『容姿』
逃げて行った海賊たちを捕え、町の処理に海軍の者は忙しそうに動いていた。
リベリーを倒したのち、アスラは気分を害しており、現在は海軍基地内食堂のイスに座ってうつむいていた。
初めて人を殺したからである。
「やっぱきついな……」
平和な日々とは真逆な世界、一瞬で死ぬかもしれない世界。
「もっと平和な世界が良かったな……悲壮感に浸ってられないか、やれることをやろう」
イスから立ち上がったアスラは襲撃を受けて傷ついた町へと向かった。そのタイミングで、
「ああ、アスラ君ちょうどよかった。リベリーの賞金額一億五千万ベリーだよ」
アルストレイが金の入ったバックを渡してきた。
「……どうも」
「どうかしたのかい?」
「いえ、自分が貰っていいものなのかと」
食堂内で待っていたのはアルストレイが報酬を渡すということで、落ち着いている食堂で待たされていたが、なかなか来なかった。やはり忙しいのだろう。
「彼は君が倒したんだ。懸賞金を貰うのは当然じゃないのかな?」
「いえ、こんな時に貰うのは……」
「これは町を救ってくれたお礼だよ、君が来てくれなかったらもっと多くの町民に被害が出ていた。これぐらいの礼をするのは当然だと思うがね」
「……分かりました。受け取っておきます」
バックを受けったアスラは基地を出て忙しそうに働いている人たちの間を抜けながら進む。
時折町を救ってくれた礼を言いに来る者もいた。町を救ってくれた人物として名が広まっていた。
また、女性たちの視線が気になった。
「俺なにかしたか? 妙に視線が」
視線を感じたほうを見てもすぐに逸らされてしまう。
「うーん、恐怖の対象として見てるのかな、作業を手伝おうと思ったけど、早く出たほうがいいかな」
アスラはキョロキョロとあたりを見回し、
「ああ、いたいた」
目的の人物を発見した。
「アスラさん。あ、あの時は助けていただきありがとうございます」
「いえ、そんな畏まらなくても」
「で、でも……」
女性はアスラとの視線を逸らす。
「うーん、まぁいいか、ああそうだこれ町の復興に使ってください」
「え! そ、そんな受け取れません」
「いいんですよ、俺がそうしたいから」
「でも……」
「受け取ってくれるまで付きまといますよ」
「わ、分かりました。ありがたく使わせていただきます」
「いえいえ、ああそうだ。俺なんか気に障るようなことしましたか?」
「え?」
「いや、なんか町の女性たちからさけられているような気がして……」
「えっと……アスラさんがかっこいいからではないでしょうか」
「え!?」
アスラは驚いた。生前の一条健としての容姿はそこら辺にいる男子といった程度だった。
この世界では違うのか? と考えたが、アスラはふと思った。
名前が違うのだから顔が変わってもおかしくないのではない。そう考えた。
「えっとすいません。鏡はありませんか?」
「鏡ですか? 小さいのでよろしければありますが」
「貸してもらってもいいですか?」
「どうぞ」
女性から手鏡を受け取り、自身の顔を見たアスラは驚いた。
自分の顔が四次ランサーディルムッドだったからだ。
(四次の容姿に五次の武器か……あの神様はケルト関係の神だったのか?)
そして女性たちから視線を感じる理由が分かった。
(Fate作品内でも神話上でも魔貌のせいで色々あった人だからな)
そしてふと新たな疑問が生じた。
(身体能力は上がっているがディルムッドという存在からは反映されていないのか?)
ディルムッド・オディナは神話上騎士団随一の容姿を誇り、投擲の才を持っていた。
アスラが思ったのは投擲能力であった。
(投擲としてのこの槍の効果は感じない。けど投擲力さえあればそれはカバーできるし)
考え事に没頭しすぎて、目の前で女性に呼ばれていることなどに気が付くのに数分かかった。
「まぁ疑問に感じたらあとで試せばいいか」
宿で一泊したのちアスラは村の人たちに送られて歩き出す。
「行先は……適当でいいか」
槍を持った右手を高々と上げ、村の人たちの声を背中に浴びる。
後日、アルストレイは町の復興資金として町娘が一億ベリーを手にやってきた時に苦笑した。
復興までの日数が半分で済んだのはうれしい誤算だった。