金してもらっている。
需要はそれなりにあるらしい。
いやはや、顔が広いってことは凄いな。
儲けの二割はやっているが、現金にしてもらうことを考えれば、特に不満は
ない。


「それで依頼の内容は?」


一応聞いてみるだけ聞いてみよう。


「それはズバリ…川神院僧の修行相手だ。」

「は?」


放課後の廊下には驚く男と指差す女の姿があった。

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