小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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立ち上がれポップ!一欠片の勇気を持って!!の巻



≪SIDE:ポップ≫


「……なんだったんだ……!?さっきの物凄ぇ音は……?」

 窓から外を見れば、町の騒ぎは収まってる。まだ、城の方では煙が上がってるから、戦いは続いてると思う。

 ついさっき、物凄ぇ地響きと爆発音が聞こえてきた……それも、城の方からだ。

「まさか……ダイ達が、やられちまったのか……!?」

 て、オレは何を考えてんだ!

「関係ねえ……関係ねえさ!!もう、あいつらが死のうが生きようが……オレの知ったこっちゃねえんだ……!!」

 思わず壁を殴り付ける。

 マァムにも言ったけど……オレは元々、魔王軍と戦おうなんてつもりはなかったんだ。

 アバン先生に弟子入りしたのだって、オレの実家の武器屋に入ろうとした強盗を、偶然通りかかったアバン先生が倒してくれて、その姿がカッコよくって、あの人について行きたいって思っただけだし……。

 そりゃあ、アバン先生に教わってく内に……もしかしたら、俺も誰かを守れる正義の味方になれるかも知れない。アバン先生みたいに、困ってる誰かを助けてやれるヒーローになれるかも知れない……なりたいって、そんな風に思う様にはなった。

 だけど、痛かったり、辛かったりするのは嫌だし……何より、死ぬのは絶対に嫌だ。

 ダイ達の事が、どうでもいいなんて……本当は思わねえ。だけど……。

「……オレなんかが行ったって、あのクロコダイン相手じゃ何もできねえ……。ぶっ殺されちまうだけだッ!」

 死にたくねえよ……。死ぬのは怖ぇよ……!

「ホッホッホッホッ……!」

「っ!?だっ、誰だっ!?」

 突然聞こえてきた笑い声に振り向くと、さっきオレがマァムにぶん殴られた時にぶつかって出来た穴から1人の人影が入ってきた。

「お邪魔するよ……」

 現れたのは、くすんだ緑色の三角帽子とローブを着た胡散臭い顔の爺さんだった。

「な、なんだ……てめえ、あの偽勇者の一味の魔法使いじゃねえか……。たしか、まぞっほとか言ったっけ?」

「ホッホッホッ」

 とっくに逃げ出したと思ってたのに、まだこの宿にいたのか……。

「なにしてんだよ、逃げねえのか?」

「生憎と、みんなが逃げてからがワシらの仕事でのう」

「んん?」

 まぞっほは、両手に抱えた何かをテーブルの上に広げた。

「あ、ああっ!?そ、それは……!」

 奴が広げたのは、ゴールドやら装飾の付いた短剣やら貴金属の装飾品やら……多分、宿の他の客がモンスターの襲撃の時に慌てて逃げて置き去りにした代物だ。

「ホッホッホッ、逃げた皆さんが置いていった物をありがたく頂戴する……ま、言ってみりゃあ廃品回収じゃな!」

「ケッ、何言ってやがんだ!そういうのは、火事場ドロボーって言うんだよ!!」

 呆れた爺だぜ、勇者のパーティーを騙って人を騙した挙句は、堂々と火事場ドロボーかよ……。

「そうとも言うかな」

 悪びれもせずにそう言うと、爺さんは倒れた椅子を起こして座った。こんな所で、金勘定でもする気か?

「なあ、お若いの?」

「なんだよ……」

「どうじゃ?ワシらの仲間に入らんか?」

「なっ、なんだとぉっ!?」

 まぞっほの爺さんの思いも寄らなかった提案に、オレは思わず素っ頓狂な声を上げちまった。

「中々、見所がありそうな顔をしとるぞ?お前……」

 じろりと見てくる爺さん。何が『見所がありそう』だ!

「ケッ!冗談じゃねえや!いいか!?」

 オレは懐から、アバン先生から貰ったネックレス『アバンのしるし』を取り出して、爺さんに見せつける。

「オレはなぁ!かつて魔王を倒した勇者アバンの弟子なんだぞ!」

「ほう!勇者アバンの……!」

 へっ、ちったあ驚いたか!

「こいつはな、アバン先生が卒業の証にくれたペンダントなんだよ。てめえらみたいな小悪党と、一緒にすんじゃねえよっ!」

「……ほお〜、ワシには全く変わらん様に見えるがのう……」

「なっ!?なんだとぉッ!!」

 オレは頭に来て爺さんに詰め寄る。

 だけど、爺さんはさっきまでと違う妙に迫力のある目付きで見てきて、オレは思わず止まっちまった。

「仲間を見捨てる様な者でも務まるのかね?かの有名な“アバンの使徒”というのは……」

「う……ッ!?」

 頭をぶん殴られた様な気がした……。

「…………」

 オレは、爺さんに何も言い返せなかった。言い返せる訳がなかった……だってよ、俺がダイやマァムの事を見捨てたのは、事実だから……。

 万が一、ここにアバン先生がいたら……きっと、ガッカリする。きっと……オレは、見放されちまう。

 そう思うと、急に『アバンのしるし』が重たく感じる……。

 だけど……さっき見た、あのクロコダインが怖くって……戦ったら殺されちまう、って思ったら……どうしても戦いたくなくて……死にたくなくて……。

「……どれ、お前の仲間がどうなっとるか……ワシが水晶球で見せてやろう」

 そう言って、まぞっほの爺さんはローブの懐から水晶球を取り出した。

 水晶球が光り、その中に映像が浮かぶ――。

「ああッ!?」

 映ったのは、ボロボロに崩れた城の床に倒れて動かないダイと……そのダイににじり寄るクロコダインの姿だった。

「まさか……ダイが、やられた……!?」

 アバン先生の猛特訓をやり遂げて、アバン先生にも認められた……あのダイが!?

 そうしている間にも、クロコダインがダイに迫る――!

「危ねえ!!マァムは……マァムは何やってんだよっ!?」

 オレが叫ぶと、答える様に水晶球の映像が変わり、マァムの姿が映る。

「ま、マァムッ!!?」

 マァムは広間の柱の下で、力なく横たわっていた。マァムまで……!

「あ!そうだっ、エイトは!?エイトはどうしたんだよッ!?」

 また水晶球の映像が変わり、エイトが映る。

 エイトは、城の外で横たわるロモスの兵士に手を当て、何かの呪文を使っていた……。

「ほおっ!こいつは驚いた……!この若者が使っとるのは、『ザオラル』じゃな」

「ざ、『ザオラル』って、死んだ人間を生き返らせるっていう……あの有名な……!?」

「うむ……」

 まぞっほの爺さんが頷く。

「熟練した僧侶や賢者でも、その蘇生確率は50%というが……おお!生き返った様じゃな!」

 水晶球の中で、さっきまで目を閉じて横たわっていたロモスの兵士が目を覚まして起き上がる様子が映っている。

「凄ぇ……」

 エイトはこうやって、城の外でモンスターと戦って命を落とした兵士達を救っているんだ。

 だから、ダイ達の援護に向かえないんだ。いや、それ以上に……きっとエイトは信じているんだ。ダイを、マァムを、そして……オレを……!

 オレ達が“3人”でクロコダインに立ち向かっていると、思っているんだ。だから、エイトは外で命を落とした兵士達を助ける事に集中している。

 みんな、自分に出来る事を必死にやっているっていうのに……オレは……オレは……!

「ち……畜生……!!」

 最初からマァムと一緒に、ダイの加勢に行ってれば……まだ違う結果になったかもしれない!オレが、臆病風に吹かれなければ……!

 だけど……今からオレ1人で行っても……。

「勇者とは……勇気ある者ッ!!」

「えっ!?」

 急に聞こえてきた鋭い声に驚いて顔を上げると、まぞっほの爺さんが立ち上がり、さっきよりも迫力のある表情でオレを見ていた。

「そして、真の勇気とは打算なきものッ!!相手の強さによって出したり引っ込めたりするのは、本当の勇気じゃないッ!!!」

「ッ!!」

 勇気……。

「……なんてな」

 まぞっほの爺さんは、息を吐き、軽く笑うと元の表情に戻って椅子に座り直した。

「ワシの台詞じゃないぞ。ワシに魔法を教えてくれた師匠がよく言っとった言葉じゃ」

「師匠……?」

「……ワシもな、若い頃は正義の魔法使いになりたくて、修行しとったんじゃよ」

 そう語る爺さんの顔は、後悔している様な表情だ……。

「だけど、あかんかった……。自分より強いモンスターに出会うと……どうしても、ふんばれなくてのぉ……。仲間を見捨てて逃げるなんてザラじゃった……おかげで今は、こんな有り様じゃ……」

「爺さん……」

「お前さんを見とると、昔の自分を見とる様で、放っておけん気になってしまってのぉ……。ちと、お節介をしに来たんじゃよ。ホッホッホッ!」

 爺さんは徐に立ち上がると、オレの前にやって来て、オレの肩に手を置く。

「世の中には“人間にはそれぞれ役割がある”なんてことを言う奴が時々おるが……ワシは、それは違うと思っとる。初めから役割なんぞ決まっておらん。このワシだって、“あの時もう少し勇気を持っていれば”と悔やむ事は何度もある……。そしたら、もっと違う人間になっておったかも知れん。それぞれの状況で、どんな選択をしていくかで、人間は決まっていくんじゃ……」

 爺さんの言葉が、胸に染みてくるようだ……。

 それぞれの状況で、どんな選択をしていくか……今の俺は、ダイやマァムの危機を見た。エイトの懸命な姿を見た。この状況で、一体どんな選択をする?

 自分の命を守る為に、仲間を見捨て逃げる――違う。それをやっちまったら、オレはもう2度と引き返せない……もう、“アバンの使徒”を名乗れない。

『私は、あなたを信じています』

 アバン先生……!

「さあ、行くがいい。まだ間に合うかも知れん。胸に、勇気の欠片が一粒でも残っている内に……!」

 勇気の欠片……真の勇気とは、打算なきもの……!

「……爺さん、ありがとう!」

「うむ」

 まぞっほの爺さんは、そう笑って頷いた。

 オレはベッドに置きっ放しにしていたマジカルブースター握りしめて、宿屋を飛び出す――一刻も早く、ダイ達……仲間の所へ駆け付ける為に!

「ハァ!ハァ!ハァ!ハァ!」

 ロモスの城下町を越えて、丘の上に立つ城を目指して走る。考えてみれば、逃げる以外の事でこんなに必死に走るのは、生まれて初めてかも知れない……オレは、それぐらい情けない男なんだ。

『あなた、ダイの友達でしょ!?仲間でしょッ!!?ダイがどうなってもいいのッ!?』

 あの時……ダイの加勢に行くのを躊躇った俺に向けられた、マァムの顔と言葉が頭に浮かぶ。

 今だから分かる……あの時、マァムは悲しい顔をしていた。オレがそうさせたんだ――。

『うっ……うるせえなッ!!』

 オレは、マァムの必死な手を跳ね退けて……自分勝手に喚き散らした。

『巻き添え喰って、死にたかねえよッ!!』

『ッ……あんたなんか、最低よッ!!2度と顔も見たくないわッ!!!』

 マァムの言う通りだ……最低だよ、オレは……!!

 自分のことばかり考えて……逃げ回ってばかりいて……!!仲間のダイやエイトやマァムに、あんな事を言うなんて……。

 今までの自分を思い返すと……情けなくて涙が出る。自分をぶん殴ってやりてぇ……!!

 アバン先生も、エイトも、ダイも、マァムも……今までずっと、みんな自分に出来る必死にやってきたのに……!!

「アバン先生……!」

 ごめんなさい、アバン先生……そして、ありがとうございます!こんな出来の悪い弟子を、今まで見捨てず、ずっと教えてくれて……オレは、きっと最低の弟子でした。

 だけど……これからは違う!

 もうオレは……逃げたりはしない!!

 一欠片の勇気ぐらい……オレにだってあるぞッ!!

「ハァッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」

 城門を抜け、戦いが続く中庭を抜け、城内に入り、階段を駆け上がる――間に合ってくれ!

「……今度こそ、本当に終わる。この一撃でッ!!」

「っ!」

 クロコダインの声だ!

「さらばだ……ダイよ!!」

「待てぇーーッッ!!!」

 オレはできる限りの大声で叫んだ。喉が潰れても構わなかった――それでクロコダインを止められるなら。

「むッ!?」

 広間に駆け込むと、狙い通りクロコダインはオレに気を取られて、振り上げていた斧を止めた。

「ゼェ……ゼェ……」

 ここまで全力で走ってきて、今の大声もあって、かなり息が切れる。胸が苦しい……けど、ダイやマァムはもっと苦しい思いをしたんだ。それに比べりゃあ、何だこのくらい!

「なんだ……誰かと思えば、あの時の魔法使いか……!」

 クロコダインは、オレに気付くと詰まらなそうにそう言った。

「今更のこのこ現れおって……おのれ程度が出てきた所で何が出来るッ!?邪魔だッ!!失せろぉッ!!!」

「っ!?」

 こ、怖い……なんて迫力だ。身体が震えてきやがる……!だけど、ここで逃げたらオレは終わりだ……!

 アバン先生……!先生の5分の1……いや、10分の1でいい……!!

 オレに、オレに勇気を与えて下さいっ……!!!

「ッ……許さねえ」

 震える足を踏ん張り、震える身体に力を入れ、オレは……クロコダインを睨みつける。

「!?なんだとっ?」

「オレの仲間を傷付ける奴は……絶対に!絶対に許さねえぞぉぉぉッ!!!」

 オレも、戦うんだ――!!



≪SIDE:OUT≫


「むぅぅ……!」

「…………かっ、はっ!?」

「っ!よし……!」

 蘇生成功――これで68人目だ。先程の爆発から大分経ったが、俺は今も、死者の蘇生処置を継続している。

「おおっ!やったぁ!」

「ピエールが息を吹き返したぞ!」

「よかったぁ……!!」

 周りでは、たった今、蘇生した兵士と同じ様に俺の『ザオラル』で生き返った兵士達が囲んでいる。生き返った兵士の内、半数は戦線に復帰しているが、残り半数は死者や負傷者の運搬と、襲ってくるモンスターの牽制に当たってもらっている。

 戦闘は今なお続いていて、緩々と死傷者も出続けている。悠長に死亡した兵士を安全な場所まで運んでいる暇がない為、見つけては『ザオラル』を掛け、生き返ったらその兵士にも簡単に説明して死者や重傷者を運んでもらう、という事を繰り返している。

 だが、思う様に生き返らず、呪文を繰り返し唱え続け、その上途中に運ばれて来た瀕死の兵士に回復呪文を掛けた事もあって、魔法の聖水も使い切り、MPも底を突いた……。

――――――
エイト
HP:688
MP:0
Lv:102
――――――

 ここまでの『ザオラル』成功率は6割といったところ……。

 それでもまだ、死者は俺の近くに集められただけで50人を超えている……。それでも徐々にだが、死者は確実に減っていっている。

 ここで音を上げる訳にはいかん――!

「はぁ、はぁ……彼の、介抱を頼む!」

「はいッ!」

 近くにいた兵士に、生き返らせたばかりの兵士を託し、次の兵士の蘇生に掛かる。

「っ……『ザオラル』ッ!!」

 生き返ってくれ!頼む!!――俺はそう祈りながら、死亡した兵士に手を置き、呪文を唱えた。



-31-
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