小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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迫る“獣王”の影!!の巻



≪SIDE:ハドラー≫


『ハドラー様。部下がエイトを発見しました。ラインリバー大陸『魔の森』です』

 報告してきたのは戦場の見張り役『悪魔の目玉』――魔王軍6軍団の1つ『妖魔士団』に属するモンスターだ。こやつ等は世界各地に散っており、その目が中継する情報は即座に鬼岩城にいるこの俺や、各軍団の軍団長に届けられる。

「そうか……すると、奴はロモス城へ向かうつもりだな」

『あの地は『百獣魔団』の軍団長“クロコダイン”様のテリトリー……』

「わかっておる……。呼び出せ……“獣王”クロコダインを……!!」


≪SIDE:OUT≫



「がっはっはっはっ!!いやぁ、ホント久しぶりだなぁ、エイトっ!元気してたか!おいっ!」

 そう言って真っ先に俺の背中を思い切り張り飛ばして迎えてくれたのは、ロカさんだ。今、俺達はマァムの家で夕メシをご馳走になっているところだ。

 思いがけずマァムと出会う事ができた俺達は、そのままマァムと共にネイル村へ向かう事になった。

 俺が最後にネイル村を訪ねたのは、もう半年ぐらい前になる。だが、前に来た時と村は何も変わっていない。大魔王バーンとやらの影響でモンスターが暴れているから、森に近いこの村はどうなっているかと少し心配だったが、変わらない様子で安心した。

 まあ、この村には現役を引退したとはいえロカさんやレイラさんもいるし、並のモンスターなら問題にならないとは分かっているがな。

 で、村では姿を消したミーナの事で騒ぎになっていて、村人達が集まっていた訳だ。ミーナが無事に帰って来たら、皆、ホッと安堵していた。

 ミーナは親父さんに連れられて家に帰った。命懸けで手に入れた毒消し草で早くお袋さんを元気にしたいんだと。村人達も心配事がなくなった事で解散して行った。

 そして、俺達はマァムに誘われて、彼女の家にご厄介になる事になったのだ――。


「ゲホッ……!ろ、ロカさんも元気そうで何より……」

「おうよ!」

 本当に元気だ。足は引き摺り気味なのはしょうがないとしても、盛り上がった筋肉や日焼けした顔はエネルギーに満ちている。張られた背中が痛え……。

「うふふ、あなたったら。でも、本当によく来てくれたわね、エイト君」

「レイラさんも、ご無沙汰してます」

 ロカさんの病気が治ってから、レイラさんの血色も大分良くなって、まだまだ若々しく美人だ。いいなぁ、ロカさん……。

「ダイ君、ポップ君も遠慮なく召し上がって。お代わりも沢山ありますからね」

 にこやかにダイ達にお代わりをすすめるレイラさん。ここに来るまでに、ダイ達の自己紹介も済ませてある。ついでに、マァムがアバンさんの弟子である事も話してある。

「オレ、こんな美味い料理食うの初めてだよ!」

「ホントに美味いや!なんだか、母さんの料理に似てる気がする」

 ポップもダイも、レイラさんの料理をべた褒めだ。実際、街のレストランより美味いからな、レイラさんの料理は。温かくてホッとする……正に、お袋の味って奴だ。

「お母さんの料理は、とっても元気が出るのよ!」

「ガーハッハッハッ!そういうこった!レイラも言ったが、遠慮なんかしねえでどんどん食えよ!」

「「はい!」」

 ロカさんに勧められるままに料理を口に頬張るダイとポップ。

「「ガツガツガツガツ!」」

 て、そんなに慌てて食ったら……!

「「ングッ!?」」

 それ見た事か……のどに詰まらせやがった、行儀の悪い。

「ほれ」

「「んぐぐッ!ゴキュゴキュゴキュ……!プハァ〜!」」

 2人の前に水の入ったコップを置いてやると、大慌てで飲み干して大きく息を吐いた。

「ったく、お前らは……少しは行儀よくしろ!余所様の家だぞ、ここは!」

「ガッハッハッハッ!まあ、良いじゃねえかエイト。男はちょっと行儀が悪いぐらいでちょうど良いんだよ!」

「元王国騎士団長の台詞じゃないですよ、ロカさん……」

 騎士って普通、礼節がどうのこうのって言うもんじゃないのか?

「まあ、気にすんなって!しっかし、アバンの弟子2人とエイトが、魔王軍と戦う為に旅をしてるなんてなぁ。アバンも改めて修行の旅に出たっていうし……畜生!俺もこの足がまともに動きやがれば、現役復帰して魔王軍をぶった斬ってやんのになあ!」

 悔しそうにそう言って、酒を煽るロカさん。

 剣において重要なのは、実は足腰の強さだったりする。腕の筋力や肩で振り回す剣には限界がある。ロカさんは病気の後遺症で足に踏ん張りが利かない……剣士として、小さくないハンディキャップだ。

 雑魚ならともかく、強敵との戦いは難しいだろうな。

「大丈夫だよ、おじさん!オレがおじさんの分まで、魔王軍をやっつけてやるからさ!」

 椅子から立ち上がったダイが、割と大きな声でそう宣言した。それを見たロカさんは、何か懐かしそうな目でダイを見つめる。

「……似てるな、アバンの奴に」

「え?アバン先生?」

「ああ、ダイっつったか。今のお前の顔、アバンが勇者として魔王軍と戦いに母国カールを旅立った時とそっくりだ。『こいつならやってくれる!』……そんな希望を抱かせてくれる、良い顔だぜ」

「えへへ……!そ、そうかなぁ……?」

「ああ、アバンと1番付き合いが長かった俺が言うんだ。間違いねえさ!」

 今度は嬉しそうにそう言って、ロカさんはまた酒を煽る。

「ング、ング……プハァっ!美味えッ!今日はなんて酒が美味え日だっ!よぉし!気分が良いから特別に、アバンがカール王国騎士団にいた頃の話をしてやろう!」

「ホントっ!?聞きたい!」

「オレも!アバン先生、昔の事は何にも教えてくれなかったからな!」

「あたしも聞きたいわ!早く話してよ、父さん!」

「まあ、そう慌てるなって。そうだな、アバンが騎士団に入ったのは……」


 そうして始まったロカさんが語る『勇者アバンの昔話』に、皆は食い入るように聞き入り、その夜は大いに盛り上がった――。



≪SIDE:??????≫


『……様……イン様……』

「……んん……?」

『クロコダイン様』

「……くあぁ〜〜!なんだ……?折角気持ちよく眠っておったのに……」

 何やら俺を呼ぶ声に起こされて見れば、悪魔の目玉が天井にぶら下がっておったわ……。

『魔軍司令様がお呼びです』

「何っ!?ハドラー殿が?」

『「クロコダインよ……」』

 悪魔の目玉の目玉に、魔軍司令ハドラー殿の姿が映る。

「おお、これは魔軍司令殿!」

『「クロコダイン、どうしたのだ?お前には、ロモス王国攻略を命じておいたはず……」』

 なんだ、その事か……。

「フッ、ダメだダメだ、あの国は……!」

『「んん?」』

「吹けば飛ぶ様な腰抜けばかりよ。強い奴など1人もおらんわ!俺自ら戦わずとも、我が“百獣魔団”のモンスター共に任せておけば、すぐにでも墜ちるだろうよ」

 魔王軍6軍団の1つにして、この俺が束ねる『百獣魔団』――恐れを知らぬ魔獣の群れ、ロモス程度の腑抜け共の国など物の数ではない。攻略を命じられた時は、どんな歯応えのある奴がいるかと期待していたというのに……ガッカリさせてくれるわ。

 やる気もまるで起こらず、こうして昼夜を問わず眠って過ごしていた訳だが……魔軍司令殿がこうして急かしてくる辺り、少々悠長にやり過ぎたかも知れんな。

「まあ、あと数日ほど待って頂きたい」

『「……フフッ、相変わらずだな。だが、今日はその件ではない」』

「んん?」

 どういう事だ?俺がロモス攻略を滞らせているのを急かしに、悪魔の目玉を寄こしたのではなかったのか?

『「実は、我が魔王軍に盾突く者が現れたのだ」』

「ほうっ!そんな奴がいるとはな」

 世界各地で魔王軍に対抗している人間がいるとは、ちょくちょく聞いていたが……魔軍司令殿が直接、俺に話を通す程の奴か。これまで聞いてきた格好ばかりの“自称”勇者とは違うと言う事か……。

『「今、魔の森の東にあるネイル村に入りこんでおる」』

「どんな奴だ?」

パチリ……

 悪魔の目玉が瞬きと共に映像を切り替える。すると、そこには赤い鞘に収まった竜の意匠を凝らした剣を背負い、オレンジ色のバンダナを巻いた、歳の頃20代後半といった感じの人間の若造が映った。

『「こいつだ……!名前は、エイト!!」』

「こいつか……見たところ、それほど強そうには見えんが?」

『「外見で判断して侮ってはいかん。こいつは、信じられない程の戦闘力を持っているのだ……ッ!この俺も、手傷を負わされたわッ!!」』

「な、なんと!?ハドラー殿に手傷を……!?」

『「そうだ!野放しにしておけば、必ずや我らの強敵となる!!」』

 かつては魔王として世界を征服せんとし、大魔王バーン様にその実力を認められ、魔軍司令の座に就いたハドラー殿……並の人間では、その肌に傷を付ける事も出来ん筈だ。

 それを傷付ける程となれば、並大抵の戦士ではあり得ん……。

「フフフッ……!面白い!!ハドラー殿を傷付ける程の男……是非とも戦ってみたくなったわ!!」

『「頼むぞ、確実に葬れ!!」』

 悪魔の目玉の目玉が元に戻り、魔軍司令殿からの通信が切れた。

「グッフッフッフッ……!」

 久しぶりに血が滾ってきた!武人の誇りとは、強敵との死闘あってこそ!

 そういう強敵との戦いを、俺は待ち望んでいのだ!

「フンッ!!」

 愛用の斧を振り、調子を整える。

「フフフッ、真空の斧よ。今度の相手は、お前の力を存分に揮える強敵だと良いなぁ……!」


 まだ見ぬ獲物が望む強敵である事を願いつつ、俺はねぐらを後にした――。



≪SIDE:OUT≫


「アッハハハハッ!お、おじさん、それマジかよ〜!?」

「おう!マジもマジ!大マジだ!その時のアバンの顔は傑作だったぜ!」

 話し始めてから、もう2時間は経ったか?ロカさんの昔話はまだ続いていて、大いに盛り上がっている。ダイやポップなんか、笑いっぱなしだ。

 しかし、もう結構遅い時間だ……昔話は確かに面白いんだが、いい加減に寝ないとダイ達の成長に良くない。あいつらはまだまだ成長期のど真ん中――良く学び、良く動き、良く眠って、ガンガン成長しなければいかん。

「それでそれで!?アバン先生はその後どうしたのっ?」

 目を爛々と輝かせるダイを見ると、多少気の毒に思わないでもないが、ここは年長者として心を鬼にせねば――と、そろそろお開きにしようと言おうとした、その時!

グオオォーー……!!

「「「「「っ!?」」」」」

 突然聞こえてきた咆哮に、俺達は一瞬硬直させられた。

「な、なんだ!?今の!?」

 ダイが立ち上がって叫ぶ。

グオオォォォォォ……!!

「こいつは……まさか!?」

「ロカさん、何か心当たりが……?」

「ああ……モンスター共がロモス城を襲いに行く時、いつもこの咆哮が聞こえた。多分、ロモス城を攻めてるモンスター共の大将か何かの声だろう!ここ数日聞かなかったんだが……!」

 ロカさんが説明すると、ダイやポップが目を見開く。

「ももももッモンスター共のたたた大将ぉぉ……ッ!?」

「まさか、魔王軍がロモス城を……!?」

 ダイが険しい顔つきになるが……違うな。

「城攻めじゃないな……この声の主の狙いは、多分、俺だ」

「「「ええッ!?」」」

 子供組がまた驚き、俺に注目してくる。そんな子供らを尻目に、ロカさんが真剣な眼差しを向けてくる。

「どういう事だ?エイト」

「デルムリン島でハドラーを撃退してしまいましたからね……、俺は魔王軍の抹殺リストに乗ってしまっている……。多分、ハドラーから命令が下って、ロモス攻略を任されてた奴が、俺を殺しに来ようとしてるんでしょう」

 それが証拠に、咆哮は徐々にこっちに近付いて来ている……もう1つ言えば、声の主は俺を挑発している。

 わざわざ咆哮で自分の存在をアピールしながら、ゆっくりと近寄って来ているのは、『出て来い。さもないとこっちから行くぞ』という脅し……。

 ハドラーが俺への刺客に選ぶ以上、半端な実力の相手じゃないだろう。幸いにして、向こうは俺だけが狙いらしく積極的に村に接近してこない。こっちの出方を伺っているってところか。

 それならそれで、こっちにとっても好都合だ。その挑発に乗ってやろうじゃないか。

 “ふくろ”から鎧と兜、盾を取り出し装備し、最後に剣を背に掛ける――これで竜神王フル装備だ。

「村に来られる前に、こっちから打って出る。ロカさんとレイラさんは、一応、村の警戒をお願いします」

「分かったわ!」

「任せろ!気をつけろよ!エイト!」

 2人の声を背に、玄関に向かう。

「待って!エイト兄ちゃん!オレも行く!」

「だ、ダイ!?何言ってんだよっ!?」

 振り返ってみれば、兵士の剣・改とパプニカのナイフを装備したダイが真剣な表情で立っていた。傍に立つポップが焦っているのは、さておくとして……。

「……相手はハドラーの手下とはいえ、並のモンスターじゃないはずだ。戦いになったら、俺だって一々守ってはやれないかも知れない。そこんトコ、分かってるんだろうな?」

「分かってる!オレだって魔王軍と戦う為に兄ちゃんと一緒に来たんだ。その為に、アバン先生に鍛えてもらったんだ!だから……オレも一緒に戦うよ!」

「……そうか」

 覚悟は出来てる、と……だが、ダイにとってはこれが初の実戦となる。実力上位の強敵を前に、この場で出来る覚悟を保てるかどうか……いや、ここは甘やかすところじゃないな。

 この先、強敵とは幾らでもぶつかるんだ。ダイが戦う事を自分で選んだなら、それを尊重するまでだ。

「分かった。一緒に行くぞ、ダイ」

「エイト兄ちゃん!」

「待って!エイトさん!ダイ!あたしも一緒に行くわ!」

 今度はマァムか。

「大丈夫なのか?マァム」

「勿論!あたしだってアバン先生の弟子だもの!足手纏いにはならないわ!」

「フッ、そうだったな。よし!マァムもついて来い!」

「ええ!」

 これでパーティーは俺・ダイ・マァム――3人いれば、まあ、どうとでも戦えるだろう。さて、残るは……

「ポップ、お前はどうする?」

「いっ!?あ、いや、そのぉ、オレは〜……」

 煮え切らない態度……どうにもこいつには、やる気が感じられない。アバンさんが弟子にしたんだから、何かしら“磨けば光るもの”があるって事なんだろうが……俺にはよく分からん。

「時間がねえんだ!ハッキリしろッ!!」

「ヒッ!?い、行くよ!行きますよっ!!」

 俺に怒鳴られたから勢いで仕方なくって感じだ。

 今は、そんなこと言ってる場合じゃないか。

グオオオオオオォーーー……!!!

「ッ!大分近づいて来てる!急ぐぞっ!!」

「うん!」「ええ!」「お、おう!」


 遅れた分を取り戻す為、俺達は急いで外に出て、咆哮の響く方角へ走った――。



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