小説『魏者の成り立ち』
作者:カワウソ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 ベッドから出るや、カーテンを開けてみても、まだ暗がりが残る。まるで、深海に居るような暗さ。月が程よく綺麗に見え、星が散らばる。曇ってないのが一目で分かる。
特にすることもなく、二度寝も出来るんだが、そういう気分でもなくなってしまった。丁度小腹も空き、コンビニにでも行こうと用意を済ませ、家を出る。
 意外と肌寒いな…。吐く息は白くもないんだが。一応上着を着たのにも関わらず。
 スポットライトで照らされるように、その女性は防犯灯に照らされていた。本来の用途を思わせないように、役割を果たし続ける防犯灯。それに答えるように、彼女は顔を伏せており、髪は黒くボブヘアーに白い着物に身をくるむ。正しく幽霊を彷彿させてくれる。
 確かに足はある。足があるからと言って幽霊ではないと言う確証はないが、自分に言い聞かせるにはいい薬である。
正直言って、雰囲気が雰囲気の為、怖いからささっとコンビニに行って帰ろう。
 彼女の前を通るはめになるが、幸いと言うべきなのか、コンビニはすぐそこなのである。
通り過ぎる瞬間、無意識に息を止めてしまい。通り過ぎた時には足早にコンビニへと駆け寄る。
 コンビニの中は暖かかった。よくよく考えてみれば、こんな思いをしてまでコンビニ何か来なくても良かったのだと思い知る。
あんまりマイナスに物事を考えたくないし、とっとと帰りたいからお目当てのものを買って帰ろうと思った。んだが、何で気付いた時にはレジの前なんだ…?
 しかも、買おうと思った物以上のものを買っているんだが。実はまだ眠たくて気付かない内に買ってしまったんだろうか? それともコンビニあるあるのついつい欲しくなってしまったから買ったのだろうか?どちらにせよ。買ってしまったものはしょうがない。それにしてもどうやって買ったんだろうか?
 レジの前で立ち往生していたせいか、店員が心配してきた。一先ずコンビニから出る。閉まりきらないドアを余所に、何を買ったのか品をチャックする。
 パン、おにぎりまでは自分の欲しかったもので良かったのだが、温かい飲み物が二つに肉まんが二つ追加で買っていた。飲み物はまだ理解できるんだが、何故二本買ったのか理解できない。これは食べるものを食べて二度寝確定だな。
そう思い来た道を辿ると、まだ防犯灯の下に彼女が立っていた、同じ姿勢のままで。これには益々恐怖を感じるしかない。
 余程白い着物が大切なのか、彼女は電柱に背凭れることなく、中居のように綺麗な姿勢のまま何かを待ち構えている。ように見えるだけ。相変わらず、顔は伏せており様子が窺えないのである。
 でも、まだ肌寒いのにそんな格好でいれるもんだ。丁度買いすぎちゃってるし、話してみるか。
 徐々に彼女へと近づいていく。彼女の前で足を止めたのにも関らず、彼女は一向に顔を上げようとはしない。
ここまで堂々と足を止めたのにも関らず、一ミリ足りとも顔を動かす気配すら感じない。もし、俺がストーカーとかそう言った類の野蛮人なら間違いなく彼女を人質にしたりすると思うんだが、警戒する気配すら感じない。
 何故だが、気持ち負けてしまい。やはり、最初に声を掛けるのは俺からだろうと思った。だが、いざとなってみれば、何を話したらいいのか分からない。とりあえず、この買い過ぎた品を上げることから始めよう。
「あの、寒く無いですか?」
彼女は顔を伏せたまま首を横に振る。
 やっぱり、寒いんじゃないか…。しかし、ここに来ても口も開こうとしてくれないのか。
「良かったらこれ食べませんか?」
彼女は俺が差し出したものを見ずに首を縦にふった。結局、会話を成立させることも両立させることもなく、敢え無く撃沈する羽目に…。
 渡すものだけ渡して帰ろうと思った時、声がした。確かに前の彼女の方からか細く、透き通りそうな声で。
「最初に話すのはあなたから」
あまりにも仰天しすぎていたが、初めて彼女は頭を上げ目を合わせる。肌は羽織っている着物程ではないが、芸能人なんかと変わらない位白く、眼の色はエメラルド色でその瞳に吸い尽くされてしまいそうなくらい綺麗な瞳が、鏡のように自分を映し返す。
彼女は俺に何かを言ってもらいたいような、そんな瞳で見てくる。俺は彼女に何を言ったらいいのかも分からい。最初に話すのは俺からと言われたが、確かに最初に話したのは俺の筈。なら何を言えばいいんだろう? 「さよなら」と言えばいいのだろうか? 違う。自分が望んでいるのはそんな事ではない。俺は彼女ともう少しでも話したい。そう思うと、考えるより先に口が動く。
「一緒に食べよ」
 彼女はその言葉を待っていたように、表情も変えないまま「はい」と静かに、消えてしまいそうに言った。

-2-
Copyright ©カワウソ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える