小説『魏者の成り立ち』
作者:カワウソ()

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 それから彼女と色々と話をした。町のことも、彼女の名前についても、どこに住んでいるのかとか、色々と話した。最初の頃とは打って変わり、質問すれば意外とすんなり答えてくれる。
まずは彼女の説明をしたいところだが、それを説明する前にはこの町のことを説明しなければならない。
 この町は本当に町としか言いようがない町で、これと言って目立つとこはない。山で囲まれている割に人口も多く、それなりに栄えてはいるが、遊び場と呼べるような場所はほとんどない。それでも、この町は人が住むには十分大きく、未だに知らないこともある。町を外れれば、未だに村と思わしき場もあるという。彼女の家はそこら辺にあるという。
この町全てを知ってるものは少ないだろう。知ってる気になっているものは少なくもないだろうが。彼女は家柄、古くからこの町を裏で支えてきたと言う。何故そんなことまで教えてくれるのか分からなかったが、幼いころから家の外を知らずに育ったという。だからきっと、あんな質問をしたのだろう。
小中学校は行っていたという。なら何故外の世界を知らないのだろうかと聞くと、行きも帰りも送り迎えで、まともに外を歩いたことはない、歩かせて貰えなかったと言う。休日も誰かと遊んだことはない。それに休みがちだったとのことだった、体がそんなに強い訳では無いらしい。家が厳しいと言うのもその一つらしい。
 彼女の家柄やこの町の紹介はこれまでだ。今度は彼女自身になるが、彼女の名前は「コトメ」苗字は教えてもらえなかった。
家ではいつも本を読んでいると言う。どんな本と尋ねると、寂しそうな顔をし、難しい本や占い本と言う。占い本と聞いて女の子らしいとこもあるんだなと思った。
 話している最中ずっと気になってることがあり、やっと聞けるタイミングを見つけた。
「あの、家が厳しいならこんな夜中に出ていて大丈夫なのか?」
その問いにコトメは一度目を合わせると、川をじっと見つめる。
「多分駄目。もう遅い」
 車が近場で止まる音がする。思わずそちらを振り向くと、黒い服を着たお爺さんが立っている。
「お嬢様、こんな夜中に出て許されると思っていらっしゃるのですか? 外だってまだ寒いのです。御家に戻りましょう」
コトメは反抗することなく、立ち上がりそのお爺さんのとこへと歩き出す。何故かその時は別の恐怖に襲われた。疑っていたわけでは無かったが、本当に彼女の家柄は大きく、このまま帰してしまっていいのだろうかと思う。しかし、いつの間に居たのか気付かなかったが、彼女を取り囲むように黒服を着た男が埋め尽くす。先程の白の着物は見えなくなる。まだ自分の中にはこのまま行かせていいのか。そんな疑問しか残っていない。ただ、俺自身の紹介をまだしていなかった。
「俺、俺の名前はアマネ 遍って書いてアマネって言うんだ!」
黒服たちの間から彼女の顔が僅かに見え、確かに唇が動いた。どういう風に動いたかは分からないが、「知ってる」と言うように見えたと思う。彼女はそのまま車に乗り、帰ってしまった。言いたいことを言えなかった後悔が心の中に残る。
そこからは、コトメと話していたのが嘘のような静けさだけが漂う。川のせせらぎ音があったことを知るのは今となり気付く。時間にして今三時過ぎとなり、もう何も考えたくない。このまま二度寝して朝になることを夢見みよう。
 遍は何も考えることなく、家に帰り眠りに就く

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