――ウルフィアスは安堵したように息を吐くと、部下に結界を解くように言った。
皆、この戦いにそれぞれの思惑で夢中になっていて歓声やらが出なかったらしい。
と、姫は結界が解けるや否や、二階のテラスから勇敢にも飛び降りて真っ先にクリームヒルデの下へ向かう。
「クリーム!おい変態、クリームは無事なんだろうな?」
お姫様の問いに俺は頷く。
なんだか声を出して答える事が、今の俺にとっては非常に困難な事に思えた。
理由は、やっぱり今さっきの一戦にあるに違いないのだろう。
お姫様が介抱していると、クリームヒルデの副官であるテオも駆けつけてきた。
どうやら彼女の人望は厚いようだ、テオだけじゃなく他の騎士たちも駆けつけてきたようだから。
俺は何も言わずに立ち去ろうとする。
左右の手に殺すための武器を持ったまま。
そんな時、声を掛けられた。
声の主は、今まさに意識が回復したクリームヒルデ。
彼女は弱った声で、しかししっかりとした口調で言う。
「変態、ありがとう」
「いやいや、褒められるようなことしてないよ。ただ女の子を殺しにかかっただけだから」
頭ごなしに否定するのはコミュ障だってネラーがほざいていたが、今は否定するより良い選択肢があるようには思えなかった。
それに、本当に俺は何もしていない。ただ過去に縛られている事を再確認したにすぎないのだ。
そもそもシリアスになっても変態はそのままなんですね皆さん。
彼女は続ける。
「お前はそうでも私には沢山学ぶべき事があったようだ。お前はそれに気づかせてくれた……なぁ、その、なんだ。お前に頼みが……あるんだ」
なんだこの恥を忍んでお願いしてますみたいなシチュ。
なにか込み上げてくるものがあるが我慢する。
「なんだい?俺が出来る事ならなんでもするぜ?」
相変わらず、今の俺は不機嫌そうな顔をしていただろう。
しかし彼女はそんな事を気にせずに、ちょっとモジモジしながら頼みを言う。
告白シチュみたいだぞ。
「私に……その、稽古をつけてほしのだ……だめ、かな?」
あぁ、やっぱり俺は過去から逃げきれないみたいだ。
と、その瞬間周りのクリームちゃんを支持する会の人達が一斉に俺の事を睨んだ。
Yes以外の選択肢が消し飛んだ瞬間だった。
「ま、喜んでお引き受けいたしましょうや」