第6話 問題!
コキン、コキコキ。
時は午後6時21分、一通り掃除等を終えた俺は湯船に浸かって肩を回し、首を回し、そして全身の筋肉を解した。
「あぁーーーーーーーーー。疲れた」
日本人として風呂に浸かるのは欠かせないな。こういう時は日本人として産まれて良かったと思うぜ。
「痛ぅ!げぇ!?硝子が刺さってやがる、さっき庇った時か。気付かなかった」
太股に突き刺さった2cm程の硝子の破片を引き抜くと穴は空いていたが血は出なかった。魔力による止血が効いているんだろう。
「しっかし、女神と生活とはな・・・・。明日らへんに其処らを案内するか」
ザパァ。
◇
「キリヤ、風呂入っちまって良いぞ」
「け、剣介。パンが無くなっちゃった」
リビングに入ってきた俺は見事に荒らされた部屋を見て溜め息をついた。
因みについさっきまでは敬語っぽかったが大分慣れたようだ。俺だっていちいち慣れない敬語を使って喋るのも面倒だしな。
でも先ずは人間生活に慣れさせないとな。
「キリヤ、歳幾つ?」
「私?17くらい?」
「17くらいって・・・・。だったら片付けくらいしてくれよ~~。まぁ良いや。今から夕飯作るからそれまで風呂にでも入ってたら?」
「そうするわ」
テーブルから飛び降りて風呂場に向かうキリヤを見てふと思う。
ーー神様ってそんなに飯食うのか!?
折角買い置きしておいたチョココロネを始めとした菓子パンを全てその胃袋に収めておいてまだ食い足りんとは、恐るべし女神!
「こりゃあ料理人(自称)の腕がなるぜ」
「剣介ぇーーー!お湯が止まらないよぉーーー!」
「うわぁ!ちょっと待ってくれ!」
◇
翌日。
「剣介、おかわり」
「もう5杯目だぞ!?」
たった1日足らずで2人の会話は本当の家族のようになった。これも剣介が積極的に話し掛けたりした結果だ。それに加えてキリヤの順応性が高いのもある。
「俺もそろそろ学校に行かねぇと」
「学校?人間が学問を学ぶ所?」
「そうだよ。良く知ってんじゃん。あぁもう時間だ、じゃあ留守番頼んだ」
剣介はバッグを持ってフランスパンをくわえながら走って行く。
そして剣介が出てから数分後、キリヤがキッチンカウンターを見ると赤い手拭い包まれた箱を発見した。
「これって・・・・弁当箱?」
◇
河口北東高等学校、俺が通う高校だ。偏差値は至って普通。部活の成績も普通で平和な学校だ。
その校舎1階の一番端、俺のクラス2年1組で俺は机に突っ伏していた。
「よう!どうした剣介?寝不足か?」
俺の頭を『やる気スイッチON!』と書かれた真っ白な下敷きを縦にしてガンガンと叩く男は俺の親友、屋ヶ田裕二だ。こいつとは中学の頃からの付き合いで、能力者である俺を「其処らの馬鹿と変わらない1人の馬鹿」と称している。
良いヤツなんだがたまに意味分かんないこと言うから困ったヤツでもあるんだ。
「あぁ。色々と大変でな・・・・」
「何々?ケンちゃん疲れてるの?だったら私が肩揉みしてあげるー」
今度は背後から麻理がのし掛かってくる。コイツ、何かと俺に抱き付いたりしてくるから困るんだよな。特にコイツの胸とか当たって。
「ありがたいが、いい加減のし掛かったりするのは止してくれ」
「むー!何よぉ?私が抱き付いてやってるのにぃ。だったらこうだ!」
ゴキゴキ!
うお!?この野郎いきなり俺の肩を破壊しに来やがった!
「ぎゃぁぁぁぁ!?お、落ちつーー」
「せい!」
ゴキン!
「あんぎゃぁぁぁぁ!!」
「仲がよろしくて」
裕二の野郎、後で覚悟してろよ。麻理もだ!人の肩破壊しやがって!
「た、たたっ大変だぁーーーー!」
俺が痛みに悶えているとクラスメイトの脇ノ沢 夜久(あだ名・脇役)が勢い良く教室のドアを開けて走ってきた。
「どうした脇役!まさか、例のブラックGがトイレに現れたか!?」
「違うんだ!が、外人のっ!外人の可愛い娘が剣介に弁当を届けに来たんだ!」
「「「「なにーーーーーーーーー!!??」」」」
(いかん!これは死ぬ!)
「ケンちゃん。外人の娘って誰?」
メキメキメキ!
俺の肩から圧力警報が!
「剣介流石!」
裕二は助ける気配無し。
どわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!死ぬぅぅぅぅ!!
「やっと見つけた。剣介、お弁当忘れてたわよ」
殺意で満たされた男子共の手が俺に届く寸前。教室後ろの窓枠にいつの間にか腰掛けていたキリヤがにっこりと微笑んだ。
俺はその時初めて彼女が可愛いと感じた。