小説『魔導戦記リリカルなのはStrikerS〜鉄の巨人と魔法少女達〜』
作者:明神()

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機動六課に配属され、フォワードや隊長陣へのアルト初披露から一週間が経った。

時が経つのは早いもので一週間もすれば職場にはある程度なじむのが道理、と言うわけで早速悪友が出来ているわけだが。

「ストレートフラッシュ」

「だぁぁぁっ!何で勝てないんだよ!!」

トランプを叩きつけるヘリパイロットことヴァイス・グランセニック。

今は昼を賭けて一勝負していたのだ。最初の手札こそ最悪だったが何とかなるもんだ。

アルトを使っているとキョウスケの台詞を思い出す。

「何、分の悪い賭けは嫌いじゃない」

「ヴァイス陸曹、如何様して負けるなんて」

ひょっこり顔をのぞかせた通信士兼ヘリパイロットのアルト・クラリエッタがヴァイスに哀れむようなまなざしを向ける。

うん、如何様ね。

「ヴァイス、如何様って何の話だ?」

全うな勝負かと思ったら、あの手札事後は仕組まれたものか?ほう・・・。

「いや、何の話か全然わかんねぇ!と言うかアルト!余計な事言うんじゃねぇ!!」

「ええ!?」

「とりあえず、昼奢りだからな?ヴァイス」

ガシッ!とつなぎを掴んでヴァイスに釘をさす。

さてはて、アルトはどうなったかな?あ、こっちはアルトアイゼンのほうね。




魔法戦記リリカルなのはStrikerS〜鉄の巨人と魔法少女達〜
3:仲間ってぶつかるも事もあるよね



「非殺傷設定レベルが低い?」

メンテナンスを終えたアルトを受け取ってシャーリーから言われたのは開口一番にソレだった。

「そう!今まで斉藤君が人相手にステーク使わなくて良かったよ。」

「いや、非殺傷って言うくらいだから死ぬことは・・・」

「甘い!斉藤君はステークを何だと思ってるの!?杭だよ?ソレも極太の!!」

仰るとおり、対人訓練が極めつけて少なかったのは多分、レジアスがこの事実を知っていて六課で問題を起させるためだろう。

「意地悪いな、あのオッサン」

「そこで!部隊長からでアルトアイゼンにはもう一段階上のレベルに引き上げたよ。これでステークはこのレベルなら魔力カバーが着いてカートリッジを使っても相手が吹っ飛ぶだけだし、ヒートホーンは単なる打撃だし。勿論、突いちゃ駄目だよ?」

何と言うことか、突進からのヒートホーンと言う王道の一撃が封印されてしまった。

「それはいいんだけど、吹っ飛ぶのも問題じゃないか?」

当たり所悪ければ死ぬだろうし。

「六課のシュミレーターを舐めちゃあ困りますよ?」

ですよねー・・・実際に立ち上がり見た時は驚いたし、立体映像の癖して触れるし。この世界の科学力半端な
いし。

「後ね、アルトくんの詳細スペックは斉藤君が一番詳しいと思うけど、もう一度分かったことを言うね。」

今回のフルメンテは六課のメカニック陣がアルトを把握することに意味があるらしいと朝食時にはやてが言っていた。

「先ず一つは三連ヴァリアブルキャノン、装弾数1300発分の魔力カートリッジだから早々弾切れは無いよ、ステークは予備に二セットカートリッジを左サイドアーマーに仕舞える。つまり2回はその場で補充が可能だよ。」

ほう、アルトのスペックデータはざっと見ただけだからな。本部じゃ、すぐに訓練B説明はありがたい。

「最後にクレイモアなんだけど、実戦の60秒ってめちゃくちゃ長く感じるでしょ?」

「ああ。」

「一度撃ったら、装甲内で魔力を蓄積・ベリングショット(シャーリー命名)を再構築するんだけど最速で60秒のタイムラグあるから気をつけて。ほいほい撃てるものじゃないから」

説明してくれるシャーリーに頷いて、アルトを受け取る。

それにしてもやっぱりピーキーだなアルトは。




「何食うんだよ?」

「それじゃ、そのBランチ頼む」

ヴァイスと共に食堂を訪れると既になのはとフォワード一同は昼食の真っ最中だった。

「あ、カズー!」

スバルに呼ばれて振り向く、気にはしないがスバルと隊長陣ってすぐに階級付けて呼ぶことはなくなった。流石にティアナとエリキャロは割りと最近打ち解けてきた感じだ、話すって大事だよ。

「所でヴァイス陸曹は何で落ち込んでるんですか?」

そんなエリオの問いにティアナが答える。

「アルトが言ってた奴よ。昼賭けてイカサマしたくせに負けたって」

「うるせー!カズッ!これでチャラだからなっ」

そんな捨て台詞と共にヴァイスは去っていく。

トレーの上には大盛りの丼物、自棄食いか?

「おう。で、スバルは何だ?」

「全力で戦ってね!」

「・・・は?」

間の抜けた返事を返してしまった。

「実はね、カズ君とフォワード四人で模擬戦を午後の訓練でして貰おうと思うんだ」

なのはの言ったことで漸く理解できた。

えっと、一対四?マジで?

「うん。今の所デバイスのスペックだと一番アルト君が高いし、スバル達よりもカズ君は階級上だし」

あのー・・・なのはさん?コレどういう経緯でって知っていて言ってますか?

「うん。でもね、実際にガジェットでも人型を想定した訓練でもあるんだよ?」

「・・・・ハァ。良いですよ?対人訓練はあんまりやってないし」

乗り気ではないが了承するとなのははごまかし笑いとばかりに微笑んだ。

まぁ、午前はアルトのフルメンテで訓練出れなかったから連絡も来てないのは当然。仕方ないか、それと設定レベルの確認も出来るだろう。

「良いだろう、スバル。文字通り打ち抜くからな」

「うぇ、やっぱりお手柔らかに?」

「何弱気になってんのよ?」

「だってティア〜」

「お手柔らかにお願いします!」

「程々にな、エリオもキャロも思いっきり来ていいから」

「頑張ります!」

「きゅっくる〜!」

「そうそう、カズ君も頑張らないとね」

そうなのだ、忘れてしまうが自分はアルトがないと魔法戦が出来ない。それどころか決まった武装しかない。その点を取ればフォワード達のほうが状況に応じた魔法を使い分けられる分有利だと言うこと。

こうなると魔力保有っていいなと思うよ。






所代わり訓練シュミレータ、スバルらフォワードとカズヒロは東西の端に別れている。

「いい?作戦を説明するわよ」

フォワードには秘策があった。

単純な力押し、個人の技量だけならカズヒロに分があった。理由はなのはたちにも分からないが限られた装備を活かして戦う、まるで訓練された兵士のように動きが正確なのだ。

シャーリー以下技術部はアルトアイゼンに秘密があると睨んだが結果はハズレ、となるとカズヒロは本当にすごいのかもしれないと言う事実が明らかに。

ティアナを中心に纏まりだしたフォワードは、シャーリーから聞いたアルトのクレイモアのリロードタイムと遠距離戦が苦手と言う経験済みの弱点をつく方向で作戦が纏まりつつある。

「すごいなぁ、皆燃えとるよ」

「それはね、皆自慢の教え子だし」

常に訓練を見ているなのはもティアナの指示とソレに答えていく三人に満足な様子。

「カズ君の方にはヴィータとシャーリーがおるんよね?」

「うん。今回は“あの子達”もアルトに通用するように仕上げる為のデータ採取っていったし」





『ボス、最初に司令塔を潰す事をお勧めします』

「って言ってもねぇ、アルト。こっちに遠距離系の武装は皆無だぜ?突っ込んでいくのは予測済みだろうし」

『グダグダ考えるより、ボスはぶつかる方が良いのでは?』

「アルトの言うとおりだぞ、カズ。」

「副隊長から野次が飛んだ件」

こっちは殆ど独り言に近いデバイスと主の作戦会議、結果的に会議と言っていいのか不明だが、結局カズヒロはぶつかっていくしかない。

「思いっきりやってね!あの子達の相棒のためにも」

異常に熱のこもったシャーリーが若干怖いなとか思うカズヒロだが、開始直後にモニターになのはとはやてが映る。

あれ?仕事はどうした部隊長。

『今、カズ君の思ってること当ててええ?』

「いやいやいや」

『それより準備はOK?』

「勿論。いつでもかまわない」

『それじゃ試合開始!』

なのはが確認してくる。ブザーと共にカズヒロはスラスターを吹かし、一気に加速。フォワードもまたティアナの立てた作戦に基づいて散開した。










さてはて始まったこの模擬戦。

開始早々に奇襲を受けたのはカズヒロだったわけなのですが。

「打ち抜けっ」

落ちてきた貯水槽をいきなりリボルピングステークで粉砕。狙撃で落としたティアナの読み通り、カズヒロは倒せる時、破壊できる時に出し惜しみはしない。

『今よ、エリオ、スバル!』

念話で合図を出すとスバルとエリオが左右から挟み打ちを掛ける。

「「うおおっ!」」

「なんのっ!」

カズヒロもアルト持ち前の瞬発力で回避を試みるが、

『後方300、スターズ3』

アルトがティアナを索敵、同時にクロスファイアが襲い掛かる。

「うぐっ!」

ソレを背中に食らい、バランスが崩れる。

回避は出来ない。回避は出来ないならば前へ!

「ヒートホーン・・・貫け!」

目の前は廃ビル、朽ちたコンクリートなら貫けると踏んでフルスロットルで突っ込むカズヒロ。

しかしソレもティアナの予測の範囲内、いかに戦闘技能に優れようがカズヒロは魔導戦闘の経験は少ない。殆ど素人、ならばどうすれば勝てるか?出した結論は今まで教えられた技能をフルに活かしたチームプレーと固定されない魔法の波状攻撃。

「フリード、ブラストフレア!」

「きゅ〜!」

アルトに索敵されないギリギリの距離、それでいてフリードはカズヒロが飛び出してきたすぐ脇で火球を吐く。

どうやら、キャロはいくらか距離が開こうがフリードを使役できるようで。

「今度は火球か!?」

三連キャノンで火球を相殺し、無理に制動を掛けるもカズヒロは瓦礫に突っ込んでしまう。

うん、スピードの出しすぎは怖いね。

『スバル!』

ここでフォワード一突破力のあるスバルの出番、いかに装甲が硬かろうと至近距離ならどうか?とスバルの持つあの魔法が吼える。

「ディバイーン!」

「流石のコンビネーションだが、この距離・・・スバル、貰ったぞ!」

避けるどころかカズヒロはクレイモアで逆にスバルを討ち取る気だ。

発射された刹那、スバルが“消えた”。

と言うのも火球とスバルとエリオの挟み撃ちと言う布石を置いて、さらには瓦礫にほぼ埋もれたカズヒロが取れる反撃手段をクレイモアに限定することに成功し、スバル本人とティアナの魔法・フェイクシルエットと入れ替わる直前にエリオが持ち前のスピードでフリードとスバルを回収。

『素晴らしい作戦。見事に空撃ち。』

「だが、瓦礫からは抜け出せた。やっぱ単純にはいかないか」




一方で観戦組みは一箇所に集まっている。

なのはとはやては満面の笑みでニコニコ、ヴィータは感心するが誤魔化しつつ、シャーリーも満足のいくデータが取れているようで笑顔だ。

「ティアナ、指揮の筋が通ってきてるね」

「ガジェット相手だと無双のカズくんもこれは読み負けやな」

「これから一分があいつらの勝負どころか」

なのはがティアナの成長度合いに感嘆として、はやてがココまでのやり取りの敗因を憶測し、ヴィータは食い入るように見て呟く。

「そうか。ここはこうして・・・ふふ、ふふふっ」

シャーリーはどこか怪しげな笑みを浮かべると言うカオス。







戻り、模擬戦はフォワードが優位に進んだのは開始十分程度だった。

クレイモアのリロードが終わるとまた空撃ちを誘発させなくては至近距離で撃たれると即ゲームオーバー、加えて言えばステークも致命傷だ、加速度+重量+あの太く鋭い杭と言うのはある意味反則級の威力を保持している。

しかもだ、開き直ったバカは強いと言うか。

カズヒロが作戦って美味しいの?とか呟いた直後、ダメージを無視し始めた。

勿論、致命傷になりそうな一撃は避ける。

「砲弾か何かなの!アンタは!?」

ダメージを無視されると集束砲は出来てもなのは並の威力を出せないティアナは一撃でアルトを離脱させるだけの手段が無い。

魔力弾の弾幕を張ろうが、

「多少貰ったところでっ」

止まらないのがカズヒロとアルトアイゼンだ。

アルトアイゼンのマスクって意外と怖い、一気に迫られるとビクつく時もあるんじゃない?と言うのはなのは談。

十五、六歳の少女がこうして戦場に立っているだけでもすごいと言うのに。

フォワードはその恐怖にも打ち克っているからすごい。若干のキャラ崩壊は見て取れるが。

「ティアさん!」

間に滑り込んだのはエリオ、槍型のデバイス・ストラーダをカズヒロに向けると、

「一閃必中!」

正面から打ち合う気で居るエリオも度胸が座っている。

「スピアー・アングリフ!」

「来るか、ステークッ」

エリオはカートリッジを二発ロードし、一気に突っ込んできた。対してカズヒロは毎度お馴染みのリボルピングステークで対抗。

「「おおおっ!」」

結果はと言うとエリオがティアナの脇まですっ飛ばされて行動不能に。

「エリオ!」

「流石、カートリッジを使い切らされた。」

唖然とするティアナの目の前で次のカートリッジをリボルバー部分、スピードローダーへ入れようとしいた。

「えい!」

そこへ不意打ち魔力弾、放ったのはキャロ。

「何!?」

空を舞うカートリッジ、弾き飛ばされたようだ。

「きゅ〜きゅっ!」

ソレをフリードがキャッチ(?)してはるか高みへ。

「ちょっ待って!フリード!!」

カズヒロもこれには焦る。拾えばいいと思っていた矢先に鳥為らぬ竜に取られるとは。

「今です、スバルさん!ティアさん!」

フォワード唯一の男児エリオの戦線離脱は女子を強くしたようだ。






「キャロもやるじゃねぇか」

フリードとキャロの不意打ちをヴィータは関心していた。

「確かにあれは予測できんわ」

「ふぇ〜こんな事もあるんだね」

ヴィータだけでなく、はやてもなのはも関心。カズヒロにとってカートリッジをリロードできないのは相当の痛手だし、何よりまさかフリードに掻っ攫われるなんて思いもしなかっただろう。

「フリード、飲み込まないですよね?」

シャーリーの心配は杞憂だ、すぐに瓦礫の中へ吐き捨てている。




「チビ竜の掻っ攫いは予想外ですよ!?」

結果的に一撃の起爆剤を失ったことでカズヒロは再び劣勢に。

肉薄するスバルと格闘戦を繰り広げつつ後退している。何でかと言えば・・・、

「キャロ、ブーストお願い!」

「はい!」

キャロの強化を受けたティアナの射撃は、強力だ。まだ装甲を抜かないといっても仮想ダメージ適用のカズヒロにはあまり後が無い。

『仮想ダメージ、危険域』

何せダメージ無視をしすぎた。

実戦ならまだ大丈夫、アルトの装甲は抜けてない。だからと言っても無理もできないのは事実。

「うぉりゃ!って、え!?」

スバルが思いっきり回し蹴り、ソレを受け止めて・・・。

「取ったぞ、スバル!」

ゼロ距離三連キャノン、咄嗟にプロテクションを張ったのは良い反応だ。

通常のガジェットならソレでしのげただろうな。

「「スバル(さん)ッ!」」

ティアナとキャロの叫び声が重なった。

一時的にでも強化された魔力弾の弾幕を途切れさせるべきではなかったと後にティアナは『対人型自立兵器訓
練レポート』に書き記している。










結果はと言えばカズヒロの判定勝ち。というのもスバル撃破後、残りのライフが先に削り切られるか、ティアナを沈められるかと言う博打に出たカズヒロをなのはが止めた。

理由としては現在開発中のフォワードの実戦用デバイスに活かすデータが採取し終えたとか。

「あそこで弾幕を切らされなければ、危なかった」

「大丈夫、六課の運用期間が終わる頃にはカズ君とアルトなんて四人なら余裕になっているはずだよ」

「「「「はい!」」」」

「だが、負けるつもりは無い。その時にはもっとうまくアルトを扱える筈だからな」

若干落ち込み気味のフォワードをなのはが励まし、言い回しに少しイラついたので反撃する。

「ほう、ならカズヒロ。今度はアタシとやるか?」

(何でだよ、チビッ子)

「今、失礼なこと考えなかった?」

「いえいえいえ」

ヴィータがからかって来たので内心悪態を吐くとなのはが心を読んだ。

この後、アルトから今回の戦闘における改善点を突っ込まれたのは他でもない。

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