小説『真剣で私たちに恋しなさい!』
作者:黒亜()

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現在、銃を持った女に追われ、小雪と共に逃走中だったのだが、まさかのエ
ンカウントをしてしまった。


「マルギッテ!?お前こんなところで何してんだ。」

「む、流川海斗…。その言葉に答える義務はない。」

「いや、でもこんな遅い時間に1人でって…」

「……っ…別にどうでもいいだろう。それより流川海斗、貴様こそこんな時
間に何をやっている。」

「あ…!」


やばい、そうだった。
あまりにも予想外の登場だったので、今の状況をすっかり忘れていた。
開いていた距離は今のやりとりの間に詰められ…
まずい、射程圏内か!?


「マルギッテ、ちょっと悪い!」

「え!?は!?貴様何をして…」

「今説明してる暇はないから、我慢してくれ!」

「な、本当に何をして……きゃ!おろせ!!貴様こんなことをして、ただで
すむと…」


マルギッテが騒ぐのも無理ないが、それどころではない。
女の子を守れないことより、後で文句言われるほうが圧倒的にましだ。
俺はすぐさま飛び上がった。

バン

今までいたところに銃弾が撃ち込まれる。
ほんとギリギリだった。
マルギッテの抵抗に少しでもためらっていたら、危なかっただろう。
俺だけに被害が留まるかも分からなかったしな。


「銃声だと?貴様今どんなことになって……じゃない!本当に降ろせ、大体
なんでよりにもよってこんな恥ずかしいヤツなんだ!!」

「いや、そこについてはごめん。けど、背中は塞がってるし、女の子にはこ
れが適当かと…」

「っ!貴様またそういうことを…、それに背中が塞がっているというのは…」

「やっほー♪」

「確かお前は榊原小雪か…」

「ま、そういうことだ。我慢してくれ。」

「くっ…だが、これはその……いわゆる…」

「お姫様抱っこっていうヤツだな。」

「言うな。殺すぞ。」


トーンの低い声が至近距離で発せられる。
いや一方的に俺が悪いんだが、こんなに近くで殺気をあてられるのはきつい。
まじで顔とかは怖くて、見れん。


「あっはは、顔まっかか〜♪」

「なっ!榊原小雪、変な言いがかりはやめなさい!」

「え?」


そう言われて、気まずいやら怖いやらで見れなかった顔を見てみる。
眼帯をしてない目と、目が合いその顔はすぐに逸らされた。
だが、その耳は確かに真っ赤に染まっていた。

やっぱり、お姫様抱っこってのは恥ずかしいもんだよな。
大体やってもらう奴も好きな人にやってもらうから、嬉しさと相殺で恥ずか
しさを我慢してるようなもんだろう。
少なくとも好きでもない奴にやられて、気持ちの良いものではない。
まあ、だからといって降ろすことも出来んが。


「悪いな、安全なとこに行ったら降ろすから。」

「私なら自分でも避けられる。だから降ろしなさい。」

「生憎と止まってる暇はないから。それに俺の勝手で巻き込みたくねぇ。い
やもう巻き込んでるな…。だからこそ、責任を持ってお前を守る。絶対に傷
つけたりさせねぇから信じててくれ。」

「〜〜〜!本当に貴様はなんなんだ!なんでそんなことを私がされなければ
ならない!」

「そりゃ女の子だからだろ?」

「ばっ…!この……くそ……!」

「カイトかっくいいーー。」

「勿論、小雪も守るからな。」

「わーい♪」

「俺は約束は守るタイプだ、だから安心しろ」

「なっ…おま………っ」


もはや呂律が回ってないマルギッテ。
こいつ、ここまで女の子らしい反応がするんだな。
なんというか普段のきびきびした軍人のイメージとは全く違う。
こんな状況で不謹慎だが、思わず笑みがこぼれてしまう。


「な、何を笑っているんだ、貴様は!」

「いや、マルギッテも素だと可愛いんだな。」

「だぁっ!!もう降りる!!離しなさい、流川海斗!」

「いや、マジで暴れるなって!ほら、スピード上げるから、しっかりと首に
手回してつかまっとけ。」

「え?……ひゃっ!」


一気にスピードを上げる。
その急速な加速と、忠告どおりの不安定さにマルギッテは素直に両手を首に
まわしてきた。
もはや完全に素直な乙女となっている。
…首の後ろをつねっている痛みさえなければ。
まあ、そんな些細な抵抗で済んでるだけましか。

二人担いでいるので、そこまで差を開くことは出来ないが、射程圏内からは
出ることが出来ただろう。
むしろ、自分がある程度安全な状況におかれると、今現在のアブノーマルな
シチュエーションに思考がいってしまう。

非常に危険だ。
お姫様だっこにおんぶ。
その密着度は言わずもがな。
そして二人ともあれだ……でかい…。
これは違う意味で命が危ないんじゃないだろうか。

けど、今の俺に出来ることはただ走ることだった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


―こちら追跡側。


「また、海斗は他の女と…!」

「天、あんた随分と本気なんだね…」


天使の問題は戦力どうこうではなく、そこらしい。
どうも目的も行方不明となっている。


「どうすんのさ、アミ姉。このままじゃ、いつか振り切られるぜ。」

「そこについては心配ないさ。この先は…」

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