小説『Gods ~舞い降りた女神様~』
作者:ダーク根暗フィア()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>





第8話 水龍




ウネウネとした水の塊、水龍が飛ばした水の刃が剣介達に迫る。

「うおおおお!」

ザンッ!
脊椎反射の横っ飛びで回避した3人が先刻まで居た場所は鋭く抉られ水浸しになっていた。

「あっぶねぇ・・・・。あんにゃろー!ホームレスが多く住むこの『ポカポカ鉄橋』を傷付けやがってぇ!謝れ!作った人に謝れ!」

「ホームレスにじゃないの!?」

思わずツッコんでしまった麻理。剣介は少し満足そうに笑う。
そしてキリヤが不意に視線を下げるとさっき見た10歳に満たない子供たちが怯えて腰を抜かしていた。

「っと、こんなのほほんとしてたら危ないな。次の攻撃の前に彼奴を潰す!」

剣介が満足に動かない肩を気にしつつも「≪レイヴニル≫!」と叫ぶと瞬時に宙に描かれた直径30cm程の魔方陣に手を突っ込み、勢いよく引き抜くと鞘に収まったロングソード≪レイヴニル≫を握っていた。
これは特定の人物を喚ぶ(相手との同意が必須)『召喚魔法』と似た魔法で、事前に魔力を仕込んでおいた物を何処からでも喚ぶ事が出来る『物体転送魔法』である。

「肩が満足に動かんが雷属性を使えばーー」

「ケンちゃん、とうとうそれを使うの?」

「まぁーーなっ!」

右手に力を込めて鞘から引き抜く。剣介は一瞬、魔力の極端消費のせいで視界が揺らぐが歯をくいしばり踏ん張ることでそれをやり過ごした。

「ふぅ、ふぅ」

「ケンちゃん大丈夫?」

「あぁ、ヨシッ、行くぞ!」

「あっ!待って!」

キリヤが寸前で止めようとしたが2人は既に水龍に向かって刃を振り降ろしていた。
すると水龍が尾で凪ぎ払おうとしているのか、5mはあろう尾をさっきの刃のように鋭くして大きく動いた。
このままでは下の子供達も巻き込まれる。とキリヤは跳躍し、子供達の前に降り立ち子供達を集めて庇うようにしゃがんだ。

「あの馬鹿!」

それに気付いた剣介が苦手な『飛行魔法』を使おうと両足裏に魔力を集中した。

(間に合え!)

今まさに凪ぎ払い始めた尾の攻撃線上に向かって剣介が加速した。加速に邪魔な≪レイヴニル≫を投げ捨ててひたすらに加速。
グングン迫る地面。ゆっくりにも見える速度で迫る尾。

「うぉぉぉらぁぁぁぁ!!」

ザシュ!

「~~~~~~~?」

衝撃に耐えようと体を強張らせていたキリヤがいつまで経っても来ない衝撃に不思議に思い、薄目で振り向く。

「っ!!剣介!!」

「ケンちゃん!!」

振り向いたキリヤの目の前で刃状となった尾先を腹で受け止め、動かないように両腕を尾にまわして固定した剣介が立っていた。

「おい!餓鬼んちょ共!とっとと逃げろ!」

自身の体の事を他所に、まず子供達を逃がそうと叫んだ剣介。
するとやっと我に帰ったのか子供達は一目散にその場から走り逃げた。

「まったく・・・・世話を焼かせる女神様だ・・・・」

胴体こそ裂けはしなかったが水の刃は剣介の腹を裂いて内臓にも刃が届いていた。

「何をしてるの剣介!体が裂けると思わなかったの!?」

「馬鹿。それは俺の台詞だ・・・・。水属性の魔力を持っていないのにあの攻撃を耐えられた、とでも?」

「それは・・・・」

剣介は受け止める直前、能力で魔力を水属性に変えて体表に魔力を集中したことによって耐える事が出来た。こればかりはいくらキリヤの特殊な鎧ドレスでも真っ二つになっていただろう。

「と、言っても・・・・俺もこの様だ・・・・。くそ・・・・」

剣介の腹からは止まることを知らない血の滝が出来ていて足元は既に血で地面が隠れてしまっている。

「け、剣介・・・・」

「ケンちゃん!コイツが暴れ始めたわ!」

グググ、ブシュッ!

「がぁぁぁぁぁぁ!!」

水龍が動く度に剣介が悲鳴をあげ、血が噴き出す。

「そんなっ!」

「き、キリヤ!コイツをっ、使え!≪戦女神の剣(ヴァルキュリアブレイド)≫!」

掛け声と共にキリヤの足元に描かれた魔方陣。其処から光の粒子が飛び交い、大きな剣を形作っていく。

「これは!」

「お前なら使いこなせる筈だぁ!ぐうっ!?ーーっ!いっけぇ!!!」

必死に痛みを耐え、血走った眼は今にも光を失いそうだった。

「ーー!分かったわ!耐えてて剣介!」

地面に突き刺さって直立しているボロい布に覆われていたツーハンデッドソードを握り、水龍の真上に跳躍した。魔力無しで。

「高い!何者なのあの娘!」

「ギィィィィァァァァァ!!」

「よくも剣介にあんな酷い事を・・・・許さない!!」

スル、シュルル・・・・。
剣を覆っていた布が取れ、≪戦女神の剣(ヴァルキュリアブレイド)≫がその神々しい姿を現した。それには剣介と麻理の2人も思わずみとれた。

「ハァァァァァァァァ!!」

正午で真上に輝く太陽をバックにキリヤの金髪が光を反射する。

「ギィィィィァァァァァ!!」

狩られまいと水の刃を飛ばす水龍。キリヤはその水の刃を容易く切り裂く。

「ギィ!?」

これには水龍も驚いたような反応を見せ、同時に一瞬の隙を見せた。

「ハァァ!!」

ザシュ!
キリヤの放った一撃が水龍の脳天に直撃した。

-10-
Copyright ©ダーク根暗フィア All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える