念のため、室内をもう一度クリアリングして安全を確保する。
他には誰も居ないようだ。
俺はナイフを取り出しミカを縛っている縄を切っていく。
「すまない」
それだけしか言葉が無かった。
ミカはこう見えて、幾分か俺を信頼してくれていると言うのに、俺はそれに答える事が出来なかったのだ。
悔しい、それ以外に言葉はあるまい。
ミカは何も言わずに立ち上がると、気絶している部隊長のそばで何か言った。
一瞬見えた口の形は、どこか謝っているようにも見えた。
言い終えたミカはくるりとこちらを向いて二コリと微笑む。
「助かりました郁葉、丁度足が痺れてきたんです」
その言葉に少し安心する。
精神的には大丈夫なようだ。気丈に振る舞っている事も考えたが、震える事もしなければおかしな挙動も見せていない。
普通の人間なら誘拐されるなんてトラウマモノだ……そう、夢に毎日出るくらいに。
だが俺の心はまだ安心しきってはいなかった。少し目を離したら、ミカがまたどこかへ消えてしまいそうだったからだ。
俺はミカを手元に引き寄せ抱きしめる。
あ、っと驚くミカの幼い匂いが心を落ち着かせてくれる。
「まったく……どっちが助けに来たんだか」
呆れたように言いつつも、嫌がらないミカは優しい。
俺もしばらくその優しさに触れ続けた。