第21話 キリヤ、初めてのおつかい
「あぁ~~~~。腹痛ぇ~~~~ブクブクブク・・・・」
風呂と言うのは何歳になっても素晴らしく感じるものだ。
ただ湯槽にお湯を一杯に張っただけなのに実際、体を湯に沈めるととても気持ち良い。俺としては寝るより風呂に入る方が好きだな。
「ブクブクブク」
「ぬ?」
俺じゃないぞ。
「ん?どうしたの?」
「・・・・・・・・・・・・」
「?」
「で て い けぇぇぇぇぇぇぇ ! ! 」
バシャァ!
「キャア!」
何だァァァァ!?何でキリヤが風呂に浸かっているんだァァァァ!?何時から!?目の前に居たのに気付かなかった!?
「いったぁー!何よ剣介!いきなり投げs」
「アホかお前!?何普通に居るんだよ!?」
「辞書で見たわよ。『裸の付き合い』でしょ?」
「それは身体的なものではなくて、精神的なもので互いの本音を言い合えるような人間関係の事を言うんだよ・・・・。うぅ、大声出したら腹が・・・・つーかあっち向けよ」
「まぁ、良いじゃない。私は別に構わないし」
「俺が構うんだが・・・・兎に角!悪いが出てくれ。ゆっくり風呂も入れん」
「ブー。ケチッ」
「ケチで悪いな。あぁ、そうだ。悪いけどおつかいをしてもらって良いか?」
「良いけど何?食料?」
「それもあるが、メインは他のだ」
え?メインは何かって?決まっているだろ?
「俺のパンツ買ってきてくれ」
◇
「ーーで、今に至る訳ね。まったく、ケンちゃんてば、仮にでも女の子に男のパンツ買わせに行かせるなんてどうかしてるでしょ」
そう言いながらかなり奇抜な柄のパンツばかりを選んでいる貴女もどうかしてると思いますが。
「それ、奇抜過ぎませんか?剣介は単色を好んで穿きますよ」
「そう?これ良いと思うけど・・・・」
そもそも何故私が麻理さんと居るか。実はこの服屋『し〇むら』に来る途中、バッタリ会っておつかいの内容を話すとついてきてしまって今に至る訳です。
「兎に角、剣介は今も穿くパンツが無くて凍えている筈です。早いとこ済ませて夕飯の材料も買わないと」
「じゃあこれとこれ。あとー、あれとそれで決まりね。はいっ、レジに向かいましょー」
半ば無理矢理パンツを決定され、レジへと押されていく。
しかしどれも奇抜な柄で剣介が気に入りそうな物はーー無い。
「パンツが計4点で898円です」
「待ってキリヤさん。私が選んだから私が払うわ」
「え?あぁ・・・・はい」
私は見てしまった。
人が何か悪戯を思い付いた時の眼を。
◇
「ありがとうございましたー」
「さて。お肉も買ったし、パンツも買ったし、剣介のおつかいは完了ね。あとはーー」
「まだ何か在りましたっけ?メモには何も買い残しは無いですが・・・・」
「そうじゃなくて、ほら、ケンちゃんから聞いてない?今日のあの事」
あぁ。あれですか。
「構いませんよ。そう言えば麻理さんは部活があって途中から見てないんでしたね。うーん、そうですねぇ」
「結果を教えてくれれば良いから」
「分かりました。あの後、剣介は静音さんの記憶から自分の記憶だけを取り出そうとしました。ですけどそれを彼女が拒み、剣介も困り果ててました」
「それで?」
「巻き込みたくないからどうしても忘れて欲しいと剣介は何度も頭を下げてましたが、彼女は恩人を、初恋の相手を忘れたくないと言ってたようです。暫くして剣介の方が折れたみたいで結局消すのを止めたようです。その代わり、誰にも剣介が能力者であることを話さないという約束で」
「何でそうなるかなぁ・・・・ライバルが増えちゃったじゃない・・・・」
「ん?」
「いやいやっ、何でもないです」
「?で、剣介は彼女の要望で“友達”になったそうです」
一通り話し終えると時刻は既に6時を過ぎてました。
家を出たのは5時前だったのにあっという間ですね。・・・・あ、剣介を忘れてた。
「いけない!剣介をすっかり忘れてました。じゃあ麻理さん、今日は助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。女神様て言っても案外接しやすくて私も助かったよ。じゃあまた明日」
「はい」
麻理さんと『ヤオコ〇』の前で別れ、早足で家へと向かう。
家からの距離は大して無いので10分も掛からなかったですよ。
「ただいま」
「おう、お帰り。遅かったな迷子にでもなったか?」
剣介はリビングで腰にタオルを巻いただけの状態で『ドラ〇ンボール』と呼ばれるものを見ていた。
「麻理さんと買い物しててね。はい、パンツ」
「おお、ありがとうキリヤ。では早速ーー」
渡されたパンツを見た剣介は思わず絶句したようで口を開きっぱなしにしていた。
「キリヤ、このパンツを選んだのは麻理か?」
「それが何か?」
「お釣りをくれ」
「はい。そのパンツのお代は麻理さんが払ってたわよ」
(くそ!あの女ぁ・・・・俺にこのパンツを穿けと言うのか?おのれぇ・・・・7色のトランクスに金銀トランクス・・・・とどめに女物の下着を買うとはな。まぁ、女物の下着はキリヤにやるか)
「はいよキリヤ。このパンツはお前んのだ。俺は穿けんからな」
「もしかしてそのパンツじゃ駄目だったの?」
「いや全然。それより、おつかいご苦労さん助かったよ。ほら、飯にしようぜ」
「うん!」
ーー剣介は何だかんだ言っても優しい人。今日みたいに誰かの為に泣けるし、対等に、当たり前に接してくれる。
剣介の事を考えると何だか胸が絞まるよう感じがする。正直、静音さんに剣介の事を忘れて欲しかったりも・・・・あぁ。成る程。
私、剣介が好きなんだ・・・・恋、してるんだ。