小説『追憶の歯車』
作者:IRIZA()

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第二話


まぁ今は授業中だし、いなかったらまた放課後来ればいい……そんな気持ちでノックする。

コンコン

「失礼します……雲雀委員長はいらっしゃいますか?」
「あ、こんにちは。えっと……委員長に用でも?」

……風紀委員に、不良がいる。
誰だこのかんっっっぺきに不良ヅラしたリーゼントくん。連行されたのか?不法侵入か?
やけに礼儀正しいのもすごく違和感が……
そんな感じで硬直していた私を心配してくれたのだろう、リーゼントくんが声をかけてくれた。

「あの……?」

その一言で、我に返る。

「あ、えっと、すいません。生徒会長の日之影 紗鳥です。投書の件で、風紀委員長と相談したいことがありまして……」
「生徒会長……?」

すごく不審がられている。
まぁ、生徒の中で最も目立ってもいい役にいるのに、顔を知っていなかったんだろう。
このまま追い出されては敵わない。そう思った私は、左腕に巻かれた赤い腕章を見せた。

「あ、すいません。なにぶん顔を覚えていなかったもので……」
「あ、大丈夫ですよ。私って覚えにくいらしいんで。それで、あの、風紀委員長は……」

しかし、こうも相手が礼儀正しいとこっちまで緊張してしまう。

「委員長なら、そろそろ見回りから戻ってくると思いますので、どうぞ座ってお待ちください」
「え、あ、の、ありがとうございます……」

リーゼントくんが見掛け倒し過ぎて、本当に調子狂うなぁもう……
しかし、彼は本当に誰なんだ?連行されたにしては慣れている感じがするし……もしかして、 風紀委員の一人なのかもしれない。
考えるよりは直接訊いた方が早いだろうと、声をかけようとすると

「どうぞ」

と頭上から声がかかった。

「え?」
「委員長を待っている間、珈琲でも飲んでいてください」

そう言って差し出された盆には、暖かそうな珈琲とおいしそうなケーキ。

「あ、これ……ラ・ナミモリーヌのチーズケーキですか?」
「はい。……お嫌いでしたか?」
「あ、いえ、大好物です!!ありがとうございます」

私は、甘いものに目がない。特にケーキなど私にとっては神々の至宝で、この世の何よりも勝るものだった。

「いただきます」

まずは珈琲を小さく口に含み、舌の準備をする。経験で、ブラックがいいと分かっているので何も入れない。
次にケーキの先端を一口サイズに切って、一口で口に。

「〜〜〜〜〜〜〜っ!!すごく、すごく美味しいです!!ありがとうございます、リーゼントくん!!」

……あ。

「り、リーゼント……くん?」
「あ、あの……すいません、名前を、その、知らなかったので……えっと、ご、ごめんなさい!!!!」

頭をバッと下げる。
怒られるかなー……と思いきや、意外にも

「風紀副委員長を務めています、草壁 哲也です」

と自己紹介してくれた。

「あ、はい、草壁さんですね。どうもすいません……」
「いえいえ、自己紹介していなかつたこちらも悪いですし……」

どうやら許してもらえたようだ。
とまぁそんな感じでようやくほのぼのとした空気を勝ち取った私は、再度チーズケーキに手を付ける。
ブラック珈琲とチーズケーキを交互に食べるのを途中でやめ、今度は珈琲にミルクを入れて食べる。チーズケーキを口に含んだまま珈琲を飲むと、口の中で絶妙に混ざってこれまた至福の味が作り出せるのだった。

食べ終わると、いつの間にか草壁さんが食器を下げようとしていたので、

「そんな、片付けくらいやらせてください」
「いえいえ、ソファに座って委員長を待っていてください」
「でもここまでしてもらって、悪いですし……」

的なやりとりをしていると、唐突に部屋のドアが開いた。

「……草壁、何してるの」
「い、委員長!!!!」

……委員長?
そうだ、私思いっきりくつろいでたけど、風紀委員長に用があったんだ!!

「あの、雲雀委員長ですか?」
「……そうだけど。君、誰?」

またも不審者扱い。
しかし、雲雀委員長の目は確実に私の腕章に向いていた。

「……生徒会長?」
「あ、はい、日之影 紗鳥と申します。実は、今日はある投書の件で伺ったのですがお時間大丈夫ですか?」
「……生徒会長だったら、僕が知ってるはずだけど」
「私は、陰が薄いんです」

完璧な敬語に見事な低姿勢。
これで、不審者という印象は完全に払拭されただろう。私も暇ではないのだし、この手の案件は早急に他機関に任せてしまうに限る。

「ふぅん。投書って?」
「ええ。実は2年B組で恐喝事件が行われているそうで、同クラスの原、橋本という生徒が佐伯という生徒から金をむしっているようなんです。これは、厳密に調査した上で適切な対応をと思いまして」
「……草壁、行くよ」
「はい」

え?
どこへ?

と、呆然としているうちに二人とも出て行ってしまった。
慌てて追いかけると、雲雀委員長に草壁さんが続くようなかたちで2年B組に入って行った。

「……え……?」

私も続こうと教室の戸に手をかけると、

「「ぎぃやぁぁあぁああっ!!!!」」

「!!!?」

慌てて中にはいると、教壇の方で二人の男子生徒が白目を剥き、泡を吹いて倒れていた。
周りの生徒や授業していた教師などは、完全に教室の端で怯えきっている。
肝心の風紀委員長は、教壇に立って二人の男子生徒を見下ろしていた。
誰がどう見ても、この惨事は風紀委員長がしたことだった。

「なっ……何をしたんですか!!!?」
「風紀を乱す者は、咬み殺す。ところで、きみ誰?」

ゴツンと、頭を石で殴られたような感覚がした。そうだ、私は……こうだった。
さっきまであんなにもほんわかと会話していた草壁さんでさえ、私を困惑の目で見ている。
いままで滅多に人と関わってこなかったから、久々の感覚に心の臓が握りつぶされそうだった。

「私……私は、この学校の生徒会長です。校内での暴力は、たとえ風紀委員長であれど認めません。今週中に反省文を書いて生徒会室まで届けなさい。以後、このような取り締まりの仕方は、私が……許しません」

その場にいる全員が、あっけらかんとした顔をした。
この学校に、生徒会長がいたのかと。

「……生徒会長だったら、僕が知ってるはずだけど」
「私は陰が薄いんです」

さっきと同じやり取り。
だけど、明確に何かが違う。

「ふぅん」
「とにかく、二度とこの取締法は執行しないでください。そこの副委員長も、聞いていますか?」
「あ、はい……」
「……言いたいことは以上です。では、失礼します」

そう言って、くるりと振り返り生徒会室に帰ろうとしたとき、

「待ちなよ」

という声と共に、殺気が浴びせられた。

「僕に命令するなんて、いい度胸だね」
「褒めても、何も出な……ッ!!!!」

私はいち早くそれを察知し右手側、つまり窓の方に避ける。
見ると、私がさっきまでいたところには、見事なクレーターができていた。
……え?これ、コンクリだよね?
……今度、校舎の点検を予算から組もう……
そんなことを考えていた中、

「きみ、面白いね。僕と戦いなよ」
「全力で、お断りさせていただきます!!!!あと、私の方が役職的に上ですから!!!!命令しても、なんらおかしくありません!!!!」

かくして、2年B組の観衆が見守る(もとい畏怖する)中、聖戦(笑)が始まった。

-3-
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