――お兄ちゃんは優しいね。
遠い記憶の少女が、俺に語りかける。
俺は優しくなんかない。ただ、求められる場所を探していただけ。
――それでも、お兄ちゃんは優しいお兄ちゃんだよ。
違う。俺は知ってるんだ。
嫌われたくないから理想の兄であり続けるだけ。その理想の兄も、普通の人間なら反吐が出るような物に違いない。
――ずっと優しいままでいてほしいなぁ。
無理だ、いつかボロが出る。
きっと俺は嫌われてしまう、仮面はいつか剥がれてしまう。
――でも私を助けてくれたよ?
君に戦いを教えたのは誰だ?いっぱい殺すように教えたのは?
トマホークを握る右手が疼く。
どうして俺はこんな事をしているんだろうか、どうしてただ現実を知りたいだけの少女を傷めつけなければいけないのだろうか。
この手の内にあるものは、捨てたはずだった。
日本に来て、俺は悪夢から逃れたはずだった。
なのに。
また同じ事をしている。
過去から逃れる事は出来ないとでも言うのだろうか。
俺は過去を忘れたいのに。
「ぐっ……まだだ……まだ……」
クリームヒルデが剣を支えに立ちあがる。
どうしてそんな目が出来るのだろうか。
どうしてそんな充ち満ちた目が、この状況で出来るのだろうか。
知りたくて仕方が無い。
彼女を潰せば、知る事が出来るだろうか?俺は7年振りに先に進めるだろうか?
「…………ラウラ、お兄ちゃん、進めるかな?」
トマホークを手のひらで何度も何度も回す。
「うらぁあああああああ!!!!!!」
希望に満ちた少女が剣を振りかざして走って来る。
ミカはこうなると分かってあんな事を言ったのだろうか?
知りたい事がある。
それを探すために、俺は走る。
お互いの距離が限りなくゼロに近くなった時、決着はつく。
クリームヒルデが渾身の一撃を振り下ろす。
それに答えるように、俺も剣目掛けてトマホークを思い切り振り下ろす。
火花を散らして剣が、斧がぶつかり合い、その瞬間に戦いが始まる。