新しい仲間!僧侶戦士マァム!!の巻
クロコダインを撃退した俺達――と言っても戦ったのはほぼダイ・ポップ・マァムだが――ともかく、俺達4人はネイル村に引き上げてきた。戦っている間に、ほぼ徹夜してしまった……。
「おお!お前ら、無事だったか!」
村の入口で、剣を持ったロカさんが出迎えてくれた。
「父さん!村は大丈夫だった?」
「マァム、大丈夫だ。お前らが戦ってた奴の迫力にビビったのか、スライム1匹村には来なかった」
と、言った直後、何故かロカさんは視線を上に向けて頭を掻いた。
「あーいや、変なスライムなら1匹出たな……」
「変なスライム?」
マァムが尋ねると、ロカさんは頷く。
「ああ、モンスターにしては妙に愛嬌のある顔をした金ピカで羽の生えたスライムでな?ダイの荷物の中から飛び出してきたんだ」
「ええっ!?まさか、ゴメちゃん!?ね、ねえ!ロカおじさん!!そのスライム今どこ!?」
「あ?ああ、家でレイラが見てるが……」
「っ!!」
ロカさんが言うやいなや、ダイはマァムの家に駆けて行った。
「……なんだ?あのスライム、ダイの知り合いなのか?」
「ええ、人違い……いや、スライム違いでなければ……」
尋ねて来たロカさんにそう答えた俺だが、内心ではゴメだと確信していた。ゴメ以外に金ピカの羽があるスライムなんていないだろうし、ダイの荷物の中から出てきたんなら、もう間違いない。
あいつ、ダイと別れるのが嫌なもんで、荷物に紛れ込んでついて来やがったな……。
「とりあえず、俺達も行きましょう。ここで立ち話しててもしょうがないですから」
俺が促し、ロカさんと一緒にマァムの家へ向かった。
結論から言うと、やはりマァムの家にいたのはゴメだった。ついて来た理由は俺の想像通りだった事が、ダイの通訳により判明。
アバンさんの『マホカトール』で守られたデルムリン島を出ても凶暴化しなかった事をポップが不思議がっていたが、ダイの話によると島のモンスターが一時凶暴化した時も、ゴメだけは変わらず心優しいままだったという。
どうやらゴメは、他のモンスターとは根本的に何かが違う様だ。或いは、姿形こそスライムの一種だが、モンスターではないのかも知れない。真相は分からんが……。
ともあれ、今更ゴメを島に送り返す事も出来ず、凶暴化しないなら大丈夫だろうという事で、そのまま連れて行く事で話が決まった。
そして、家に戻って徹夜の疲れが出たのか、ダイ・ポップ・マァムの3人は部屋に行ってすぐに眠った。
俺は4、5日眠らなくても大丈夫な様に鍛えてあるから、久しぶりにレイラさんのパデキア畑の手入れを手伝わせてもらった。
戦士の休息、ってところだな――。
≪SIDE:バラン≫
私はブラス殿と共に、海に面した崖の上でディーノ達が旅立っていった方角を見つめていた。
「どうやらゴメもディーノ達について行ってしまった様ですな……」
「ええ、無事であってほしいものですがのう……」
ディーノ達が旅立った後、いくら待っても姿を現さないゴメを、モンスター達にも手伝ってもらい島中探し回ったが、何日経っても一向に見つからなかった。流石に、島にいないと判断する以外になかった。
「まあ、大丈夫でしょう。ゴメは、普通のモンスターとはどこか違う様に感じましたから」
「そうだといいんですが……」
私が言った事は気休めではなく事実――ゴメからは、普通のモンスターとは違う……透き通った湖の様な、何か独特の雰囲気があった。思い返せば、アバン殿が魔法陣を敷く前にモンスター達が凶暴化した際も、あの子だけは心を保ったままだった。
大魔王の邪悪な意志を受け付けない、何かがゴメにはあるのだろうと、私は思う。
「さあ、ブラス殿。そろそろ昼食の時間です。戻りましょう」
「そうですな」
と、家に戻ろうとした時――
「ッ!何奴ッ!?」
邪悪な妖気を感じ、私は背中の真魔剛竜剣を抜き、妖気の出所と思しき宙に向けて斬撃を放った!
『キヒィッ!?』
年老いた男だと思われる甲高い悲鳴がどこからともなく響いてくる。
「ま、まさか、魔王軍……!?バ、バカなっ!?この島はアバン殿が残してくれた魔法陣で守られているはず!あのハドラーでさえ、凄まじい衝撃と共に打ち破ったのに……音も立てずに入って来るなど……!」
ブラス殿はそう狼狽えて言うが、この魔法陣も『マホカトール』という呪文によるものである以上、呪法や魔術に精通する者であればすり抜ける事も不可能ではないだろう。
「……何者か知らんが、警告する。何もせずこの島を出て行くならば良し……さもなくば、今度は確実に斬って捨てる。先程の様に、“ワザと”外したりはせんぞ……?」
『くッ……!』
悔しげな声が短く響いた後、妖気が遠ざかり、やがて消えて行った……。
「……去ったか」
「っ……ふうぅぅ……肝が冷えたわい。しかし、何故今更、この島に魔王軍が……?」
「恐らく、人質でも確保しようと考えたのでしょう。エイトを倒す為に……」
人質に関しては予想はしていたが、こうも早く行動に移すとは、少々驚かされた。
「な、なんと!?で、では、もしやソアラ殿の身にも危機が……!?バラン殿!すぐに助けに行かねば!!」
焦った様子のブラス殿だが、私は首を横に振って、剣を鞘に納める。
「心配無用ですよ、ブラス殿」
「な、何故です!?」
「ソアラには、ラーハルトが付いています」
今のラーハルトならば、仮に先程の気配の者であっても苦もなく撃退できる。
≪SIDE:ラーハルト≫
「ひ、ヒィィ……!?た、助け……!」
「問答無用ッ!受けろ!!我が最強の一撃――『ハーケンディストール』!!」
「ギヤアアァァァァァッッ!!」
『ハーケンディストール』――俺の最大の武器である“スピード”を極限まで発揮し、高速で振り抜いた槍の一閃で敵を両断する。バラン様やエイトさんとの修行の末に編み出した、このラーハルト最強の必殺技だ。
今倒したのは、不届きにもソアラ様を攫い、エイトさんを倒す為の人質にせんとした魔王軍の薄汚い刺客――頭に無数の蛇が生えた魔族……賢しげに自分の名を名乗っていたが、不届きな雑魚の名前など覚える気はない。
頭から真っ二つにしてやると、その肉体はボコボコと泡立つように溶けて消えて行った。最初から最後まで汚い奴だ……。
「ラーハルト!大丈夫!?怪我はない!?」
「ソアラ様、心配ご無用。このラーハルト、この程度の相手に傷を負うほど、弱くはありません。ご安心ください」
流石はバラン様の奥方様にして、ディーノ様のお母上……聖母の如く、お優しい。
そんなソアラ様を、エイトさんを倒す為の人質にしようとは……魔王軍、なんと卑劣で汚い連中なのか!
この俺の目が黒い内は、ソアラ様やブラス長老、そしてこのデルムリン島に暮らす仲間達には、指一本触れさせんぞ!!
≪SIDE:????≫
「チィッ、しくじりおったか……!ベルドーサの役立たずめッ!」
ワシの名は“妖魔司教”ザボエラ――魔王軍6軍団の1つ『妖魔士団』の軍団長じゃ。
今、魔王軍では1人の人間が最優先抹殺対象として挙げられておる。その名は、冒険家エイト――我が軍団に属する“戦場の監視役”悪魔の目玉の情報によれば、あの魔軍司令ハドラー様にかなりの深手を負わせたという。
かつて魔王として君臨していたハドラー様を痛めつけるなど、並の人間では到底不可能じゃ。相応の実力の持ち主であるのは間違いない。
そのエイトが今、ロモス王宮を目指してラインリバー大陸に渡り、百獣魔団の軍団長・獣王クロコダインのテリトリーである『魔の森』におる。
クロコダインの奴は既に、ハドラー様の命を受けて既に一戦交えたらしい。その上、クロコダインめ……エイトではなく、訳の分からん小僧どもに手傷を負わされて逃げ帰ったという。
悪魔の目玉の情報を逸早く手に入れたワシは、それを出世のチャンスと見た。
馬鹿力しか能の無い間抜けのクロコダインでは、恐らくエイトには勝てまい……。実際、エイト以外の小僧に手傷を負わされる有り様じゃからのう。
そんなクロコダインにこのワシが必勝の策を授け、それで勝利すれば名軍師としての魔王軍内のワシの地位も上がろうというもの……。じゃからワシは、エイトがデルムリン島に住む鬼面道士ブラスと、バラン・ソアラという名の人間の夫婦と交流がある事を突き止め、いずれか1人を捕え、人質としてクロコダインに渡すつもりじゃった。
しかし……いざ、デルムリン島に出向いてみれば、ワシはただの人間だと思っていたバランに追い返され、念の為にと連れて来た部下の“幻夢魔道”ベルドーサは魔族の若造にアッサリと敗北……。
人質の確保には失敗……手駒の1つは失う……散々じゃ。
不幸中の幸いは、死んだのが手駒の1つでワシではなかった事と、独断で行った行動故にワシの失態が魔王軍の誰にも知られずに済んだ事じゃろう。
まあ、良い……物は考え様じゃ。クロコダインが倒されれば、エイトらの魔王軍における危険度は更に増す。そこで、他の軍団長の誰かでも利用してエイトを葬れば、出世は思うがままじゃ。
「しばらくは、高みの見物と洒落込むとするかのう……キヒヒヒヒヒヒッ!」
焦る事はない……出世のチャンスなど、後に幾らでもあるわい。
≪SIDE:OUT≫
「なに?明日だと?」
テーブルを挟んで対面に座るロカさんがやや驚いた風に言った。
クロコダインを撃退して村に戻り、ゆっくり休んで昼頃には体力も回復した。その後ものんびりさせてもらい、夜になった。
そして、俺は明日ロモス城へ向けて出発する旨をロカさんに伝えた。
「そんなに急がなくてもいいじゃねえか」
「いえ、ダイ達とも話し合って出した結論なんです。元々、ゆっくりしてられる旅でもありませんし」
「けどよぉ……」
「それに、俺達がここにいるとまた魔王軍が攻めて来るかも知れませんから。長居は出来ません」
どうやっているのか知らないが、魔王軍は俺達の動向を把握しているらしい。ネイル村に入って1日も経たない内にクロコダインが襲ってきたのが、何よりの証拠だ。
1ヶ所に……それも守備力を持たない小さな村や町に長く留まるのは危険なんだ。
「そうか……。そういう事なら仕方ねえな……」
ロカさんは眉を顰め、手元のジョッキを煽る。
「プハァ!畜生め!身体さえまともに動きゃあ、俺もついて行ってやるのによぉ!」
そう言うロカさんは本当に悔しそうだ。
「その気持ちだけで十分ですよ、ロカさん。俺達に任せておいて下さい」
「おめえらは良くても、俺の気がすまねえんだよ」
中々、難しい人だ……。
「あなた、もうそのくらいにしなさい。エイト君、もう部屋に戻ってお休みなさい。明日は早いんでしょう?」
「レイラさん……はい、そうします」
母親みたいな事を言われて内心苦笑しつつ、俺は席を立つ。
「ロカさん、レイラさん、お休みなさい」
「おう」
「お休みなさい」
2人の返事を聞いてから、俺はダイ達が先に入っている部屋に引き上げた。
≪SIDE:マァム≫
「…………」
あたしは、自分の部屋の中で1人考えていた。
さっき、ダイ達が泊まる部屋に行ったら、ダイは明日村を出発すると言っていた。ロモスの王様を助けに行くんだって……。
エイトさんも、ダイも、ポップも、魔王軍と命懸けで戦おうとしている……。
あたしは、このままでいいのかしら……?
あたしだって、アバン先生に教えてもらった“アバンの使徒”なのに……、同じ“アバンの使徒”であるダイやポップが世界の平和の為に戦おうとしているのに……。
あたしも……行きたい。行って、みんなの手助けがしたい。
だけど、あたしまで行ってしまったら、この村に戦える人間が父さんだけになってしまう。戦えるといっても、父さんは足が不自由で、戦闘には限界がある。
ロモス城の警備の為に、村の男手が少なくなっている今、あたしまでいなくなってしまったら、その分、父さんに負担を掛ける事になる……。
「……アバン先生。あたし、どうしたら……?」
その夜……結局、あたしは答えを出す事が出来なかった……。
そして、次の日の朝早く……
「ロカさん、レイラさん、マァム。皆、お世話になりました」
村の出口で、旅支度をすっかり整えたエイトさん達が立っていて、父さんと母さんとあたしの他に、ミーナや長老様や村のみんなが見送りに来ている。
「エイト、ダイ、ポップ、頑張るんだぞ!俺の分まで、大魔王をブチのめしてやれ!」
「「「はい!」」」
「っと、そうだ。ダイ、お前、剣が折れちまっただろ?代わりに俺が昔使ってた剣をやるよ」
「わあ!おじさん、ありがとうっ!」
父さんが差し出した剣を、ダイは喜び勇んで受け取る。
「使い古しで悪ぃんだか、手入れはちゃんとやってあるからよ。次の剣が見つかるまで、そいつで間に合わせてくれや」
「凄い……なんか吸い込まれる感じがする……!」
ダイは父さんの剣を鞘から抜いて両手で持ちながらそう言った。確かあれは、父さんが現役時代に使ってた剣だったはず……。
「ロカさん、この剣は?なんだか、かなりの名剣に見えますが……」
エイトさんが驚いた様に、ダイが持つ剣を見て言った。
「ん?さあな、名前は知らねえ。現役時代、アバンとの旅の途中で立ち寄った村の武器屋で手に入れたんだ。最初はアバンが使ってたんだが、ハドラーとの最後の戦いでは俺が使ってたんだ」
「へえ……」
エイトさんが感心したように剣を見つめる。きっと、凄い剣なんだわ。
ダイが剣を鞘に納めて背中に背負うと、またあたし達に向き合う。すると、ミーナが前に進み出た。
「ゴメちゃん、バイバイ……」
「ピピィ〜……」
ミーナとゴメちゃんが寂しそうな顔でお別れを言う。昨日、家に来た時にすっかりゴメちゃんと仲良くなっちゃって、ずっと一緒に遊んでたものね。
「エイトおじちゃん、ダイお兄ちゃん、お仕事が終わったら必ずまたこの村に来てね!」
「ああ」
「きっとまた来るよ」
ミーナとの話を切っ掛けに、村のみんなもエイトさん達に声を掛け始める……。
「気をつけてな」
「頑張るんじゃぞ!」
そうして、みんなが一通り声を掛け終えた時、エイトさんがあたしの方を見た。
「マァム、世話になったな」
「マァム!色々、ありがとう!」
エイトさん、ダイ、ポップに見られると……あたしは昨日からの迷いを思い出してしまう。
「……ごめんね……。本当は、あたしもついて行きたいんだけど……」
「だったら行けばいいじゃねえか」
「えっ?」
突然の声に振り返ると、父さんと、あたしのハンマースピアとリュックを持った母さんが立っていた。
「父さん、母さん……?」
「マァム、行っておあげなさい」
「エイト君達の手助けをしてあげたいのでしょう?私達のことは構わず、お行きなさい」
「か、母さん、でも……!」
「マァム。どうせお前、『あたしが行っちゃったら父さんに負担が掛かっちゃう』とか考えてんだろ」
「と、父さん……!」
見抜かれてた……。父さんが呆れ顔であたしを見てる。
「ふぅ〜、全くお前って娘は……子供が生意気に親に気を遣うんじゃねえ!お前1人分の負担ぐらい、どうってことねえよ!元とは言えカール王国の騎士団長を務め、勇者のパーティーで戦士として活躍してた男なんだぞ?ネイル村の事は俺に任せて、お前はエイト達について行け!」
「で、でも……」
父さんはそう言うけど……父さんは足が……。
「大丈夫よ、マァム。父さんには、母さんがついてるわ」
「母さん!」
「私もね……15年前、傷付きながらも戦い続けていた父さんやアバン様を見かねて、村を飛び出してしまったのよ」
母さんも……?
「考えてみりゃ、俺も似た様なもんだな。魔王と戦いに行くアバンに加勢しようと、騎士団長の仕事放り出したもんな!」
と、父さんまで……!?
「まっ、要するにお前はそんな父さんと母さんの娘って事だ!しょうがねえって!がっはっはっはっ!!」
「っ、父さん……!母さん……!」
「そうだよ!行ってきなよ!!」
「今までお世話になったお返しだ。村は俺達で守るから!」
みんな……!
「ゴメちゃん達を助けてあげて!!マァムお姉ちゃん!」
ミーナ……!
「マァムや。村の事なら心配せんでもええ。儂がなんとか踏ん張ってみせるわい!」
「長老様……!」
「いやぁ、ダイ君達みたいな少年が頑張っておるのを見たら、儂もまだまだやらにゃあという気になってきたわい!」
「おいおい、爺さん。張り切るのはいいが、腰でもやってウチのカミさんの手間増やすのは勘弁してくれよ?」
「な、なんじゃと!?まだまだ若いもんには負けんぞ!!アッ!?あ、痛たたた……!!」
「ほら、言わんこっちゃねえ!」
「「「アハハハハハハ!!」」」
父さんと長老様のやり取りで、村のみんなが笑顔になる。
あたしは、なんて幸せなんだろう……。こんな素敵な父さんと母さんの娘に生まれてこられて……!こんな素敵な村で育ってこられて……全てが誇らしくて、嬉しくて、胸がいっぱいになる。
あたしは堪らず、父さんと母さんに抱き付いた。
「ありがとう……ありがとう!」
あたし……みんなのおかげでやっと決心できた。
「……しっかりやってきな」
「身体に気をつけてね……」
「うんっ!」
身体を離し、涙を拭って荷物を受け取り、エイトさん達に振り返る。
「エイトさん!ダイ!ポップ!あたしも、一緒に連れて行って!」
エイトさん達は――
「「「勿論!!」」」
揃って歓迎してくれた!
こうして、あたしはエイトさん達と一緒に世界に平和を取り戻す為、魔王軍と戦う旅に出た――。