百獣総進撃!!ロモス王国の危機!!の巻
≪SIDE:クロコダイン≫
「…………」
夜明けを間近に控えた時刻……俺は、崖の上から白み始める空を見ていた。
決戦の時が来た……。今より俺は、全ての慢心と油断を捨て、戦士の誇りを取り戻すべく戦いに赴く。
標的は、この俺に手傷を負わせたあのダイという小僧……いや、奴は小僧などとは呼ぶまい。
ダイは強い。そして、その強さはこれからどんどん成長していくだろう。
魔軍司令ハドラー殿の指令は、冒険家エイトの抹殺――だが、ダイとの決着を付けん内は指令は後回しだ。
「この俺の、戦士の意地に懸けて……必ずダイを討つッ!!」
出撃だ――!
「『グオオオォォォォーーーッッッ!!!』」
進軍を告げる俺の雄叫びを聞き付け、周辺に散る“百獣魔団”のモンスター共が集結してゆく。
やがてモンスター共は大群を成し、ロモスへ向けて進軍を開始する――。
「ゆけぇーーッッ!!百獣魔団の者共おぉーーッッ!!ロモスへ総攻撃だぁーーーッッ!!百獣総進撃だッ!そして一気にダイ達と決着を付けるッ!!」
地を爆走する者共、空を覆い尽くす者共――百獣魔団の総力、そしてこの“獣王”クロコダインの武人の誇りに懸けて、この一戦で必ずやダイとエイトを討ち取ってくれるッ!
「ウオオォーーーッッ!!」
空に雄叫びを放ち、1体の直属モンスターを呼び寄せる。
巨大な翼を羽ばたかせ、降りて来たのは怪鳥モンスターのガルーダ――俺が“百獣魔団”の軍団長になる以前からの忠実な部下だ。
『クワアァーー!!』
ガルーダはその強靭な鉤爪で俺の鎧の肩部分を掴み、俺を空へと持ち上げる。
「出て来い!ダイ!!エイト!!さもなくば……ロモス王国は今日で終わりだあッ!!」
貴様らの首、我が誉れとしてくれるわ――!!
≪SIDE:OUT≫
「……むッ!」
殺気を感じ、ベッドから飛び起きる!
急ぎ窓を開けて外の様子を窺うと、遠くの方から地鳴りが近付いてくるのが分かった。
更に、日の出間近の白んだ空には夥しい数の黒い点が見える。あれは全て、空を飛ぶモンスター共だ!
「ッ!起きろお前達ッ!!敵だッ!モンスター共が攻めて来たぞッ!!」
「「「ッ!?」」」
俺が怒鳴ると、驚いた顔でダイ達が飛び起きた。俺は“ふくろ”から竜神王シリーズの装備を取り出し身に付ける。
ドドドドド……!!!
来た!
装備を終える直前で、モンスターの足音が宿屋のすぐ前を通り過ぎる。
窓から見てみれば、マッドオックスやリカント、人面樹に暴れ猿、ライオンヘッドなどで構成されたモンスターの群れが一直線に町の道を駆け抜けて行く。
「クロコダインの百獣魔団だわ!!」
「そ、総攻撃をかけて来やがったぁ……っ!!」
ポップとマァムが窓からモンスターの群れを見て言う。
クロコダインめ……!俺達がロモスに入ったのを見越して、一気に勝負を掛けて来たな!
『『『『ひえええええっ!!?』』』』
部屋の外から情けなくも喧しい声が聞こえて来たと思ったら、次の瞬間には昨日の偽勇者共が部屋に押し寄せて来た。
「おっ、おいっ!な、なんなんだありゃあッ!!?」
地味なパジャマ姿の偽勇者が叫ぶ。
「魔王軍の百獣魔団だ!」
答えたのはダイだ。しかも、既にパプニカのナイフとロカさんの剣を背負って戦いの準備を進めている。
「ひゃっ、百獣魔団ッ!?」
「そ、そんなこと言ったって……今までこんな大群でモンスターが出てきた事なんてないわよおっ!?」
偽勇者に続いて叫んだのは、下品な黒のキャミソール姿の偽僧侶の女だった。
だが、こいつらに構ってる場合じゃない!ポップが言った様に、百獣魔団が総攻撃を仕掛けて来たなら、どこかに必ずクロコダインがいるはずだ。
ウオオオォォォーーーッ!!!
「っ!!」
この雄叫び……奴だ!
「皆!隠れろッ!!」
「「「!?」」」
ダイ達に促しつつ俺も壁の陰に隠れる。そして、そっと窓から空を窺うと……巨大な怪鳥ガルーダに掴まり空を飛ぶクロコダインがいた。幾らガルーダに掴まえられているとは言っても、まさか、あの巨体で空を飛ぶとは……!
『グワアァァァッッ!!行け行けえッ!!ロモス城を殲滅するのだあ!!!』
凄まじい気迫と共に、クロコダインは空を飛ぶモンスター共に混じってロモス城へ一直線に飛んで行った。
「クロコダインとモンスター共は、真っ直ぐ城を目指している!」
「ええっ!?くッ!」
俺の言葉を聞くや、ダイが部屋を飛び出していく。
「あっ!ダイ!待って!待ちなさい!!」
マァムが止めるが、ダイは止まらず駆けて行ってしまった。
ああなったダイは、もう誰にも止められない――俺も加勢に行こうとした、その時!
『うわあぁぁ!??』『きゃあああッッ!!?』
「っ!?」
悲鳴に気付き、再び窓から外を見てみると、町の方でも煙が上がり、数は多くないがモンスターが住民を襲っているのが見えた。
「拙い!モンスターが町に流れちまってる!!」
「「ええっ!?」」
これは放っておく訳にはいかない!
「仕方ない!マァム!ポップ!お前達はダイの加勢に行け!俺は町に流れたモンスターを片付けて、住民を助ける!!こっちが終わったら、俺もすぐに駆け付けるから!!――ハッ!!」
マァム達に手早く指示を出し、俺は宿屋の窓から飛び降りる。
「分かったわ!エイトさんも気をつけて!」
「お前達もな!」
マァムに軽く手を振り、俺は煙が上がる方へ急いだ――。
≪SIDE:マァム≫
エイトさんは凄いスピードで煙の上がった方へ走って行った。あたし達も急いでダイの加勢に行かなくちゃ――!
あたしは服を着替え、魔弾銃を手早く点検し、ハンマーメイスを握りしめる。
「早くダイの後を追わないと……!ポップ!行きましょう!!」
「ええ〜っ!?なっ、なっ、なんでだよぉ……!?」
こんな時だというのに、ポップは何故か行くのを嫌がる。
「さっきのクロコダインの目を見なかったの!?」
あの時見えたクロコダインの目は、決死の覚悟を決めた戦士の目だった。今のあいつは、ダイに傷を負わされた雪辱を晴らす事に全てを懸けている。ダイを、全力を出して倒すべき強敵として認識してしまっている。
この総攻撃でさえ、ダイやエイトさんを誘き出す為に仕掛けたのかもしれない。そこまでの覚悟を持ったクロコダインを相手に、ダイ1人じゃ命が危ない。
「あいつはダイを倒す事しか頭にないのよ!森で戦った時とは意気込みが違う!助けに行かなきゃ!!」
「おっ、オレ達ゃごめんだからな!?」
「まま、全くじゃっ!絶対敵わんと分かっとる相手と戦っても何の得にもならんわい……!」
「そうそう……!なんたって1番大事なお宝は“自分の命”よね〜〜?」
「まったくまったく!ナハハハハ……!」
あんた達なんかに最初から期待してないわよ――ヘラヘラ笑う偽勇者達に呆れていた、その時……。
「……ナハハハッ、お、オレもそれに賛成ーっ」
ポップが、信じられない事を口にした……。偽勇者達と同じ様に、ヘラヘラ笑いながら……。
「……ッ!!ポップ!!何ふざけてんのよッ!!早く行きましょうよッ!!」
頭に血が上ってしまって、あたしは思わずポップの胸倉を掴み上げていた。それに一瞬顔を強張らせたポップだけど、すぐにまた見ていて気分の悪くなる笑みを浮かべる。
「だ、だけどよ、クロコダインの強さは半端じゃないんだぜ……?行っても、むざむざ殺されに行く様なもんだよ……」
「だから……!あたし達が加勢しに行かなきゃ、ダイが殺されちゃうでしょ!!3人で力を合わせなきゃ……!!」
「し、心配いらねえよ……。ダイの奴ぁ、アバン先生の猛特訓をやり遂げたんだし……、エイトだって、町のモンスターを片付けたらすぐ加勢に行くだろうし……、死にゃあしねえよ……」
「…………ポップ……?」
一体、どうしたというの……?
どうして、仲間を助けに行くのをそんなに嫌がるの……?
同じ“アバンの使徒”なのに……。
アバン先生から、正義の心を教えてもらったはずなのに……。
「どうしたのよ……ポップ!?あなた、ダイの友達でしょ!?仲間でしょッ!!?ダイがどうなってもいいのッ!?」
あたしはポップを揺さぶり、彼に怒鳴りつけた。
きっと、ポップは慣れない実戦の空気に委縮してしまっているだけだ……。きっと、ポップはクロコダインの迫力に驚いてしまっただけだ……。
あたしの中に、そんな願望にも似た思いがあった……。だけど――
「うっ……うるせえなッ!!」
ポップは、あたしの手を跳ね退け……そして、言った。
「だ、大体、オレは魔王軍と戦おうなんてつもりは、元からなかったんだよ!!好きで戦ってきたんじゃねーんだッ!!」
「っ!!?」
「……そりゃあ、ダイは一緒に修行した仲間だけどよ……。あ、あいつに付き合ってたら、とんでもねえ敵と次々戦わなくちゃならねえんだぜ……!!巻き添え喰って、死にたかねえよッ!!」
聞きたくない言葉だった……。
言ってほしくない言葉だった……。
アバン先生から教えを受けた“アバンの使徒”である彼から、そんな言葉が出るなんて思いたくもなかった……。
「…………ッッ!!」
「がッ!?」
気が付けば、あたしはポップを殴り飛ばしていた――ポップは部屋の壁に激突し、壁板を破って倒れる。
「……うっ、い、痛ぇ〜……!」
あたしが殴った部分を押さえて、ポップは徐に起き上がって来る。
「てっ、てめえマァム……!?」
あたしを怒鳴りつけようとでも思ったのか、ポップは睨んで来たけど……何故かすぐに戸惑い顔になった。
でも、今のあたしには……ポップがどんな顔をしてるかなんて、どうでもよかった。
ただ……どうしようもなく……悲しい。
……悲しくて堪らない。
「……!ポップ……あなた、アバン先生から何を習ってきたの……?」
「……」
「アバン先生は……何の為に、あなたを自分の使徒に選んだと思ってるの……!?」
「っ……!?」
「……ダイもあなたも……2人とも先生の意志を受け継ぎ、世界に平和を取り戻す為に命を懸けて戦っている……、そう思ったからこそ、あたしもついて来たのに……。仲間になったのに……!」
「…………マァム」
「ッ……あんたなんか、最低よッ!!2度と顔も見たくないわッ!!!」
それ以上、ポップの顔を見ていられなかった。
あたしは部屋を飛び出し、宿を出て、戦いが始まり火の手が上がるロモス城へ走った――ダイに加勢する為に……。
「くっ……!」
ううん、違う……。
違わないけど、もっと大きな理由はジッとしているのが耐えられなかったから……。
とにかく身体を動かして、この悲しみを振り払いたかっただけ……。
「っ……あ、あたし……」
今頃気付いた……あたし、泣いてたんだ……。
「ぐ……!」
涙を拳のグローブで拭い、あたしは、ロモス城へ走り続けた――。