小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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ロモス攻防戦!!王国の命運を懸けて!!の巻



≪SIDE:クロコダイン≫


 ロモス城に百獣総進撃を掛けて30分程が経過した。

 我が百獣魔団のモンスター共は既に城門を突破し、ロモスの兵士共と戦闘を開始している。

『グワァッ!!』

「うわぁッ!?」「ぎゃあッ!?」

 相も変わらず弱い……。モンスター共も幾らか殺られはしたが、それでもロモス兵の方が損耗は大きい。

 このまま、ダイやエイトの出現を待たずして片が付いてしまいそうだ。

 それならそれでも構わんが、俺の標的はエイトであり、そしてエイト以上にダイだ。奴には、この首筋の傷の借りを返さねば、俺の気が治まらん。

「ふん……そろそろか」

 空を飛べるモンスター共が先行し、正面からも地を駆けるモンスター共がジワジワと城内に入りつつある。

 落城は時間の問題だ。俺も行くとしよう……!

「行けぇ!ガルーダッ!!」

『クワアッ!!』

 ガルーダが羽ばたき、ロモス城に向かって降下する。

 城の屋根が近付くが、勢いを緩める事なく降りる。俺の肉体に掛かれば、人間の建てた城の外壁など張りぼて同然――。

「ふんッ!」

 屋根と接触する瞬間、こちらから踏み付け砕く――住まう人間同様、脆い城だ。

 城内の広い空間――謁見の間に降り立つと、すぐに兵士10人に守られ、王冠とマントを身に付け髭を蓄えた老いた男が目に付く。

 奴こそがロモス王――この国の指導者だ。

「な、何者じゃっ!?」

「俺は魔王軍、百獣魔団長……クロコダイン!」

「「おのれ!!化け物ぉーーッ!!」」

 ロモス王を守っていた雑兵2人が、槍を振り上げて掛かって来る。身の程知らず共め。

「むんッ!」

「があッ!?」「ぐあッ!?」

 尾で軽く振り払っただけで雑兵供は軽く吹き飛び、支柱か壁に身体を打ち付け、そのまま倒れ伏す。

 弱い、弱過ぎる……。今程度の一撃、エイトならば軽く受け止め、ダイならば躱して俺に反撃してきただろう。

 やはり、この俺とまともに戦えるのはエイトかダイだけだ。エイト、ダイ、早く来い!

「ロモス王よ。俺はお前の命になど全く興味はない!だが、俺の標的をお誘き出す為に死んでもらわねばならん!」

「標的、だと……!?」

「恨むなら恨んでいいぞ。だが、これも武人の務め!覚悟しろッ!!」

 斧を構え、ロモス王に斬り掛かろうと踏み出す。だが、周りの雑兵供が王を庇う様に前に躍り出てきた。

「そうはさせんぞ!化け物めッ!!」

「我らロモス騎士団の誇りに懸けてッ!!」

「王様には指1本触れさせんッ!」

 声高に叫び、武器を俺に向けてくる雑兵……いや、ロモスの騎士達。

「騎士に、誇りか……」

 さっさとロモス王を始末して、ダイ達を待つつもりだったが……この俺を前にして臆する事なく威勢を保つ騎士達を見て気が変わった。

「よかろう。その気概に免じて、この“獣王”クロコダイン、武人として相手をしてやる!来いッ!!」

 奴等が騎士の誇りを懸けて挑んでくるというならば、俺もまた武人の誇りを持って受けて立たたねば、武人の名折れ――!

「「「「「うおぉぉぉーーッッ!!」」」」」」

「ぬんッ!」

 騎士達の剣・槍の攻撃を、斧で受け止め――

「カアァーーッッ!!」

 気合いと共に騎士諸共弾き飛ばす――!!

「「「「「うわぁぁッッ!!?」」」」」

 やはり、騎士と言ってもこの程度か……。倒れた騎士達を見て、俺はそう落胆し掛けた。

 だが――

「うぐ、ぐ……!な、なんのこれしき……!!」

 騎士の1人が剣を支えに、立ち上がってくる。

 それに続く様に、今弾き飛ばした騎士達が全員立ち上がったのだ。

「……何故、立ち上がる?倒れて死んだフリでもしておれば、命が助かったかも知れんぞ?」

 気がつけば、俺は立ち上がった騎士達にそんな事を尋ねていた。

「馬鹿に、するなッ!!」

 1人の騎士が叫ぶ。それに続き、他の騎士達も口々に叫び出す。

「我々は誇りあるロモスの騎士!!」

「主の為に命を懸けて戦うのは当たり前の事!!」

「主君に仇なす者は、断じて許しておけぬッ!!」

「例え、力及ばずとも……!!」

「「「「「この命ある限り戦うのみッッ!!!」」」」」

「……見事!!」

 俺は初めて、人間という存在に敬意を抱いた……。

 これまで俺は、人間など脆弱で詰まらん生き物だと思い、歯牙にもかけてこなかった。弱いから村や町、国という名の群れを作り、地上にのさばっているだけのくだらない種族だと……。

 だが、今、俺の目の前に立つ騎士達はどうだ?

 実力の差は明白だというのに、誰1人戦意を失う事なく、主君を守らんと雄々しく立っている。正に武人ではないか!

 ならば――!

「ならば俺も全身全霊で応えよう!!貴公らのその誇りにッ!!」

 戦士として、武人として、持てる限りの礼を尽くそうではないか!!



≪SIDE:OUT≫


「フッ!!」

『ギャアッ!?』

 暴れ猿を竜神王の剣で一閃――ロモスの城下町に流れたモンスターは、暴れ猿3匹、キャタピラー1匹、フロッガー2匹、スライム3匹と大した数ではなかった。

 だが、戦う力を持たない住民達には脅威に違いなく、最初の進撃の余波も合わせて怪我人が割りと多い。

 俺は剣を鞘に納め、怪我人の手当てに掛かる。

「ぁ、ぅぅ……!」

「待ってろ!すぐ直してやるぞ!『ベホマ』!」

 回復の光が、頭から血を流して倒れ、呻き声を上げた男を包む。

「ぅ……あ?き、傷が……治った!」

 一気に完治した男は飛び起き、痛みから解放されて喜び、笑顔を浮かべる。

「あ、ありがとう!おかげで助かったよ!」

「礼はいい。それより、他の怪我人を助けるのに協力してくれ。怪我人がいたら、向こうの教会に運んで欲しいんだ」

「ああ、分かった!他の動ける連中にも声を掛けるよ!」

「頼む!」

 男は顔の血糊を粗く拭うと、すぐに怪我人の救助に向かってくれた。

 俺はすぐに近くの怪我人を片っ端から治療していく――。

「『ベホマ』!」

「ぁ……い、痛くない……!」

「坊やぁ!」

「ママぁ!」

「『ベホマ』!」

「ぅぅ……お、おぉ、傷が、消えおった!」

「じいさん……!良かった、良かったよぉ……!」

「おぉ、ばあさんや……!無事じゃったか、良かった良かった……!」

「『ベホマ』!」

「ぐぅ……ん?痛みが、消えた……!」

「あなた!良かったぁ……!」

「おとうさん!うえぇ〜〜ん!!」

「お前達……!」


――――――
エイト
HP:818
MP:397
Lv:102
――――――

 近くにいて治療した怪我人は13人……もう見える範囲に怪我人はいなさそうだ。

「おおーーいっ!」

 と、そこへ、さっき治療した男が戻ってきた。

「あんた、ハァ、ハァ……探したよ!怪我人は粗方、教会に運んだぜ!今、神父様とシスター達が手当てしてる!」

「そうか、ご苦労さん!俺もすぐに行く!人数はどのくらいだ?」

「全部でざっと20人、その半分くらいが重傷で、気を失ってるヤツも結構いる!」

 急いだ方が良さそうだな。

「分かった!ありがとう!念の為、他に怪我人がいないかどうか見回ってくれ!」

「分かった!!」

 男とその場で別れ、俺は短距離の『ルーラ』で教会まで跳んだ――。



≪SIDE:ダイ≫


「ハァ、ハァ、ハァ!」

 お城までの道を走る。

 町の中はもうモンスターが通り過ぎた後ですぐに通り抜けられた。だけど、お城に近づくにつれて、兵士やモンスターの死体が増えていく……。

「ハァ、ハァ……くっ!」

 人間も、モンスターも……争い合って命を落としている。魔王軍としてロモス王国に攻め込んだりしなければ、人間もモンスターもお互いに殺し合ったりしなかったのに……!

 本当は森や山でひっそり暮らしていたモンスター達を、こんな凶暴にしてしまうなんて……大魔王バーン、許せない!

 だけど、今は戦うしかない!お城が攻め落とされて、ロモスの王様がクロコダインに殺されてしまったら……この国は魔王軍のものになってしまう。

 そんな事、させるもんか――!

 やがてお城の城壁が見えてきて、壊された城門をくぐり、戦いでボロボロになったお城の中へ入って行く。

「ハァ、ハァ、ハァ……!!」

 階段を駆け上がり、王様の部屋へ急ぐ。

『グワゥ!!』『ガアッ!!』

 階段の先を、リカントと豪傑熊が塞いでいる。

「どけどけぇー!!だありゃぁッ!!」

『ギャウッ!?』『グゲェッ!?』

 大勢ならともかく、たった2匹なら相手じゃない。通り抜け様に殴り飛ばし、オレは先を急ぐ。

 王様の部屋はもうすぐだ――速さを落とさず、全速力で走り続け、やがて王様の部屋に通じる扉が見えて来た。

バタンッ!

 勢いをそのままに扉を開ける。

 すると部屋の中には、倒れたロモスの騎士達と、その真ん中に立ち王様の襟を掴み上げたクロコダインがいた――。

「来たな、ダイ……!待ちかねたぞ!!」

「やめろッ!クロコダイン!!王様を放せッ!」

 オレはロカおじさんから貰った剣を構え、クロコダインを睨む。だけど……

「いいとも」

「え……?」

 クロコダインは何故か、あっさりと王様から手を放した。どうして……?

「さっさとダイの所へ行くがいい、ロモス王」

「う、ぐ……」

 王様は首元を押さえながら、クロコダインから離れてこっちに来る。オレも、クロコダインを警戒しつつ王様に歩み寄った。

「王様!」

「おお、ダイ……!本当に、ダイなのだな……!なんと、逞しい姿に……!」

 王様が懐かしそうにオレを見てくる。俺も懐かしい……ゴメちゃんが偽勇者でろりんに攫われた時以来だから。

 だけど、今は再会を喜んでる場合じゃない。

「王様、下がっていてください!」

 オレは再びクロコダインと向き合う。

「クロコダイン、どうして王様を素直に放したんだ?お前は、ロモス王国を征服するつもりじゃないのか?」

「確かに、それが魔王軍の軍団長としての俺の任務だ。だが……ダイ!今の俺は1人の武人として、お前と決着を付ける事が何より優先するのだッ!!」

 クロコダインが俺に斧を突き出してくる。

「ダイッ!俺と勝負しろ!!お前が勝てば、百獣魔団のモンスター共は退き、ロモス王国は救われる!だが、俺が勝てばロモスは滅び、この地は魔王軍の占領下に入る!!」

「なんだってッ!?」

「お前が倒れるか、俺が倒れるか……それがロモスの命運を分けるのだ!!」

「ッ!?」

 クロコダインのあの目……あれは、本気だ。命を、誇りを、自分の全てを懸けて、退く事を捨てた覚悟の目だ!

 だけどオレだって、退けない!負けられないのは同じだ!

 オレだって、エイト兄ちゃんとデルムリン島を旅立った時に覚悟を決めてる!魔王軍と大魔王バーンを倒し、父さんや母さん、ラーハルト、ブラスじいちゃん、島のみんなが平和に暮らせる世界を取り戻す――それが、オレが自分で決めた道だ!!

 ここで負ける訳にはいかない!!

「分かった、受けて立ってやるッ!勝負だ!!クロコダイン!!」

「そう来なくてはなッ!!ゆくぞッ!ダイ!!」

 ロモス王国の命運を懸けた、オレとクロコダインの一騎打ち――オレは剣を手に、クロコダインに踊り掛かった!



≪SIDE:OUT≫


「『ベホマ』!」

「おぉ……凄い、痛みも傷もスッと消えた!」

 今ので、教会に集められた怪我人は最後だ……ふぅ。

 怪我人は全部で24人――怪我の程度はバラバラだったが、あの男が言っていた通り、かなりの重傷者が15人もいた。軽傷の人は教会の神父さんやシスターに任せて、俺は重傷者全員に『ベホマ』を掛けた。

――――――
エイト
HP:818
MP:352
Lv:102
――――――

 『ベホマズン』で纏めて治せれば楽だったんだが、そう上手くはいかない。使えるようになって分かったんだが、俺の『ベホマズン』の効果が及ぶのは、俺を含めたパーティー内の仲間達に限られている。『破邪の洞窟』で手に入れた賢者の石も同じ……何十人もの“他人”を一気に回復する事は不可能なんだ。

 だから、重傷者をすぐに治そうと思ったら個別に『ベホマ』を掛けていくしかない。そうして呪文を連続で掛け続けるのは、MP的には問題なかったが精神的には結構疲れた。

 だが、疲れている場合じゃない。早く城に行って、ダイ達に加勢しなければ……!

 と、そこへ教会の神父さんがやってきた。

「ありがとうございました!あなたのおかげで、教会に運ばれた怪我人は全員助かりました!本当に、なんとお礼を言えば良いやら……!」

「ああ、気にしないで下さい。死者が出なくて何よりでした」

 何人か命が危なかった人もいたから、神父さんもそういう人達が助かってホッとしている様だ。

「しかし、扱える者が少なくなった『ベホマ』をこうも完璧に、それもあれだけの人数に掛け続けるとは……感服しました!もしや、あなたはどこかの国の、高位の賢者様では?」

「いえいえ!俺はただの冒険家です。賢者なんかじゃありませんよ」

 この世界における魔法使い・僧侶・賢者の平均レベルは、言っては悪いが低い……。『ベホマ』が使えるだけで僧侶にしろ賢者にしろ、かなりの尊敬を集めてしまうほどに……。

 まして、ゲームでは中堅の呪文として扱われてしまう『ベギラゴン』が最強クラスの破壊力を持つ超高等呪文として扱われていたり、デイン系を除けばほぼ最大の全体攻撃呪文だった『イオナズン』が次点となっていたり……呪文のランクも色々と違っている。

 神父さんが俺を賢者扱いするのも、そういう呪文事情の所為だ。

 と、そんな事をいってる場合じゃなかった!

「すいません!後をお任せしてもいいですか?俺は、城の方へ行かなければならないんで……!」

「おお、そうですな!引き留めてしまい、申し訳ありません!こちらの事はお任せください!」

「頼みます!」

 俺は踵を返し、教会から飛び出す。

 そのまま全速力で駆け、城へと向かった――。


 教会での治療の時、多くの人が城に勤める縁者の事を気にしていた……。

「ワシらの息子が、お城で兵士をやっておるんじゃ……!お願いじゃ、助けに行っとくれ!」

「私の夫が、お城に勤めているんです!お願いします!夫を助けてくださいっ!」

「おとうさんが兵隊さんなの!お城でモンスターと戦ってるんだっ……お願い、おとうさんを助けて!」

 俺が竜神王の剣を背負い、『ベホマ』で多くの人を治療していた為か、皆、口々に城の兵士達の救援を求めてきた。

 その時の不安そうで、必死な顔が頭に焼き付いている……。

 恐らく、城の方では今度こそ死者が大勢出ているだろう。俺は蘇生呪文『ザオラル』が一応使えるが、実は今日まで1度も使った事がない。『ザオラル』の蘇生確率は50%……俺のMP量と冒険心の常時スキル『MP消費量1/2』があれば、何度も繰り返す事が出来る。魔法の聖水も、幾つか持っているが……それでも多分、100回前後でMPが切れるだろう。

 単純計算で100人も救えない……。

 どれだけ救えるか……やってみなけりゃ分からないが、やるしかない!

 いざとなったら……!



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