小説『ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方』
作者:amon()

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蠢く策略……!!パプニカ王国に待ち受けるのは……!?の巻



≪SIDE:三人称≫


 ギルドメイン大陸の中央部、ギルドメイン山脈の奥深くに鎮座する巨大な魔人の様な外観の魔城――魔王軍の拠点『鬼岩城』。

 クロコダインがダイに倒された翌日――その一室『左肩の間』に設けられた円卓にて、会議が開かれようとしていた。

「……遠路遥々、ご苦労……!」

 そう切り出したのは魔軍司令ハドラー――以前までとはやや様相が異なり、逆立っていた髪は全て後ろに流し、左目を縦に走る傷の様な黒い模様が刻まれている。大魔王バーンより、世界征服を円滑に進める為にと、以前より強力な肉体を与えられ、全ての能力がパワーアップしているのだ。

 間近にする6軍団長も、ハドラーのその威力をひしひしと感じていた。

(……うむ……ハドラー様はまた一段とパワーアップされた様だ……)

 “氷炎将軍”フレイザード――氷と炎が左右の半身を構成する『エネルギー岩石生命体』、ハドラーが“禁呪法”を用いて生み出したモンスター。フレイムやブリザード、溶岩魔人や氷河魔人などのモンスターが属する氷炎魔団を束ねる軍団長である。

 攻略中の北方の国オーザムが征服間近であったが、非常招集を受けて戻ってきた。

(……全身から、力が漲っている様じゃ……)

 “妖魔司教”ザボエラ――身長1メートル程の小柄な老齢の魔族。束ねる妖魔士団は、一応ベンガーナ王国の担当となっているが、侵略よりも魔王軍の戦力充足の為の魔術研究や情報収集などの役割を多く担っている。

 2人がハドラーの威力に圧されている中……動じていない者達がいた。

(……ふん、いい気になりおって……!)

 内心でハドラーに毒づくのは、燃えさかる炎の様に赤く、逆立った髪の魔族の男――“豪魔軍師”ガルヴァス。魔王軍最強の戦力を有する超竜軍団を束ねる軍団長の座に就いているが、元はハドラーと魔軍司令の座を争った程の実力者である。

(……今の内に精々、魔軍司令の座を楽しんでおくがいい……。いずれ必ず、その座は私が頂く……!)

 一応軍団長として指令に従い城塞王国リンガイアを1週間で滅ぼすという働きを見せているが、現在の地位に不満を抱いており、魔軍司令の座を虎視眈々と狙っている。

(やはり、大魔王様はハドラーを重用している様だ……。ガルヴァス様が魔軍司令の座に就かれるには、何か大きな手柄が必要だな……)

 冷静にハドラーを観察するのは、黒のローブに身を包む、髑髏の様な顔をした男――“邪教神官”デスカール。元は魔界の邪神を信仰する邪教徒であったが、狂信から魂を邪神に捧げ、自らをアンデットと化した男である。死霊術を基本に、暗黒闘気や数々の呪文を扱う。

 アンデット系モンスターの軍団である不死騎団の軍団長を務めているが、実はガルヴァスの腹心であり、軍団長としてハドラーの部下の位置にありながらも、ガルヴァスに忠誠を捧げており、ガルヴァスを魔軍司令に就かせるべく影ながら動いている。

 フレイザード・ザボエラ・ガルヴァス・デスカール――倒れたクロコダインを除いて、残る軍団長の席はあと1つ……。

「後はミストバーンか……。緊急招集に遅れて来るとは、ふてえ奴だな」

 フレイザードが己の横に空いた空席を見て、そんな事を言った。

「フッフッフッ……!」

 しかし、それを聞いたハドラーが笑い出す。

「フレイザードよ。ミストバーンなら、それ、お前の横にもう座っているではないか」

「エッ!?」

 ハドラーの指摘を受け、視線を外していた空席に慌てて振り返るフレイザード。

「…………」

 そこに音も気配もなく座っていたのは、全身を青白いローブで覆い隠した男――“魔影参謀”ミストバーン。さまようよろいやガスト、シャドーといった暗黒闘気を根源とするモンスターの軍団である魔影軍団の軍団長を務める終始無言の影の男……男とは言ったものの、常に全身をローブで覆い隠している為、性別はおろか種族すら不明で、魔軍司令であるハドラーですら正体を知らない。

「てっ、てめえ……いつの間に!?」

「…………」

 フレイザードの言葉に、無言で返すミストバーン。

「……ケッ!いつもながら、無愛想な野郎だぜ」

 答えが返ってこない事が当たり前のミストバーン故に、フレイザードも追及をすぐに止めた。

「これで全員が揃った訳ですな、ハドラー殿……」

 ガルヴァスがそう言うと、ハドラーは静かに頷く。

「うむ……早速、軍議を始める」

 その言葉で、全員の視線がハドラーに集中した。

「既に悪魔の目玉によって伝達されておろうが、クロコダインが討たれた……我ら魔王軍に刃向う、人間の小僧によってな!その小僧の名はダイ!」

 円卓の中央に置かれた水晶球に、悪魔の目玉が撮影したダイの最新の姿が映し出される。

「改めて見ると、本当にガキだな……。こんなガキが、クロコダインにあれほどの傷を付けたとは、信じられねえ……」

 最初に感想を述べたのはフレイザード。彼はこの左肩の間に来る前に、密かに回収され蘇生処置が施されている最中のクロコダインを見ていた。

「真実だとすれば、コイツぁとんでもない化け物ですぜ、ハドラー様。今でさえクロコダインの鋼鉄の肉体を破壊できるだけの底力を秘めているコイツが、この先更にレベルを上げていったとしたら……!」

 フレイザードは言動が粗野で誤解されがちだが、ただの血気盛んな戦闘狂とは違う。炎の様な暴力性と氷の様な冷徹さが同居する男なのだ。冷静に相手の力を分析し、その脅威を測るだけの知性を持っている。

「分かっておる……だからこそ、お前達軍団長を招集したのだ。全軍団力を集結させ、奴らを一気に叩き潰す為になッ!!」

『ッ!?』

「奴らは現在、パプニカ王国を目指しておる!全軍団のモンスター共をパプニカに投入し、奴らを待ち伏せ、叩くのだ!!」

 ハドラーは目付き鋭く言い放った言葉に、軍団長達は目を見開く。

 しかし……1人だけ、動揺していない者がいた。

「それは如何なものかな……?」

 そう異を唱えたのはガルヴァスだ。

「いきなり全軍団の総攻撃というのは、些か軽率ではないかな?ハドラー殿」

「なんだと!?」

「ハドラー殿は当初、冒険家エイトとかいう人間の若造を第1の標的としていたはず……」

「貴様……どこからそれを!?」

 ガルヴァスの指摘を受け、ハドラーは驚く。エイトの存在は、まだ全軍に伝達されていないはず……知っていたとしても、自ら伝達し指令を出したクロコダインを除けば、悪魔の目玉が属する妖魔士団の軍団長であるザボエラぐらいであるはずだった。

 そんな驚くハドラーを見て、ガルヴァスは薄らと笑う。

「私にも独自の情報網があるのだよ。しかし、今回クロコダインを討ったのは、当初歯牙にも掛けていなかった“アバンの使徒”の小僧だった……エイトに固執する余り、思わぬ伏兵を見落としていたという事になりますな」

「……何が言いたい?」

「そう睨まないで貰いたい。私は何も、ハドラー殿の策を否定している訳ではない……下準備が必要ではないか?と言っているのだよ」

「下準備だと……?」

「奴らの戦力がどれ程のものか、それを見極めてからでも総攻撃は遅くない。また思わぬ伏兵に足下を掬われ、全軍総掛りで返り討ち……などという事になれば、大魔王様も流石にお怒りになろう」

「何をバカな事をっ!たかが数人の未熟なガキ共相手に、その様な事があり得るか!」

「勝負に絶対はない……クロコダインがその未熟な小僧に敗れる、などという結果を誰か予想できたかな?」

「ぐ……!」

 痛いところを突かれた……ハドラーは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべる。

「冒険家エイト、ダイを初めとした“アバンの使徒”共……共に無視できぬ脅威だ。魔王軍に刃向う者を確実に排除する為にも、戦いは万全を期して望むべき……違いますかな?ハドラー殿」

「……そこまで言うからには、何か考えがあるのだろうな?ガルヴァス」

「無論」

 ガルヴァスは悠然と即答する。

「奴らが向かっているパプニカ王国……あそこは、既にデスカール率いる不死騎団が制圧している。そこで、ダイ達一行に不死騎団をぶつけ、奴らの戦力を洗い出させるのだ。それで不死騎団が勝てばよし。敗北しても、不死騎団は魔影軍団に次いで軍団再編が容易い。ダイ達の力量の程が分かれば、後はそれを元に総攻撃の作戦を煮詰めればよい……如何かな?悪くない策だと思うが」

「……ふぅむ」

 ハドラーは顎に手を当てて考え込む。ガルヴァスの策は、確かに理に適っている……やや慎重策ではあるが、クロコダイン以下百獣魔団が崩れた今、余計な戦力の損失は大魔王バーンの信頼を損なう恐れがある為、ハドラーとしても避けたいところだった。

 しかし、ハドラーはガルヴァスが未だに魔軍司令の座を狙っている事を知っている。理に適っているとはいえ、そんな男の策を採用して、果たして良いものか……?何かしら企んでいるのではないか……?魔軍司令の座を失いたくないハドラーには、悩ましい所であった。

「…………よかろう。ガルヴァスの策を採用する」

 結局、ハドラーはガルヴァスの提案に乗る事にした。

「デスカール!魔軍司令として命じる!不死騎団を使い、パプニカにて奴らを迎え討て!奴らの戦力の全てを洗い出すのだ!!」

「……御意」

 短く返答し頭を下げ、デスカールは黒い煙の様にその場から消え去った。

「他の者は、鬼岩城内で待機していろ!いつでも総攻撃に出れる様、各自準備を怠るなッ!!」

 ハドラーが締め括り、軍機は終了した――。



≪SIDE:ガルヴァス≫


「ふん、ハドラーめ……相も変わらず単細胞よな」

 鬼岩城内の一室にて、私は酒を煽りながら先程の軍議を思い返していた。

 先程の軍議にて私が提案した策は、別にハドラーの為に提案した訳ではない。寧ろ、私が魔軍司令となる為の布石と言ってよい。

「……デスカール、分かっておるな?」

『お任せ下さい、ガルヴァス様。我が真なる主……』

 傍らに置かれた通信用の魔水晶越しに、礼を取るデスカール。奴はこのガルヴァスの右腕……今回の策に置いても、必ず私の期待通りの働きをする事だろう。

「フフフフ……!精々、暴れ回ってくれよ。冒険家エイト、そして“アバンの使徒”共……!」

 お前達が魔王軍の脅威として成長すればするほどに……お前達を討ち取った時の私の功績は大きなものとなる。

 お前達は生贄なのだ!この“豪魔軍師”ガルヴァスが、影から光の軍師へと転じる為のな!!

「フフフフフ……フハハハハハハハッ!!」



≪SIDE:ダイ≫


 オレ達がロモスの王様に船を出してもらってロモス王国を出発してから2日……オレ達を乗せた船は、パプニカの港町に到着した。

 だけど……。

「こっ、これが……風光明媚な事で名高い、パプニカの港町とは……!?」

 そう声を震わせたのは、この船の舵を握るネルソン船長……。

 オレ達の目の前に広がるのは、建物が壊され、船が沈められ、人が1人もいない……荒れ果てたパプニカの港町の無惨な光景だった。

 まさか、パプニカはもう魔王軍に……!

「……船長!ここは危ない!オレ達を下ろしたら、すぐに港を離れて下さい!!」

 どこに魔王軍が潜んでいるか分からない。港に接岸したままでいたら、ネルソン船長や乗組員の人達が危ない。

 すぐに船を港から離れさせる為に、オレとポップとマァムは、船着き場に近づいた所で船縁から港に飛び降りる――。

「船長、ありがとう!ロモスの王様によろしく!!」

「おお!気を付けるんだぞ!!君達も……!!」

 ネルソン船長が舵をきり、船が港を離れていく。オレはそれを見届けてから、町の向こうに見える丘に向かって走った。

「お、おい!いいのかよ!?帰りの船が無くなっちまうぜ!?」

「バカね!ダイの気持ちが分からないの……!?」

 そんなポップとマァムのやり取りの声は聞こえていたけど、オレはそれに返事をしている余裕はなかった。

 一刻も早く、パプニカのお城の様子を知りたい。

 ひたすら丘の上を目指して走る――港町も酷い有り様だけど、町の中心の方もすっかりやられていて、やっぱり人はいない。

 船の上でネルソン船長が言っていた……世界中の国が魔法軍に侵略されている中でも、パプニカは最大の激戦区。それに15年前は魔王だったハドラーの拠点があったって。だから、魔王軍の中でも最も恐るべき軍団が……不死身の軍隊がホルキア大陸奪還の為に送り込まれているって……!

「っ!」

 レオナ……どうか無事でいてくれ!

 祈りながら、丘の上へと通じる階段を駆け上る。

 そして、上り切った時……オレの目に飛び込んで来たのは――

「あ……あ……」

 町と同じように、ボロボロに壊されたお城の残骸……瓦礫の山だった。

「ッ……レオナァ〜〜〜〜ッッ!!!」

 心に絶望が広がり、オレは思わず叫び、そして膝をついた。

「……酷えや、こりゃ……。ダイにゃ悪いけど……生き残りはいねえだろうな……」

 ポップの言う通り、町もお城も酷い状態だ……。どう見ても、生き残った人なんて1人もいない……。

 やっと……やっと会えると思ったのに……!レオナ、どこに行っちゃったんだよ……!?

ゴト、ゴト、ゴト……

「「「っ?」」」

 何の音だ……?そう思って顔を上げると、残っていた石畳が揺れていた。

ズゴォォ!!

 次の瞬間――石畳を突き破り、剣を持った骸骨のモンスターが5体現れた!

『『『『『カカカカカカ……!!!』』』』』

「んぬわぁっ!!ば、化け物っ!!?」

「こいつらね!不死身の軍隊って……!!」

 ポップとマァムがそれぞれモンスターを見て叫ぶ。

 アバン先生に習った事がある……こいつらは、死霊の騎士!骸骨が邪悪な魔力で動いているモンスターだ!

「こいつらが……この国を……!!」

 許せない……!オレはすぐに背中の鞘からロカおじさんの剣を引き抜き、構える。

「お、落ち着けよ!ダイ!どう見たって、多勢に無勢だぞ……!!」

 ポップはそう言うけど、オレは抑えられなかった。だって、こいつらがパプニカを……レオナの国を、こんな風にしたんだ!許せる訳がない!

「……!」

「……しょ、しょうがねえ……!やるしかねえか……」

 オレに引く気がないのを察してくれたらしく、ポップもロモスの王様から貰った新しい杖――魔法のステッキを構える。

『『『『『カカカカカカ……!!!』』』』』

 武器を手に構えるオレ達に、ジリジリと迫って来る死霊の騎士達……。数は向こうが上だけど、力ならこっちが上だ。

 ここはこっちから仕掛けよう――と、思ったその時!

ズガァァァンッ!!

『『『『『カカァーーーッ!!??』』』』』

「「「!!?」」」

 突然、降ってきた強烈な斬撃で、死霊の騎士達が一気に粉々に吹き飛ばされた。

 チラッと見えた斬撃の出所に目を向けると……。

「…………」

 瓦礫の上の方に、1人の男が立っていた。鋼の鎧を着て、マントを羽織っている銀色の髪の男だった。剣を持っているから、今のは間違いなくあの人がやったんだ。しかも、今の太刀筋は……。

「なんだ、あいつは……!?」

 ポップもあの人を見つけて、少し警戒する。

「……今の太刀筋は……アバン流刀殺法『大地斬』……!!」

「ええっ!?そ、それじゃあ……あの人は……!?」

 オレが呟いたのを聞いて、マァムもあの人を見つめる。

 そう……『大地斬』は、アバン先生に剣を習った剣士しか会得できない。

 つまり、それを使えるという事は――

「「「……“アバンの使徒”……!!?」」」



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ドラゴンクエスト―ダイの大冒険 (12) (ジャンプ・コミックス)
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