小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

VSクロコダイン!!ダイの初陣!!の巻



グオオオオォォーーー……!!!

 咆哮がどんどん近付いてくる中、俺・ダイ・ポップ・マァムの臨時パーティーは魔の森の中を走っている。

「確かこの先に、少し森が開けた場所があったはずだ!上手い具合に奴と俺達の直線状にな!そこで迎え撃つぞ!!」

「おう!」「ああ!」「ええ!」

 俺の後ろを走る3人の返事を聞いてから、俺は再び前を向いて走りながら考える。

 これから戦うであろうモンスターは、そこらにいる雑魚とは違う。ゲームのドラクエで言えば、まあ中ボスってところか。とはいえ、流石に直接相対していない敵の戦闘力までは感じ取れない。

 しかし……確実にハドラーよりは劣るはずだ。そうでなければ、実力未知数の大魔王はともかく、俺にボロ負けしたハドラーの命令なんか聞きやしないだろう。

 そうなると、俺がいれば先ず負ける事はないはずだ。だったら……ダイ達に任せてみるか?

 相手の実力にも依るが、ダイ達もそこそこレベルは上がっているから3人で協力すれば、やってやれない事はないはずだ。

 いざ本当に危なくなったら、俺が助けてやるつもりだが……万が一、その後も俺の助けをアテにする様になったら、あいつらをそれぞれ故郷に帰して俺1人で魔王軍と戦えばいい。厳しい様だが、自分の力を限界まで絞り出して最後までやり遂げようという根性のない奴が、魔王軍との命懸けの戦いを生き抜ける訳がない。よしんば死ななかったとしても、足手纏いになるだけだ。

 仲間に助けてもらう事と、仲間の助けをアテにする事は、似ている様で全く違うからな。

 と、そうこう考えている間に、目的の広場に着いた――まだ敵は来ていない様だな。

「今の内に息を整えて武器を構えとけ。すぐに来るぞ」

 竜神王の剣を抜く。

 ダイは兵士の剣・改を、ポップはマジカルブースターを、マァムはハンマースピアという先端に十字の突起と反対側に槍の穂先の様なパーツの付いた武器を――それぞれの武器を構え、臨戦態勢を取る。


 そして、その数分後――そいつは現れた。


「やはり出てきたな……エイト!」

 轟音と共に木を縦に割って現れたのは、3メートル近い巨体に丸太の様に太い腕に脚に尾、右手に円形の変わったハンドアックスを持ち、黒い鎧を身に付けた1頭のワニ男――リザードマンと呼ばれるモンスターだった。

「なるほど……てめえが、最近ロモス城を攻めてるモンスター共の親玉か」

「グフフフッ、如何にも!我が名は獣王クロコダイン!魔軍司令ハドラー殿が指揮する6つの軍団の1つ、百獣魔団の軍団長だ!!」

「6つの軍団だと……?」

「左様。我が魔王軍はモンスターの性質によって、“百獣”“氷炎”“不死”“妖魔”“魔影”“超竜”の6つの軍団に分かれておる!俺の軍団は、恐れを知らぬ魔獣の群れよ!!」

 なるほど、ただ闇雲にモンスターを掻き集めて操っているのではなく、系統ごとに纏める事できちんと指揮系統を作っているのか……ドラクエ4のデスピサロの勢力に近い感じだな。

「エイト!ハドラー殿の命により、貴様を討つッ!!」

 やっぱりそういう事か……。

「ハドラー殿に手傷を負わせたというその実力の程、じっくりと見せてもらおうか。フフフフッ!」

 手傷を負わせた、ねぇ……ハドラーめ、あれだけ痛め付けてやったのをその程度に言ったのか。

「う、うるせえッ!このワニ野郎ッ!!」

 何故かポップが前に出て叫んだ。本当に何故だ?

「へっ、よく聞いてみりゃ何の事ぁねえ!ハドラーの下っ端じゃねえか。見てくれがあんまり凄いんで、ビビって損したぜ!あ〜バカみたい〜」

「……フッ」

 今、クロコダインが鼻で笑った。ポップの余りの小物っぷりに対する失笑と言ったところだろう。

「ハドラーでさえオレ達がコテンパンにしてやったってーのに、お前なんか相手になるかってんだよ〜だ!」

「…………」

 何を言うのかと思えば……。言うまでもない事だし、今更それを指摘するのも馬鹿馬鹿しいから口に出さないが、ハドラーと戦ったのは俺1人で、ポップは奴に指1本触れちゃいない。

「……フフフ、グワ〜ハハハハハッ!」

 クロコダインと名乗ったリザードマンが、心底おかしそうに笑い出した。

「な、何がおかしいんだよ!?てめえぐらい、俺の呪文でチョイチョイっとやっつけてやらあ!!」

「ガ〜ハハハッ!何処の馬の骨か知らんが、まあ試してみるんだな」

「馬の骨だとぉ!?こんの野郎〜〜ッ!!」

 ポップが人差し指に小さな火の球を作り出す。まさか、あのクロコダイン相手に『メラ』を撃つ気じゃ……。

「『メラ』ッ!」

 ああ、本当に撃ったか……。ちっぽけな火球がクロコダインに向かう。

「ワニの丸焼きになりやがれ!!」

「フフフッ……フウウゥゥゥ……ッ!!」

 クロコダインは再び鼻で笑うと、大きく息を吸い込み――

「ブハァァッ!!」

 奴が吐き出した“唯の息”でポップの『メラ』をかき消した。

「ゲエエエッ!?い、息だけで……!!?」

「当たり前だ」

「へ……!?」

 呆れを隠さずに言ってやると、ポップがこっちを振り向いた。

「少し考えれば分かる事だ。リカントすら倒しきれないお前の呪文で、それらモンスターのボスが倒せる訳ないだろう。相手を見縊るんじゃない!つまらん油断が自分や仲間の死を招く!アバンさんからそんな事も習わなかったのか!?」

「う……」

 しゅんと萎んだ顔で俯くポップ。

「フンッ、仲間内で何をゴチャゴチャ言っておるか!そらッ、今度はこっちが攻撃する番だ!!」

 クロコダインが斧を振りかぶる。

「ぬううぅぅ……カアァーーッッ!!!」

 裂帛の気合を伴い地面に叩き付けられた斧から衝撃波が伸び、俺達の間を割り開く様に通り抜け、轟音と地鳴りを引き起こす。

「……」

 後ろを振り向いて見れば、背後の森が地面ごと大きく咲かれていた。

「ギィエエエ〜〜〜ッッッ!?!?もももも森が割れたぁ〜〜!!?」

 ポップが鼻水垂らしながら喚き散らす。

「と、とんでもないパワーだ……!」

「な、なんて奴なの……!?」

 ダイとマァムがそれぞれ呟く。

 確かに、凄まじいパワーだ。パワーだけなら、ハドラーの上をいく。

「我ら軍団長を見縊るなよ。各々の得意とする技においては、ハドラー殿を超える力があるからこそ、我らは軍団長を任せられているのだからな……!」

 なるほど、今のは自分の実力を示すデモンストレーションだった様だ。

 俺達はその場から1歩も動いていない……なのに、俺達に掠らせもせず、正確に間に衝撃を通した。

 単なるパワー馬鹿にこんな芸当は不可能――自分のパワーを完璧にコントロールする知性、敵の立ち位置を正確に把握する観察眼、斧という扱いのやや難しい武器を使いこなす技量……奴は単に他より強いだけのモンスターじゃない。

 モンスター独特の強靭な肉体に加えて、戦士としての技能を兼ね備えた獣戦士――それがこのクロコダインという奴なんだ。

 これは思っていた程、楽勝とはいかなそうだ……。

 が、それにしても勝てない相手ではないというのが俺の感想でもある。

「……いいか、お前ら。手短に説明するぞ」

 俺は小声で、ダイ達に作戦を伝える。

「……確かに奴のパワーはハドラーより上だが、それだけだ。当たらなければ問題ない。俺が奴の攻撃を止める。ダイはスピードで撹乱と攻撃、ポップとマァムは奴の間合いには絶対入らず呪文で援護しろ。怯える必要はない。連携プレーで戦えば、必ず倒せる」

「「「……!」」」コクッ

 作戦は決まった。向こうもご丁寧に待ってくれている様だし……

「……いくぞッ!!」

 先ずは俺が飛び出す。俺の役割は奴の攻撃を封殺する事――だからこそ、取る戦法は接近戦!

「ぬうッ!小癪なッ!」

 正面から飛び込んだ俺に向かって、迎撃の為に斧を振り下ろすクロコダイン。

 それを俺は、正面から剣で受け止める――!!

「な、何い!?」

 クロコダインが目を剥いて驚いている。

 俺が剣で斧を受け止めた事が相当意外だったらしい。確かに、今のは大した一撃だった……竜神王の剣でなかったら、刀身ごと叩き割られていただろう。

 俺の腕力とクロコダインの剛腕を受けて、刃こぼれはおろか曲がりもしないんだから、流石は竜神王の剣だ。

 それが証拠に――

「ば、馬鹿な!?斧の方が砕けるとは……!!?」

 それなりに良い武器なんだろうが、強度は竜神王の剣に遠く及ばず、またクロコダインの剛腕から繰り出される衝撃を今の俺の腕力で受け止めた事で、衝撃は1番脆い斧に集中し、耐え切れずに砕けたのだ。

「くッ!おのれぇ!!」

 クロコダインが斧の重みが増した。俺も押し返す様に腕に力を入れる。

「ぐうぅぅぅ……ッ!!」

「むぅ……ッ!」

 中々やるな……だが、このくらいなら押し負ける事はない。俺の力は『413』――超人と言っていいレベルの腕力だ。腕に感じるこの重みからして、クロコダインは恐らく『160』前後ってところだろう。この数値は断じて低くない。この世界の並の戦士など、足下にも及ばない怪力だろう。22年鍛えたとはいえ、俺がチートなだけだ。

「ぐッ!くぬぅ……な、何故だ!?何故、押し返せん……ッ!!?」

 クロコダインの目が血走り、斧を持つ右腕の筋肉が盛り上がり、鱗の肌に血管が浮き出る。

 だが……そんなに俺にばかり気を取られていると――

「たあぁぁぁッ!!」

「ぐあッ!?」

 痛い目を見る。ダイの飛び蹴りが、クロコダインの後頭部を直撃――俺は剣を引き、バランスを崩し倒れ込むクロコダインの巨体を避け、バックステップで距離を取る。

 そうして俺が避けた場所に、クロコダインは倒れ込んだ。

「ぐ……くぅぅ、おのれぇ〜〜ッッ!!」

 地面に倒された事が余程屈辱だったのか、クロコダインが怒りの形相でダイを睨む。

 だが、その視線の先には俺だけ――ダイは既に動いている。

「ぬッ!?」

 戦士の勘か、クロコダインは斧を素早く構え、高速で斬り込んでいたダイの剣を受け止め弾く。

 ダイはそこで止まらず、高速で動き続ける事でクロコダインを翻弄していく――。

「ぬッ!くッ!?ぬぇいッ!」

 残像を残す程のダイのスピード、高速で繰り出される連続攻撃――クロコダインは決定打こそ防いでいるが、その動きを捉えきれない様で防戦一方だ。

 これは、思った以上だ……。ダイは俺のフォローが必要ないほど、クロコダインの攻め手を封じ、上手く戦っている。

「うぬぬ!!小癪なッ!!」

 それにしても、クロコダインもやるな……伊達に軍団長を名乗ってはいない。あれだけ高速の攻撃を、斧を最小限の動きで効率よく動かして防いでいる。戦士としての技量もかなりの物だ。あれほどの実力があって、よくハドラーなんぞに従ってるもんだ……いや、大魔王の威光か?

 と、そう考えている間に、ダイがクロコダインから距離を取って俺の隣に戻ってきた。

「大丈夫か?ダイ」

「ハァ、ハァ……。うん、だけど……あいつ、思ったより、ずっと速い!」

「そうだな」

 力だけの猪武者タイプの相手なら、ダイは既に勝負を決めていただろう。だが、クロコダインは違う――自分の能力を正確に理解した上で、最適な戦術を身に付け、冷静な判断力で敵を見極めている。

 それが証拠に……

「ぬぅぅ……!」

 さっきまで俺ばかりを敵と見定めていたはずの眼が、ダイにも向けられている。

「ダイ、気を引き締めろ。奴はこれから、更に手強くなると思え」

「……うん!」



≪SIDE:クロコダイン≫


 全く予想しなかった事態だった。

 俺はハドラー殿から『魔王軍に仇成す敵、エイトを抹殺せよ』との指令を受け、ハドラー殿に手傷を負わせるほどの実力との情報を得て、エイトと戦う事を楽しみにしていた。

 そして……エイトは俺の挑発を知りつつ、敢えて姿を見せた。ただ、1人ではなく3人ほどオマケを連れて……。

 オマケ……そう、3人の小僧・小娘はエイトのオマケだと思っていた。実際、あのポップとかいった未熟者の魔法使いは、まるで問題にならない小物だった。この俺に向かって、呪文の初歩中の初歩である『メラ』なんぞを賢しげに撃ってきたのだから。

 だからこそ、俺は他の2人も問題視しなかった。敵はエイトのみ……だが、いざ戦ってみるとどうだ?

 エイトが初め俺の一撃を、意匠こそ見事ながら見た目華奢な剣で、それも片腕で受け止めた時は驚き、そしてハドラー殿から渡された情報が誤りでない事を確認した。

 しかし、その後エイトは戦いにほぼ参加せず、俺に攻撃を仕掛けてきたのはオマケの1人だと思っていた、最も小柄な青い服の小僧だった。

 確かダイといったか……奴は、残像が残る程のスピードをもって俺に攻撃を仕掛けて来た。そのスピードたるや、何とか見えはするが、俺のスピードでは捉えきれぬ程だ。

 ハドラー殿を傷付けたというエイトは当然、我が魔王軍の脅威だろう。だが、あのダイも決して侮れん……。歳の頃は、恐らく10前後というところだろう。にも関わらず、“獣王”の異名を取り、魔獣達を束ねる軍団長のこの俺をここまで抑え込む実力を備えている。何度となく戦った“勇者”を名乗った大人の戦士など、及びもつかん。

 あのまま成長を続ければ、確実にエイトに並ぶ魔王軍の脅威となる。

「……よおしっ!いくぞ、クロコダイン!!」

 そう気合を入れたダイが、剣を腰元に引き、下段に近い独特の構えを取る。

「その構えは……!?」

「……アバン流刀殺法!!」

「アバン……!?かつて魔王であったハドラー殿を倒したという、あの伝説の勇者か……!?」

「そうだ!あのアバンが、オレの先生だッ!!」

 なるほど……そういう事か。

「……“アバンの使徒”……という訳だな……!!」

 あの勇者アバンに教えを請い、次代を担う戦士として育てられた……それならば、奴の実力も納得がいく。

 これは気を引き締めて掛からねばならん……!今でこそ、積極的な動きを見せんエイトだが、俺がダイのみに気を取られ、隙を見せれば斬りかかって来る事は容易に想像が付く。

 相手の実力を楽しもう、などという油断は捨てねばならん――奴らは、未だかつてない強敵なのだ!



-24-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ドラゴンクエスト-ダイの大冒険- 全22巻 完結コミックセット(文庫版)(集英社文庫)
新品 \12600
中古 \5179
(参考価格:\12600)