第5話 突然過ぎてついていけませんよ
「ちょっと。起きて、起きてください」
「んあ?・・・・あぁ!?」
何分位気絶してたのだろうか。俺の意識がハッキリして始めに視界に入ってきたのは俺を攻撃したあの娘の顔だった。
覗き込むようにして顔を近づけているのは驚いたが更に驚いたのは後頭部の膝枕だ。
「な、何を!?」
膝枕なんてされたことない俺は驚きと恥ずかしさからちょっとしたパニックを起こして飛び上がろうとする。
「あっ!駄目です、今動いたら・・・・」
そんなの俺の耳に届くわけがなく、一気に魔力をほほ全て行使した後の俺の肉体は急な動きに悲鳴を上げ、全身を激痛が襲う。
「いってぇ!体が!うおおおお!」
少しでも痛みを和らげたい俺は効果があるか定かではないが、兎に角声を出した。
「うううううううっ!」
筋肉が痙攣する度に意識が飛びかける。
すると背後から小さな笑い声が聞こえてきた。
「ふふっ。面白い方ですね、貴方は」
「な、何っがっ、あ!」
痙攣がやべぇよ。死んじゃう。俺死んじゃう。
「元気で良かったです。その様子なら簡単には死なないと思いますよ」
「うっ、うっ、ううっ!」
「ところでお聞きしたい事が有るんですが・・・・」
「剣っ!剣とってぇ!」
「これですか?」
ガシッ!
彼女が渡した≪レイヴニル≫を鞘に戻し、両手で柄を握って胸に当てると体の痙攣がおさまり、痛みも無くなってきた。
「ふぅ。助かった・・・・」
「それは?」
「ん?あぁ、こいつは≪レイヴニル≫っていう剣で、鞘から抜くと魔力を持っていかれちゃうんだが、鞘から抜かずに持っていると傷とかを癒してくれる効果があるんだ」
「≪レイヴニル≫・・・・」
「で、そのツーハンデッドソードは貴女のですか?女神様?」
ソファに立て掛けられたツーハンデッドソード≪戦女神の剣(ヴァルキュリアブレイド)≫を仰向けの状態から指差す。
「な、何を言っているか分かりません。女神?何の事ですか?」
「あくまでシラをきるつもりですか?め・が・み・さ・ま?」
「・・・・何時から」
「貴方が目覚める前から。そのツーハンデッドソード≪戦女神の剣(ヴァルキュリアブレイド)≫がずっと反応していたのが根拠です。なにせそれは父が『アース神族にしか反応しない筈。持ち主が来たら還してやってくれ』と言っていたんで」
「はぁ・・・・。そうてす、そうですよ。この私がヴァルキリーの一人、キリヤです」
「ではキリヤ様。その剣はやっぱり貴女様ので?」
女神と認めたら此方の話し方も丁寧にしないとさっきみたいに攻撃されるかもしれねぇしな。というより神様だろ?丁寧な口調は当然じゃね?
「いいえ。これは私の姉でもあるブリュンヒルデの剣です。ところで、まだ貴方の名前を聞いていないのてすが」
「これは失敬。俺の名前は光明剣介。ミズガルズに住み、悪霊や魔物等の退治を稼ぎとする健全な能力者です」
「能力者!?」
「そうですよ。そう言えば、どうして貴女がミズガルズなんかに?」
「私はオーディン様の命を受けてこのミズガルズにラグナロクの戦力となる能力者を探しに来たんです」
「でもどうして空から落ちてきたんですか?」
「えっ?私、空から落ちてきたんですか?」
「そうですよ」
そこんところの説明をちょろっと済ませるとキリヤ様が「思い出した!」と両手をポンと叩いた。
「実は恥ずかしい事なんですが私、此処に来るときにビヴロストで足を滑らせてしまったんです。それで・・・・」
(マジで!?うぅっわダッサ!本当に女神なのか疑っちまうぜ)
「あ、今ダサいとか思いましたね!謝罪してください!」
(ヤベ!バレてた!)
「ごめんなさい。で、突然なんですが俺はそろそろ勉強しなきゃならないんですみませんが帰っていただけませんか?」
「本当に突然ですね。それで私も突然なんですが、私、帰るところ無いんです」
「は?アースガルズには帰らないんてすか?」
「そうしたいのは山々なんですがビヴロストを開くこの宝石が反応しなくて、それにオーディン様の命で3ヶ月は能力者を観察しなきゃならないんですよ」
「不良品つかまされたんじゃないんですか?」
「私、ミズガルズに来るのも初めてでどうすれば良いかも分からないんですよ・・・・」
如何にも「憐れなこの私を泊めてくれ」と言わんばかりの口調。しかしこの俺とて男の端くれ。此処で困り果てている女性のお願いを断っては男が廃るというもの。どのみち家には俺しか居ないし。
「はぁ、まぁ良いですよ。ちょっと待ってて下さい、今から部屋を片付けますから」
≪レイヴニル≫のお陰で体力が回復した俺は立ち上がって首を回す。
「泊めてくれるんですか!?」
「構いませんよ。あ、そうだ。キリヤ様、1つお願いがあります。此処で暫く暮らすにあたって、まず俺は貴女を1人の家族として受け入れます。それによって対等な立場となって神も人もある程度の上下関係をなくします。なので互いに敬語は無し。他人行儀も無しです。てなわけで、キリヤ、飯は適当に食べててくれ。棚にパンがあるから」
俺はキリヤにそうとだけ言って2階の使っていない部屋を掃除しに行く。
「本当に突然過ぎてついていけませんよ。でも何だろう・・・・悪い気はしない・・・・かな?」
キリヤは得意の修復魔法で割れた大きな窓や穴が空いたフローリングの床を綺麗に直してから棚のチョココロネを頬張った。