小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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「どうだ?落ち着いたか?」

「うん!もう元気バリバリだよーん。」


目の前には小雪の笑顔。
しかし、それは今までのものとは決定的に違う。
ひきつったような笑いではなく、吹っ切れた素直な笑い。
やっぱ、こっちの方が女の子には似合ってる。
見ていてこちらも幸せになる笑顔だ。

…まぁ、その代償として俺のシャツはびしょびしょなんだが。
ったく、凄い量のなみd…じゃなかった、汗だな。


「んじゃ、元気ついでに復習だ。これから俺の前では?」

「素直になるー♪」

「よろしい。じゃあ、小雪は自分の友達が悪い道に進むのをどう思っている
んだ?勿論、葵冬馬の望みとかは考えずにだ。」

「……僕はトーマが決めたことなら悪いとは思わないけど……やっぱり悪い
ことはしてほしくない。笑っててほしい!」

「ああ、よく言ってくれた。それなら俺もようやく協力できる。」

「え?」

「言っただろ、お前の荷物は俺が持ってやるって。小雪が助けたいと思って
ないんだったら、第三者が介入することじゃないが、小雪がそれを望んでい
るなら俺はいくらでも手伝ってやる。」

「うんうん!ありがとー、カーイトっ♪」

「うお!」


その跳ねるような言葉と同時に小雪はまたこちらへ跳びかかってきた。
反射的にその体を抱きとめる。
俺の反応に満足したかのように小雪はすりすりと頬を寄せてくる。
…って、そうじゃなくて、


「もう落ち着いたんだろ?」

「〜♪」


俺の問いなど聞こえていないかのように、いや明らかに聞こうとしていない
態度ですっかり楽しんでいる。
せっかく一段落ついて、離れたと思ったのにどうしたんだ?

頭に疑問を浮かべていると、小雪はいつの間にか俺の目の前から背中の方に
移動していた。
そして、その背中に全体重をかけてくる。


「今度はどうしたんだよ…」

「えっへへー、だって背負ってくれるんでしょ、カイト。」

「ったく、しょうがねぇな。じゃあ、そこでちょっと俺の言うことを聞け。」

「うぇーい」


小雪から肯定(?)の意見を受け取った俺は女の子1人を担いだ態勢のまま、
話し始める。


「まず、葵冬馬を助けてやるのも今すぐに出来るわけじゃない。こちらも情
報が少ないし、ただ乗り込んで警察に突き出せば解決する話でもないしな。
だから、小雪には今まで通り友達の側にいてもらうからな。小雪もその方が
いいだろ?」

「うんー♪」

「そして俺はこれからクスリが出回るのを最小限に抑えておく。これなら、
直接的干渉をしなくてもあいつの罪を軽く出来るだろう。それで今回のこと
については取り逃がしたことにしろ。相手の顔は分からなかった。仕留めよ
うとしたが逃げ足が異常に速かった。理由はいくらでもあるし、お前らの仲
なら疑われることもない。」

「ふんふん」

「別の刺客をあいつが派遣してきても、俺が捕まらないってのは小雪はもう
よく分かってるな?」

「おうとも〜。カイトのことは信じてるよん♪」

「じゃあ当分は俺がいつも通り不良を倒して、広げないようにしとくってこ
とでいいか。」


自分の中の結論を口にしたときだった。


「そうはいかないねぇ。」

「あ?」

「帰りが遅いからって見てくるように言われてみれば、まさか本当にこんな
ことになってるとはねぇ。しかも負けるどころか、相手に情けをかけられて
いるなんてねぇ、やれやれ…。」


喋っていたのは目つきの悪い女。
髪が紫なのもあるのか、何か毒々しい雰囲気が漂う奴だ。
その後ろにも2人を引き連れているようだった。
…って、あれ?


「天使?」

「え!?へ…かかか、海斗!?」


お互いに暗くて視認もままならず、すぐに気づくことができなかった。
だが、間違いない。
その後ろにいた2人のうちの1人は最近会っていなかったが、俺のよく知っ
た人物、天使だった。
ゲーセンでいきなり帰ってから3日ぶりくらいの再会か。


「こんなとこで会うなんてな…、大丈夫だったか、天使?」

「大丈夫って何がだよ!ウチは別になんともねーっての!変な勘違いすんな
よな。」

「なんか元気そうだな、良かったわ。」

「っ〜〜〜、だからウチは…!」


天使と海斗が会って早々言い合いを繰り広げている。
まあ、言い合いというよりは海斗の素の発言に対し、天使が食いかかってい
るというだけなのだが…。

天使の心境としては、自分から会うのを控えていたのに、完全に予想の範疇
を越えたところで遭遇してしまったことで、驚きや恥ずかしさなど様々な感
情に戸惑っていた。
その焦りを悟られないように乱暴な言葉を発していたつもりだったのだが…

それは客観的に見れば、明らかに動揺していた。
姉妹ともなれば、尚更その異常な天使の様子に気づかないはずもない。
その言い合いも天使の攻撃的な口調とは裏腹に敵意は感じられず、むしろ周
りなど忘れて世界に入りきってしまっているくらい。
完全に今までに見たことのない天使の姿だった。


「まあまあ落ち着けって、天使。」

「ぅ…もう海斗のバカヤローーー!!」


静かなはずの裏路地は今夜は騒がしかった。

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