第22話 完成!かめは〇波?
『かーめーはー〇ー波ぁぁぁぁ!』
ドォゥゥゥゥゥン!
『You win』
60インチのテレビから青い閃光が輝いた直後、画面にデカデカと『You win』の文字が浮かび上がった。
それを半袖短パンのラフな格好をしたキリヤがソファに寝転がりながら面白そうに見ていた。
「剣介剣介、これは何て言う物なの?」
「これはテレビゲームと言って、昨日遊んだ人生ゲームと違って、テレビに接続して遊ぶタイプの物なんだが、うぅん、説明しずらいな」
「電気を使うか使わないか?」
「そんな物かな?」
座布団に胡座で座っている剣介がPS2のコントローラーを回しながら片手で真横の小さなテーブルのプリントに何やら書いている。
「それは?」
「宿題。キリヤも貰っていたと思うが?」
「数学のでしょ?もう終わっているけど」
「マジ?何時やってた?」
「学校でクラスの男子が頼んでなくてもやってくれたの」
「なんか・・・・男って色々残念な生き物だよなぁ。ほい」
「ありがと」
剣介が渡したチョコチップクッキーを口に放り込んだキリヤが『かめは〇波』を見て何かを思い付いた。
「そうだ、剣介。魔力の特訓したら?」
「どうした突然?もしかして、俺にかめは〇波を撃てと?」
「いや、剣介は魔力の使い方が荒いの。だからもうちょっと上手く魔力を使えれば消費を抑えられると思って」
「成る程な。でも俺は元々魔力は少ないぞ?」
「それは違うよ。剣介の魔力は決して少なくないよ。ちゃんと使い方が分かってないだけ。いい?魔力は体を鍛えると自然と増えていく物よ?剣介の体つきを見る限りでは麻理さん以上はある筈よ」
「そう言えばよく裏山の熊と手合わせしてたしな」
剣介は月に5回程裏山の熊と手合わせしに行くのだ。
そもそも初めてその熊と会ったのは6年前。食材を集めに行ったところに遭遇し、スーパーで買った蜂蜜をあげたところ仲良くなり、今では剣介のトレーニングをコーチしてくれる。
しかも驚いた事にその熊は冬眠はしないし人語を理解できる。その上剣術も知っている不思議な熊。
「試しにそのかめは〇波を真似てみてよ」
「えー。うーん、掌で魔力を圧縮して・・・・ドーン?」
「外でやってね。また直すのやだよ」
「OK。そんじゃやってくるわ」
◇
5分後、庭に出た剣介はウォーミングアップも兼ねて≪レイヴニル≫を鞘に入れたままの状態で振り回していた。
だがただ振り回しているだけではない。
剣介の大技はどれも派手なものばかりだが彼の本来の戦闘スタイルは『鋭く・速く』だ。
≪レイヴニル≫は同じサイズのロングソードと比べても軽い方だ。それにより、通常のロングソードよりも振りが速くなり、威力も落ちる。威力を補うためにそれを圧倒する『速さ』そして其処から生まれる『鋭さ』を特化したのが剣介の本来の戦闘スタイルだ。
特に剣介の大技『炎獄波斬』は『速さ』を活かしている。
そして剣介が今やっているのは重要な『速さ』を鍛えるトレーニングだ。
あえて鞘に入れたままの状態で重たくした≪レイヴニル≫を素早く振るう事で更なるスピードアップを図っているのだ。
因みに、剣自体を振るう事が暫く無かった為、剣術は若干衰えている。
「ふぃ。さてと、そろそろやるか」
程好く温まった体に血が巡ると同時に魔力も体の隅々に行き渡る。
≪レイヴニル≫を塀にかけ、周りに人が居ないことを確認すると大きく深呼吸。
「んっ。ハァァァァ・・・・」
脚を広げて腰を落とす。
両手を腰で構えて変換しておいた光属性の魔力を両掌に集める。
「ぬぅぅぅぅぅ!」
やがて両掌の間に拳大の光る球体が出来上がった。
「きた!よぉし!かーめーはー〇ーーー」
ギュンギュンギュンギュンギュン!
光る球体はみるみる放つ光量を多くしていき、太陽の光に負けないくらい眩しく光っていく。
そしてーー
「波ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ポン。
「は?」
まるでラムネを開けた時のような音が変に大きく響いた。
剣介が放った光球は『かめは〇波』のように飛んで行かず、蛇行しながらゆっくりと家の前側の塀に向かっていった。
「・・・・マジか・・・・」
フヨフヨフヨフヨ・・・・。
ポン。
塀にぶつかった光球がボールのような音を立てて跳ね返るーー
「マジぃ?格好わr」
ズドォォォォォン!!
刹那、光球が大爆発を起こし、前側の塀を木っ端微塵に吹き飛ばし、家の硝子を割り、植えてある柿の木をぶっとばし、剣介を軽々と10m以上も吹き飛ばした。
「マジか!!!???」
所謂見た目では判断出来ない攻撃技だったようで前側の塀があった所らへんは地面やアスファルトも抉れてクレーターが出来ていた。
因みに、何故こんな大爆発が起きたのに人が集まらないかと言うと、まず周りは田舎では無いのに珍しく田畑に囲まれていて近隣の家は耳の遠いお爺ちゃんお婆ちゃん位しか居ない為だ。
「やっちまったな・・・・ん?」
もくもくと巻き上がる黒煙の中に何かを見付けた剣介。
「まさかーー人!?」
人だったら既に死んでいるだろうが微かに動いている。剣介は警戒しながらゆっくりと近付いて行く。
「・・・・・・・・・・・・!!?・・・・・・馬?」
なんと倒れて居たのは真っ黒な馬で同様に黒い鎧で身を包んでいた。
「どうしよう・・・・今日は馬刺か?」
そう冗談で言い出すと黒い馬がすぐに立ち上がり、ブルルンと鼻を鳴らす。
その傍ら、馬が倒れていた所に今度は黒くプレートアーマーとは思えないゴツさをした鎧を纏った人が居た。
どうやら馬に押し潰され、気を失ってるようだ。
剣介はすぐに駆け寄り、うつ伏せの人物を仰向けにするとーー
「お、女の子?」
銀の肩まである若干ショートヘアの女の子だった。
よく見れば鎧も一応女っぽくは作ってある。だがそれよりも今は女の子の安否が重要な剣介は急いで≪レイヴニル≫を持ってきて女の子に握らせた。
気付けば馬も心配そうに見ている。
それから数秒すると女の子が勢いよく起き上がった。
「良かった!君、大丈夫ーー」
「キャァァァ!!」
メギョ!
「ブ!」
剣介の顔面に女の子の咄嗟の左裏拳がヒット。
アニメのように口からキラキラと血を吐きながら剣介は力無く道路に倒れた。
「ど、どうして俺は・・・・鎧の女に攻撃させる・・・・の・・・・」
ガク。
辺り所が良すぎて本当に気絶した剣介を見た女の子は「あわわわわ!」と顔を青ざめ、馬に跨がって逃げてしまった。
その速さは恐ろしく、あっという間に姿を眩ました。
その後、剣介が発見されたのは夕方の6時。腹をすかしたキリヤが庭に出た所で発見された。
因みに、キリヤは辞書を読むのに夢中であの爆発音に気付いて無かったらしい。