小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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クロコダイン撤退!光る勇者の卵達!!の巻



「いくぞ!クロコダイン!!」

「来い!小僧!!」

 戦闘再開――ダイが再び高速でクロコダインに迫る。しかし、クロコダインは焦ることなく斧を構える。

「同じ手は喰わんぞッ!」

 奴がそう言うと同時に、斧の刃の中央にある宝玉が光り――

「うッ!?か、風が……!」

 暴風と呼んでいい程の風が吹き荒れる。しかも、唯の風ではない。

「ぐッ!?」

 その風がダイの腕を掠めた時、皮膚が切れ、僅かに血が噴き出す。その傷を見たダイが驚き、目を見開く。

「こ、これは……『バギ』!?」

「そうだ!俺自身は呪文は使えぬが、この真空の斧は『バギ』系の呪文の力を備えているのだ!!」

 どうやら、あの斧は俺の竜神王の剣と同じく、呪文の力が込められた武器だった様だ。ちなみに竜神王の剣に込められているのは『ギガデイン』だから、威力は段違いだが。

 それはさておき、少々拙いな……。この真空の渦の中じゃ、ダイのスピードが封じられてしまう。

 やっぱり、クロコダインは一筋縄でいく相手じゃない。とはいえ、それはダイも同じ事――

「……ッ!」

 風圧に耐えながらも見せるあの目……あれは、この状況にも活路を見出し、チャンスを狙っている目だ。

「唸れッ!真空の斧よッ!!」

 叫び、斧を高らかに掲げるクロコダイン。それによって風圧は更に増した。

「来たっ!!ここがチャンスだ!!」

 傍にいた俺には、ハッキリとダイの声が聞こえていた。ダイは迫りくる渦巻く風を睨みつける。

「アバン流刀殺法!『海波斬』!!」

 気合一閃――俺の眼にもブレて見える程の速度で、ダイが剣を振り抜いた。

 すると、クロコダインが放った真空の渦が斬り裂かれ、斬撃がクロコダイン目掛けて飛んで行く。

「ウオオッ!?風を裂いてくる……!!?」

 クロコダインが目を見開いて驚いた次の瞬間――奴の鎧の胴に一筋の切り傷が走った。

「ぐっ!?か、は……!?」

 切り裂かれた際の衝撃の所為か、それとも鎧を過ぎて肉体を裂いたか、クロコダインがよろけ隙ができる。

「今だーーッ!!」

 チャンスと見てダイが飛び込む。

「!!」

 しかし、ダイが跳び上がった瞬間に俺は見た。クロコダインのギラリと光る目を――。

「カアァーーーーッッ!!」

「うわあぁぁッ!!?」

 クロコダインが口を大きく開き、ダイに向かって赤く光る熱線を吐きつけた。ダイは全身に火傷を負い倒れる。

「あ……あ、熱い……!全身が……動かない……!」

 クロコダインのブレス攻撃を浴びたダイは、全身が麻痺して動けない様だ。

「焼けつく息……俺の奥の手だ」

 流石は軍団長と名乗るだけあって、クロコダインも手の内を幾らか持っていた様だ。ダイは多少迂闊だったが、あれは仕方がないと言っていいだろう。初見の相手がどんな技を持っているかなんて、予め知る事は不可能だからな。

「フフフッ、俺に傷を負わせよるとは……。流石は、“アバンの使徒”と言ったところか、大した小僧だ……」

「ぐっ……」

 麻痺した身体を懸命に動かし、剣に手を伸ばそうとするダイ。そこへ、クロコダインがじりじりと歩み寄っていく。

「もうよせ……お前はよく戦った。俺は勇者を名乗る大人の戦士達と星の数ほど戦ったが、お前の方がよっぽど強かったぞ」

 それは何とも情けないな、大人の戦士たち……。

「少々惜しいが……今、楽にしてやる……!!」

 クロコダインが斧を振りかぶる。手出し無用もここまでか……そう思い、駆け出そうとした時――

「『メラミ』!!」

「むうッ!?」

 間合いの外に待機していたポップが『メラミ』を撃った。それを察知したクロコダインは、振り上げた斧で火球を振り払う。

「おのれ!邪魔を……!!」

 と、クロコダインがポップを睨み付けた瞬間――マァムが両手持ちで構えた“モノ”から光の弾を撃ち出した。

 倒れたダイに向かって――

「ええっ!?お、おいッ!どこ狙ってんだよ!?」

 ポップが血相変えて叫ぶが、光弾は吸い込まれるようにダイに向かって飛ぶ。

「き、気でも狂ったのか!?なんでダイを……!?」

「落ち着いてポップ!ほらっ!よく見なさい!!」

「えっ!?」

 ポップがダイの方を見たのと、光弾の着弾はほぼ同時だった。

 当たった弾は、ダイを包み込む様に輝く。すると、ダイの身体の火傷が消えていった。

「……動く!身体が動くぞ!」

 光が治まった時、さっきまで麻痺して動かなかったダイが起き上がった。

 どうやら、今のは麻痺回復呪文『キアリク』だったらしい。本来は対象に触れるか、至近距離で手を翳さなければかけられない呪文だが、マァムが手に持つあの銃の様な武器は呪文を遠距離に撃ち出す事ができる様だ。

「おのれッ!!」

 クロコダインが慌てて斬りかかる。だが、ダイは素早く剣を拾い、振り下ろされる斧と交差してクロコダインと間合いを取った。

「う、動きおった……」

 これでまた戦いは仕切り直しだな。ダイが『海波斬』を、クロコダインは『焼けつく息』を……どちらも切り札というべき技を見せてしまった。クロコダインの真空の斧には『海波斬』のカウンターがあり、ダイは『焼けつく息』で迂闊に接近できない。

 1対1の状況なら暫く硬直するところだが……こっちは4人、俺を除いても援護役が2人いる。

 つまり……この戦いの鍵になるのは、ポップとマァムだ。あいつらがパーティとしてやっていけるかどうか、もう少し様子を見ていることにしよう。



≪SIDE:ポップ≫


「い、一体、何がどうなってやがんだ……?」

 マァムがいきなり「何とかしてクロコダインの注意を逸らして!」とか言い出すから、取りあえず『メラミ』で奴の気を引いたら、今度はマァムが変な武器でダイを狙って何か撃ち出して、ダイが起き上がった……?

 何がなんだかさっぱり分かんねえ!

「『キアリク』よ」

「えっ?」

「麻痺を治す呪文『キアリク』を撃って、ダイを助けたのよ」

 マァムはそう言うと手に持ってた“何か”から、小さな筒状のもんを取り出した。

「これは魔弾銃といって、アバン先生が私にくれた鉄砲なの」

「鉄砲っ!?」

 聞いた事はある。確かベンガーナ辺りで少しだけ出回ってるっていう弓矢に替わる新しい飛び道具だ。

「これが鉄砲ってやつかぁ!へえ〜」

 実物見たのは初めてだ。アバン先生、こんなもんまで作ったんだ。

「本物の鉄砲は、火薬が詰まった弾を撃ち出すらしいんだけど……先生の魔弾銃は火薬の代わりに、魔法を撃ち出す事ができるのよ。この魔法の弾丸の中に、呪文を詰めてね!」

「そ、そっか!そういう事だったのかぁ!いや〜驚いたぜ!オレぁまたてっきり……」

 マァムの奴が敵に寝返ったかと――なぁんて。

ゴオオオオ!!!

「うッ!?」

 なんて事をマァムに内緒で考えた時、またさっきの風が吹き始めた!

「余計な邪魔が入ったが……多少生命を長らえただけよ!」

 クロコダインの野郎、またあの斧を……!

「だ、ダイーーッ!!」

 風に押されてる!しかもクロコダインの野郎、きっちり『海波斬』を警戒してやがる。あれじゃあ、ダイも動けねえ!

「……あの武器を何とか封じなくちゃ!」

 マァムの言う通りだけど……この風じゃオレ達も動けねえし、呪文だって奴に届かねえし、どうすりゃあ良いんだよ!?

「……そうだわ!ポップあなた、氷系呪文できる!?」

「お?おお、そりゃもおオレの『ヒャド』っていったら天下一品と評判で――」

「能書きはいいから早くこの弾丸に詰めてよっ!!」

ポイッ

「わっととっ!?つ、詰めるったって、どうやって……!?」

「先っぽの石に指を当てて呪文を唱えるのよ!!早くッ!!」

 なんかムカつく言い方だけど、クロコダインがダイにジリジリ迫ってる……!やるっきゃねえか!

「よ、よおしっ!『ヒャダルコ』!!」

 いつもなら冷気が出て敵を氷付けにするところだが、呪文の力が弾丸に吸い込まれた。

「ッ!」

 呪文が入った弾丸を、マァムがひったくり、魔弾銃にこめた。

 そして、マァムは魔弾銃を今度こそクロコダインに向ける。

「死ねいッ!!」

 クロコダインが一気に間合いを詰めて斧を振りかぶった――その瞬間!

「……ッ!」

 マァムが魔弾銃を撃った!

 撃ち出された『ヒャダルコ』がクロコダイン目掛けて……いや、クロコダインの斧目掛けて飛び、当たった。

「う!?オ、オオオオッ!?」

 クロコダインの斧が奴の腕ごと凍り付いた!いくら奴がとんでもない馬鹿力だとしても、暫く斧は使えねえ!

「たああああーーッ!!」

 ダイが飛んだ――!

「クロコダイン!これでも喰らえッ!!」

「くるかッ小僧……!!」

 クロコダインが持ち直してダイを見上げた――その時、ダイが眩しい光に包まれた。

「ウウウッ!?しまった……っ、夜明けか……!」

 戦ってる間に夜明けの時間になったんだ!

「あ、朝陽が目に……!!」

 良いぞ、上手い具合に朝日がクロコダインの目を眩ませた!!

「でやあああーーーッ!!!」

 ダイが全体重を掛けて剣を鎧の隙間からクロコダインの左首筋に突き立てた――!

「ぐああああッ!!?」

バキッ

「「あッ!?」」

 思わず出たオレの声とマァムの声が重なった。クロコダインが叫びながら倒れた瞬間、ダイの剣が半分くらいから折れちまったからだ。

 と、とにかく、クロコダインはやっつけたんだ!そう思ってダイに駆け寄ろうとした時――

「まだ気を緩めるなッ!クロコダインは死んじゃいないぞ!!」

「「「えッ!?」」」

 エイトの怒鳴り声で、オレとマァムは立ち止まり、ダイは折れた剣を捨てて腰のナイフを抜き、逆手に構える。

「グウウウッ……お、おのれぇぇ……!!」

「うぅ!?」

 オレは思わずブルッちまった……!

 エイトの言った通り、クロコダインの奴、立ち上がりやがった……それも、お、鬼みてぇな形相で……!



≪SIDE:OUT≫


「よ……よくもッ、よくも俺の身体に……いや!俺の戦士の誇りに傷をつけてくれたな!!」

 両目を血走らせ、首筋の出血を押さえながらクロコダインはダイを睨み付ける。尋常じゃない殺意と憎悪の目……睨まれたダイが、顔を青くしている。

「覚えていろよ、ダイ……!!エイトよりも先ずはお前だッ!!お前は俺の手で必ず殺す……!必ずだ……!!」

 ありったけの恨みを込めた言葉……奴は今まで、あそこまでの傷を負わせた経験がないと見た。ハドラーと似たタイプだな。

「ぬぅぅ……ッ、づあぁッ!!」

 奴は地面に闘気弾を叩き付け爆発を起こした。

「……逃げたか」

 爆煙が晴れた時、クロコダインの姿は無く、代わりに底が見えない穴があるだけ……恐らく、地中を掘り進んで移動する方法を持っているんだろう。

 まあ、何はともあれ中ボスかボス級のモンスターを撃退できたんだから、今回の戦闘は上々だ。

「お前達、中々やるじゃないか」

「エイト兄ちゃん」

「これなら、俺がいなくても大丈夫だったかもな」

「そんな事ないよ!兄ちゃんが見守ってくれてたから、オレ達戦えたんだ!」

 ふ、可愛らしい事を言う。

 だが……やや不安にも思う。俺がいなかったら戦えなかったのか?ってな。いや、考え過ぎだとは思うが……。

「まあ〜この世界一の魔法使いポップ様に掛かりゃあ、あ〜んなワニ野郎なんか軽い軽い〜♪」

「あんた、『メラ』と『ヒャド』使っただけじゃないの。しかも『メラ』は全部弾かれたし」

「な、何おう!?」

 マァムとポップが、何やら打ち解けた様だ。

 今はまだ粗削りだが、パーティの形は出来始めている。このまま成長していけば、魔王軍とも渡り合えるだろう。

 当分、俺はでしゃばらない方が良さそうだ。どうせ、そこらの雑魚モンスターをちょこちょこ倒したくらいじゃ、俺のレベルは上がりやしない。

 暫くはサポートに徹し、あいつらが死力を尽くしてどうにもならない場合には助ける……そして、ダイ達が一人前の勇者のパーティに成長した時、俺もそのパーティに入れてもらうとしよう。

 それまでは――

「ほら、こんな所でいつまでも即席夫婦漫才やってんな。早く村に帰るぞ」

「「だ、誰と誰が夫婦よ(だよ)ッ!!」」

「息ピッタリだ!アハハハハっ!!」

 この、まだ小さな“勇者の卵”達を見守っていよう。


 ダイ達パーティの初陣は勝利に終わり、俺達は揃ってネイル村への帰路に就いた――。



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