第24話 愛を知る出逢い
キリヤが剣介宅に住み始めてから早2週間余り。土曜日の昼前、今日は珍しくキリヤと剣介が口論をしていた。
「剣介ぇぇぇぇ!お腹減ったぁぁぁぁぁ!」
「駄目だ!そんなに食うと太って体を壊すぞ!どうしても食いたいのならこのイナゴを食すべし!」
「蟲嫌ぁぁぁぁ!違うの食べたいぃぃぃ!」
「イナゴが食べれないなら其処ら辺の野草を食べればいいだろ!このままじゃ金が無くなるんだよ!頼むから我慢してくれ!」
「剣介のケチ!鬼!鬼畜!悪魔!」
「あぁ!それを言っちゃあお仕舞いだ!もう良い!勝手にしろ!」
バン!
キリヤの一言に頭に血が昇りきった剣介が自身の財布をテーブルに叩き付けてリビングを出ていく。
「え?剣介?」
バタン!
何も言わず自宅を後にする剣介。
そして家に独り取り残されたキリヤは剣介が出ていって暫くした後、やっと事態が呑み込めたキリヤが額から汗をダラダラと流し始めた。
「どうしよう・・・・料理なんて出来ない・・・・」
◇
「ーーで、私の所に来た訳ねぇ」
「そうなんです。麻理さん、私、どうすれば良いんでしょうか?」
場所と時は変わり、昼過ぎの二階堂宅。
剣介が居ないと自力では生活出来ないと漸く理解したキリヤが最後の手段として麻理のもとに転がり込んできたのだ。
因みに、二階堂家は昔から金持ちの家で、此処等一帯で二階堂の名を知らない者は居ない。
「先ずはケンちゃんに謝りましょ」
「で、でも剣介が何処に行ったか分からなくて・・・・先程まで探知してるんですが見付からないんです」
(ケンちゃんったら、家事も女の子1人残して出ていくなんて。ん?確か私もそんな事があったような・・・・まぁいっか)
「失礼致します御嬢様。御茶を持って参りました」
「ありがとー爺。其処に置いておいて構わないよー」
「承知致しました」
黒いスーツを纏い白い髭を蓄えたいかにも執事なオーラを放つ細身のお爺さんが麻理とキリヤの間のテーブルにお茶を丁寧に置いていく。
「あの、貴方は此処で執事をこなしているのですか?」
「左様であります。しかし、私はまだ御嬢様の執事になって2年も経っておりません。一番御嬢様の執事をこなせる方は剣介殿しかおりません」
キリヤの質問にも丁寧に応答し、気になる一言を残した。
「剣介が?」
「そうよー。ケンちゃんは5歳の頃から3年間、私の執事をやってたのよ」
「何でまた」
「剣介殿は両親に捨てられて独りでした。それをある日に家出をなさった麻理御嬢様が公園でーー」
「すみません、剣介が両親に捨てられたってどういう事ですか?」
「聞いてないの?じゃあ私がケンちゃんと逢った時の頃から話すわ」
◇
私が初めてケンちゃんをこの目で見たのは今から12年も前の事。それは今でもハッキリ覚えてる。
ザァァァァァ!
その日はとても雨が強い日だった。それこそ、目も開けられないような激しい雨。
「ぐす・・・・お父さんが悪いんだ・・・・」
当時、私は父と些細な事で喧嘩をし、家を飛び出していた。
お父さんに嫌われてると思っていた私はただ何も考えず歩いていたわ。そしたら激しい雨。
服が濡れるのを恐れた私は近くの公園の滑り台の下に避難。それから30分程雨が止むのを待っていた。
「雨、止まない・・・・」
しかし雨は止むどころか強くなっていき、5m先を見るのも困難となっていた。
キィ。
「何?」
私の後ろの方から何かの金属音。
私は恐る恐る目を凝らして見た。
その時だった。私がケンちゃんを見付けたのは。
パシャ。パシャ。パシャ。
私はいつの間にかブランコに濡れるのも構わず座っていた少年、ケンちゃんの前に立っていた。
寂しそうだったから、今、独りだから、そういうような私と同じ感じがしていたから、その時近寄ったのかも知れない。
「風邪引いちゃうよ」
「・・・・」
反応はかなり悪かった。
私もずぶ濡れになりながら質問をしているのに一向に返事もしなければ微動だにしない。
それでも、私は何故か話し続けていた。誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。
「私ね、家出しちゃったの。お父さんが私に好き嫌いせずに食べろ!って言って怒ってね。・・・・お父さんは本当は私のこと嫌いじゃ無いんじゃないかって」
「それは無い」
「へ?」
「それは無い」
初めてケンちゃんが口を開いた。
私がいったことをハッキリと否定し、話してくれた。
「お前のお父さんが怒ったのは嫌いだからじゃ無い。お前の為に怒ったんだ」
「私の・・・・為?」
「お前が好き嫌いばかりしていたらいつか病気になったり、死んでしまうかも知れない。そしてお前のお父さんはお前が大好きだから、愛しているから、お前が健康で元気でいられるように怒ったんだ。それを、自分が嫌いだからなんて言うのか?」
「うぅん」
「そう言う事だ。分かったら帰るんだな。親が、家族が待っているだろうよ」
「でも、貴方はどうするの?どうしてここにいるの?」
「・・・・独りなんだ」
「お母さんは?お父さんも居ないの?」
「皆居ない」
「独りなんだ」
「そうだよ。ほら、迎えに来たぞ」
「麻理ーーー!麻理ーーー!どこだーーー!?」
「あ、お父さん・・・・。おとうさーーーん!」
私はお父さん目掛けて走った。
自分には愛を注いでくれる大切な家族が居る。5歳の頭でもちゃんと理解し、喜んだ。
「麻理!大丈夫か!?風邪引いてないな!?良かった・・・・!」
「お父さん・・・・ごめんなさい、私、お父さんに嫌われてると思っていた」
「誰が大事な愛娘を嫌うものか!さぁ、帰ろう」
「あ、待って。ねぇー、貴方の名前はー?」
私はケンちゃんに向かって目一杯声を出した。それにケンちゃんも答えてくれた。
「光明 剣介!じゃあね、二階堂 麻理ちゃん!」
そう言うとケンちゃんは私とは反対の方向に歩いていき、姿を消した。
冷たく激しい雨が降ったその日、私は『愛』を学び、家族の大切さを学び、そして、ケンちゃんと出逢った。