それぞれの戦い!!秘技『獣王痛恨撃』炸裂!!!の巻
≪SIDE:クロコダイン≫
「うおぉぉぉッ!!!」
「ぬッ!!」
踊り掛かってくるダイ――俺は如何なる攻撃にも対応できる様、真空の斧を構える。しかし、ダイは予想外の行動に出た。
「っ!」
カシャン!
ダイは構えていた剣を背の鞘に納めた。
「なにぃッ!?」
何故、剣を鞘に納める!?
そう思った次の瞬間――
「はあぁぁぁっ!!」
ダイが右掌を上に向け、掲げる様な体勢を取る。
「『メラ』!!」
そして、その掌の上に炎の球を作り出した。
「呪文ッ……!?」
「たああッ!!」
ダイが『メラ』の火球を撃ってきた。しかし――軌道が妙だ。俺を狙っていない!?
「むううっ!!?」
ダイの『メラ』は俺ではなく、手前の床に着弾し、爆音と煙を上げて俺の視界を塞ぐ。これが狙いか――!
「……そこだッ!!」
煙の揺らぎと微かな音で察知し、斧を右に薙ぎ払う。
手応えはなかったが、煙が払われ、ダイの姿が露わになる。奴は俺の斧の一撃を屈んで躱し、剣を構え今にも飛び込んできそうな体勢を取っていた。
「やあぁぁッ!!」
予想通り、ダイは俺の懐に飛び込んでくる。斧で迎撃は間に合わん――だが!
ドゴッ!
「う……ぐっ!」
俺の膝蹴りが、ダイの胴に突き刺さる。
手にした武器を振るばかりが攻撃ではない。五体の全てを武器として扱うのが、戦士というもの――。
「ふんッ!!」
膝を素早く引き、宙に残されたダイに今度こそ斧の一撃を叩き込む。
「ぐぅッ!!?」
ダイが斧に弾かれて飛ぶ……。奴め、咄嗟に剣を間に滑り込ませて斧の直撃を防ぎおった。
「ッ……!」
床を数回転がり、すぐに立ち上がってくるダイ。大したダメージは負っておらん……奴の小さく軽い身体が幸いしたな。
しかし、下手をすれば剣ごと真っ二つになっていた所を、空中故に回避不能と悟るや、すぐさま剣を使っての防御……大人の戦士でも恐怖心や動揺で身体が硬直しそうなものを、あの瞬間で取れる最善の手を迷いなく実行する、あの判断力と決断力……とても子供とは思えん。
それに……ダイは数日前に戦った時より強くなっている。
数日前は剣のみしか使えなかったというのに、今は『メラ』を使った。この数日で会得したのか、それとも元々使えたのかは分からんが……どちらにせよ、今は呪文を戦いに組み込む機転と冷静さがある。大人の戦士ですら難しい事を、年の頃10かそこらのダイは平然とやってのけた。
“男子三日会わざれば刮目して見よ”と言うが……こいつが正にそれだ。強くなる……!恐るべきスピードで……!!このまま成長を続ければ、間違いなく魔王軍にとって最大の脅威になる!!
俺は今、真の勇者となるべき少年と戦っているのだ――!!
≪SIDE:ダイ≫
「く……!」
強い……!クロコダインは、前に魔の森で戦った時よりずっと強くなっている!
さっきの一撃は危なかった。もし反応するのが一瞬遅かったら……反応が間に合っても、武器が今のロカおじさんの剣じゃなく、前のエイト兄ちゃんのお古の剣だったら……俺は今頃、真っ二つにされていた。
それに、改めて戦って分かったけど、クロコダインは戦い方が巧い。スピードは間違いなくオレの方が上だけど、それでも攻めきれない。闇雲に攻めても、あいつにダメージを与える事はできないぞ……。
考えろ……考えるんだ!クロコダインを倒す方法を……!
「ダイーーッ!!」
「「「王様ーーッ!!」」」
その時、マァムとお城の兵士達が駆け込んで来た。
「マァム!」
「チッ……ガルーダッ!!」
「っ!?」
クロコダインが天井の穴に向かって叫ぶと、そこから1匹のガルーダが降りてきて、マァム達の方に向かう。
『クワァアーーッッ!!!』
「くッ!?」
「「「うわあッ!??」」」
ガルーダが、マァムや兵士達に襲い掛かる――!
「マァム!みんなぁッ!」
「他人の心配をしている暇などないぞ!ダイッ!!」
「はッ!?」
マァム達の方を向いていた一瞬の隙に、クロコダインが斧を振りかぶって迫っていた。
「ぬあああッ!!」
「くッ!!」
振り下ろされる斧を、後ろに跳んでなんとか躱す――少し服が斬れた……危ない所だった。
「お前の相手は、この俺だ!ダイッ!」
「クロコダイン……!」
「この勝負……誰にも邪魔はさせん!!」
駄目だ……クロコダインに隙がない。マァム達の方を気にしてたら、オレがやられてしまう……!
こうなったら、一刻も早くクロコダインを倒すしかない!
「ッ!いくぞぉッ!クロコダインッ!!」
俺は剣を構えて、クロコダインに向かって突っ込んだ――!
≪SIDE:マァム≫
『クワアァーーッッ!!』
「くッ!」
ガルーダの滑空する様な体当たりを横に跳んで避け、魔弾銃に『メラミ』の球を装填する。
『クワァーッ!!』
旋回してガルーダが戻って来る――今だわ!
「っ!」
引き金を引き、『メラミ』を撃ち出す。だけど――
『ッ!!』
「なっ!?」
ガルーダは空中で錐揉み回転し、直前で『メラミ』の火球を避けた。そのまま速度を落とさず、あたし達に向かってくる!
「くぅッ!?」
転がる様に横に跳んでギリギリ躱したけど、あのガルーダ……動きが早い!謁見の間がある程度広いとは言っても、ここは屋内……柱だってあるし、普通のモンスターならあんな自由自在に飛び回れるはずがない。
あのガルーダは、並のガルーダじゃない。クロコダインのあの巨体を持ち上げて飛べる“力”、この閉鎖空間でも巧みに飛び回り、こっちの攻撃を冷静に見極めて避ける“賢さ”と“素早さ”……厄介だわ。
これじゃ、ダイを援護する余裕がない……!
と、その時――
「ッ!いくぞぉッ!クロコダインッ!!」
視界の端に、ダイが剣を構えてクロコダインに突っ込んでいく姿が見えた。そして、その顔に“焦り”が浮かんでいるのも。
「っ!いけない!」
ダイはきっと、あたし達を助けなければと勝負を焦っている。焦れば動きが雑になり、隙が出来る。
クロコダインはそんなに甘い相手じゃない。少しでも隙を見せれば、確実にそこを突いてくる!
「ダイッ!ダメぇーーッ!!」
あたしはダイに踏みとどまる様に叫んだ。だけどこの時、咄嗟の事であたしも焦っていた。
自分に敵が迫っている事を忘れてしまう程に――。
『クワアァーーーッッ!!』
「ッ!?しまっ――」
しまった――そう言い掛けた瞬間、私はガルーダの翼に打たれ、宙に弾き飛ばされていた。
「がはッ!!?」
強かに柱に打ちつけられ、肺の中の空気が一気に外に出る。
「う、ぐ……!」
痛みと苦しさは感じるのに、目の前が霞んでいく……!
あたしは……ダイを……ダイを、援護する為に、来た……はず、なのに……。
「ぅ……ポッ……プ……」
≪SIDE:ダイ≫
「っ!?マァム!!」
マァムが俺に何かを叫んだのが聞こえて、そっちを見た時――マァムがガルーダに弾き飛ばされ、広間の柱に打ちつけられた。
「カアァーーーーッ!!」
「はッ!?」
しまった――そう思った時、俺はクロコダインの口から吐き出された焼けつく息を浴びせられてしまっていた。
「うわぁーッ!?」
魔の森でも受けた焼けつく息……全身が焼ける様に熱く、身体が麻痺して動けない……!
「う、ぐ……ち、ちく……しょう……!」
2度も同じ手にやられるなんて……!
「他人の心配をしている暇はないと言ったはずだぞ」
クロコダインが見下ろしてくる。
「仲間の危機に勝負を焦ったな、ダイ。皮肉にも、それが結果として仲間の焦りを誘い、勝敗を決める事になった」
「……ッ!」
そうだ……!マァムを助けなきゃ、ってオレは焦って、クロコダイン相手に早く勝負を決めようとしてしまったんだ……!
さっきマァムが叫んだのは、オレが焦っていた事がマァムには分かったからだ。その所為で、マァムが……!
オレは……なんて間抜けなんだ……!!
「く……くそぉ……!」
悔しい……!仲間を守るどころか、危険な目に……!!
オレは、なんて未熟なんだ……!!
≪SIDE:クロコダイン≫
俺の焼けつく息で麻痺したダイは、固く閉じた目から涙を流した。
己の不覚への悔し涙か……見るに堪えん
「それ以上苦しまぬ様……ひと思いに葬ってやる。この“獣王”クロコダイン、最強の秘技でな!!」
呆気ない幕切れではあるが、今がまたとない好機であるのは事実――この機は逃さん!
「ぬうぅぅッッ!!かあぁぁーーッッッ!!!」
右腕に全闘気を集中し、敵を粉砕する闘気の渦と化して放つ……“獣王”クロコダイン最大最強の秘技――受けろ!ダイッ!
「『獣王痛恨撃』ッッ!!!」
次の瞬間――閃光が城内を包み、俺の掌から放たれた闘気流が全てを薙払う。
広間にいた全ての敵を衝撃で吹き飛ばし、床を削り、壁を突き破り、轟音が響き渡る。
「ハァ……ハァ……ハァ……!」
やはり『獣王痛恨撃』は、エネルギーの消耗が激しい……。全身全霊を傾けた事もあり、かなり体力を消耗してしまった。
だが――
「……勝った……!」
やがて煙が晴れ、外の光が壁の穴から入り込み、広間の様子が露わになる……。
この場に立っているのは――この俺ただ1人だ。
≪SIDE:OUT≫
「な、なんだ!?」
ロモス城が建つ丘の中腹辺りで、突如鳴り響いた轟音に俺は足を止めた。
あんな音を立てる程の事態……多分、ダイ達とクロコダインの死闘の音だとは思うが、あれほどの轟音を上げる技や呪文は、ダイもポップもマァムも使えないはずだ。
という事は、今のはクロコダインの仕業……奴が大技を繰り出した音という事に……。
「……まさか……?」
一瞬浮かんだ最悪のイメージ――俺はすぐに頭を振り、そのイメージを払う。
そんなはずはない。幾らクロコダインが強敵とはいえ、ダイ達が力を合わせて戦えば、簡単に負けたりはしない!
俺は、滲み出る不安を押し殺し、再び走り出す。
あいつらを信じて、俺は俺にしか出来ない事をやる――。
「っ!?」
ロモスの城門の前まで来ると凄惨な光景が広がる。
兵士とモンスターの亡骸がそこかしこに横たわる様は、まるで地獄絵図だ……。15年前、ハドラーの軍団に攻め滅ぼされた町や村を思い出す。
ざっと見渡した限りでも、息絶えた兵士は軽く100人を越えている。この時点で俺1人のMPじゃ、全員を助ける事はできないという事だ。
「……やるしかない」
MPで足りない分は……“生命”で補う――10年前、『破邪の洞窟』で“時の秘法”を会得した時、その副産物の様な形で、ある技術を身に付けた。
それは、“己の生命力をMPに変換する”技術――HPをMPに換えると言い換えると分かり易いかもしれないが、実際はそんな単純なものじゃない。
『ストップ』にしろ『リバース』にしろ、“時の秘法”がいずれも限界を越えて使うと身体に負担を掛け、命を縮めるリスクがある。だが、そのリスクは言い換えれば、生命力が持つ限りはMPの限界を越えても使う事ができるという事ではないか?
そう考えた俺は、1度だけ、興味本位で試した事がある……『タイムリバース』をMPが切れても維持し続け、それで俺にどういう影響が出るのかと……。
結果だけ言うと、俺の考えは一部正しかった。現在の俺の限界――『タイムリバース』19秒を越えて、対象の時間を巻き戻す事には成功した。しかし、リミットである19秒を越えてから、俺は急に脱力感に襲われた。
すぐに呪文を解除したおかげで、大事には至らなかったが……感覚に戸惑った俺は、しばらく息を吐きながらその場に座り込んでしまった。後でコマンド画面で確認したところ、やはりMPが0になった後の不足分のHPが減っていた。
数値にすれば大した値ではない。だが、実際に身体に感じたあの脱力感は、単純なHPの減少だけが原因とは思えない。
きっと、確認出来るHPとはまた別のもの……もっと根源的な“何か”が減っていたに違いない。命を縮めるとは、きっとそういう事なんだろう。
それを理解した時、俺は “生命力をMPに変換する技術”を身に付けていた。
危険だと封印していた技術だが……その技術が、今ここで役に立つ――。
「……必ず助ける!」
倒れた兵士達には、その無事を祈り、帰りを待つ人達がいる。俺の命を少々削ったぐらいで、そんな大勢の命が救えるなら安いものだ。
「生き返ってくれ……『ザオラル』!!」
俺は早速、息絶えた兵士に駆け寄り、その身体に両手を置き、呪文を唱えて蘇生を開始した――。