第23話 腕相撲!
4月下旬の月曜日、キリヤや俺が通う河口北東高等学校の2年1組の教室にて激しい闘いが行われていた。
皆は『腕相撲』と呼ばれる競技をご存知だろうか?
腕相撲は、腕の力を競う遊びまたは競技の一つである。また、度々アームレスリングと混同されがちだが、似て非なる全く違う競技である。以下Wikipediaより。
「ぐぬぅぉおおおお!」
「ふふふ。その程度か・・・・ふん!」
「ぐはぁ!」
遂に教卓にヒョロメガネの手の甲が付いた。つまりは負けだ。
反対に勝ったマッチョメンはよくあるマッチョポーズを決めると黒板のトーナメント表に記されたヒョロメガネの名前をチョークでバツ字。優勝へと駒を1つ進めた。
「あー、やっぱ強ぇな斤仁熊 槌世(きんにくま つちよ)は。優勝確定じゃん」
俺のクラスメイトの斤仁熊槌世はこの学校1番の豪腕だ。高2のくせして肉体はボブ〇ップ以上。はっきし言ってキモイ。
「なぁ剣介、お前なら彼奴にも勝てんだろ?」
俺が皆から少し離れて見ていた所に我が友、裕二が耳打ちしてきた。
「さぁ、な。しかし、学校1番と言っても麻理には勝てぬだろう。彼奴は最早チートだ。聞いただろ?麻理の握力片手で600kgだぜ?両方じゃ1tオーバーだぞ。ゴリラのギネス並みだぜ?」
「化け物だな」
「おーい、裕二。次、お前だぞ」
「ほいほい。んじゃま、軽く潰して来るわ」
「御意」
ん?何で腕相撲をやっているか?そうだなぁ、事の始まりは先生の一言だった。
先生が「席替えはクラスで1番強い奴が好きな奴を隣に出来る事にしたわー」だと。この一言で野郎共に火が点いてこうなっている訳だ。
因みに女子も女子で最強を決めている真っ最中だ。まぁ、最強は麻理だろうな。
「剣介、どう?勝ってる?」
「ん?キリヤか。まぁ、一応な。キリヤはどうだ?」
「うん。全員瞬殺」
「流石女神様だ。闘うのは回避したいな」
「剣介ー、お前の番だぞ」
おお?もう俺の番か。これに勝ったら・・・・裕二と勝負か。
「んじゃ、軽くいきますか」
「頑張って」
◇
「ふっ・・・・まさか剣介と闘う事になるとはな・・・・。手加減して」
「別に構わないけど」
「それでは、ガン〇ムファイト、レディ・・・・ゴー!」
「憤怒ぅ!」
「何だよふんぬって・・・・てゆうかそれ本気かよ」
「まだまだぁぁ!」
「ほい」
「あっ・・・・」
瞬殺だな。裕二弱すぎ・・・・。
「流石剣介、後は斤仁熊を倒すだけだ。負けるなよ」
「いや、俺優勝する気無いから」
「「はぁ!」」
メキメキ!バキャ!
突如俺達の後ろから木が割れる音。振り返ってみるとなんと麻理とキリヤが腕相撲で机を1つ破壊していた。
あ!それ俺の机じゃん!うわぁぁぁ!中のPSPが・・・・割れてるしぃぃぃぃ!
「中々強いじゃない、キリヤさん」
「麻理さんも充分強いですよ」
「お前ら、もっと静かに腕相撲しろや」
「おい剣介!最後はお前との勝負だ!」
「へいへい。やるから待ってろ」
遂に斤仁熊との勝負だ。
言っておくが、弱めにやっても負ける事は無い。断言しよう。
「それでは、ガン〇ムファイト、レディーー」
「「「「ゴー!」」」」
「ふん!」
「・・・・」
「け、剣介・・・・お前こんなに強いのか!?」
「あぁーと!斤仁熊 槌世まさかの剣介がびくともしない!これは予想外!」
「ぐぐぐぐぐ!」
「ぬぉらぁ!」
グイ!ダン!
遂に敗れたゴリマッチョ、斤仁熊 槌世。まぁ、仕方ないな。
あ、勝っちまった・・・・。
「さぁて!男子優勝は剣介!」
(ヤダナァ・・・・。隣の人を決めるとか、選ぶの面倒だし・・・・てゆぅか、一番後ろで独りが良いなぁ)
「さて!女子も優勝者が決まりました!優勝はーーキリヤさん!」
「何ぃ!?」
「あの麻理を下して優勝!お次は剣介との勝負です!」
「負けないよ」
「ま、待てよ!よく考えると女子と腕相撲しても勝負にならんだろ!」
「何言ってるんだ!あの麻理を下したんだぞ!まさか・・・・負けるのが恐いのか?」
クソ!コイツら、俺が殺られるのを見たいだけだろうが!
しかし、キリヤもヤル気満々だし・・・・断ると事が進まないし・・・・やむを得ん。
「よし!キリヤ、勝負だ!」
ガシ!
俺はキリヤの手を握って腰を下げる。左手は教卓を掴んで完全戦闘状態へ移行する。
「あっ・・・・あ、ちょっと待って」
突然俺の手を振り払って後ろを向いてしまったキリヤ。
後ろから見ても分かるんだが何故か呼吸が荒い。
(な、何今の!?剣介に手を握られただけなのに心臓が跳ね上がったみたい・・・・。あぁっ、どうしよう!これじゃあ集中出来ないよぉ)
「キリヤ?」
「あだ、大丈夫!続けよ!」
「なぁ、もしかしてキリヤさん、剣介に手を握られてビックリしてたよな?あれって反応が・・・・」
「顔も赤いし、ありゃあ完全に剣介を意識してるな。くっそぉっ・・・・剣介の奴、羨ましい・・・・!」
何やら後ろで何人かがヒソヒソ話しているが、どうせ俺の悪口とかだろ無視無視。
そういや、キリヤが弁当を持ってきて以来、クラスの男子が俺を何かと叩くようになったんだよなぁ。
「言っておくが、俺は手加減しないぞ」
「わ、私だって!」
互いの手を握って戦闘状態へ。でもキリヤの手は震えている。
大丈夫か?
「「「「レディーーゴー!」」」」
バキャ!
「あれ?」
覚えていたのはほんの一瞬。
皆の掛け声でスタートした俺とキリヤの腕相撲で、俺が腕に力を入れた瞬間、何かが折れた音と共に俺の視界が逆さまになった。
次に後頭部に衝撃が走り、目の前には変形した我が右腕と大破した教卓、そして笑っているクラスの皆。
俺が覚えているのは其処まで。
そして気が付いたのは放課後の席替えされた教室で、隣にキリヤが居た。
キリヤ曰く、あれで気絶した俺は放っておいて皆で席替えを済まし、キリヤの希望で隣を俺にしたらしい。
因みにキリヤは一番後ろで窓際。俺はその隣。
「・・・・皆は?」
「帰ったわ。あの・・・・剣介、右腕ごめんなさい」
「へ?」
「私、緊張してて、それで力んじゃって・・・・それで、≪レイヴニル≫は剣介しか呼べないから直せなくて・・・・ごめんなさい」
「なぁに、気にするなよ。別に気にしてないから。≪レイヴニル≫」
キィン。
「ほら、すぐに治るしさ。気にするなそんな事」
「でも私・・・・」
「はいはい、その事はもうお仕舞い。さて、帰るぞ。今日の夕飯はカルボナーラだ。俺の得意料理だから楽しみにしろ」
「・・・・」
「ほら行こうぜ。・・・・なんだ?もしかして女神様抱っこが良いのか?」
「違うわよ!・・・・はい」
「?」
「手・・・・繋いで。剣介が私に心配させたから・・・・ば、罰として」
えぇ?手を繋いでって言われても・・・・ちょっと恥ずかしいし・・・・。あ、成る程ね。それで罰なのか。
「分かった。ほら俺の手で良ければどうぞ女神様」
「・・・・ばーか・・・・」
「何?」
声小さ。聞き取れないんだが。
「何でもないっ。はい、い行くよ」
「応」
結局まだ治りきっていない右腕をキリヤに引かれて家路についた俺。
道中、キリヤの顔は紅葉(もみじ)みたいに紅潮しているように見えた。手を繋いでいるのもあるし、夕陽のせいでそうなったのかも知れないが、やっぱりキリヤの手は震えていた。