小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

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 放課後、部室には聖剣使いの二人組が訪れていた。
(片方はイッセーの幼馴染で、もう片方は俺にあしらわれた聖剣使いだし……世間は狭い)

「先日、カトリック教会本部ヴァチカン及び、プロテスタント側、正教会側に保管・管理されていた聖剣エクスカリバーが奪われました」
(犯人は俺です)
 イッセーがなんでエクスカリバーが複数箇所から盗まれるのか分かって無いようだったので、解説込みで話を進めることになった。
「イッセーくん、エクスカリバーは大昔の戦争で折れたの」
「今はこのような姿さ」
 青髪に緑メッシュを入れた聖剣使いが布に包まれたエクスカリバーを取り出した。その瞬間、イッセーたち悪魔が一瞬強ばった。まあ、聖剣が近くにあって何とも思わない悪魔は魔王ぐらいだ。
「大昔の戦争で四散したエクスカリバーの折れた刃の破片から錬金術によって七本のエクスカリバーが作られたんだ」
 性能も七分の一だがな。それでも生半可な聖剣よりも強いが。
「私の持っているエクスカリバーは『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』。カトリックが管理している」
 もう片方の栗色の髪の聖剣使いは懐から長い紐を取り出す。それはみるみる姿を一振りの日本刀に姿を変えた。
「私の方は『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』。自由自在に姿を変えることができるわ。こちらはプロテスタント側が管理しているわ」
「イリナ……悪魔にわざわざ能力を教えなくてもいいだろう?」
 青髪が栗色――イリナと呼ばれた方――に咎めるように言った。
「ゼノヴィア。いくら悪魔でのこの場では信頼関係を築かなければしょうがないでしょう? それに、能力を知られたからと言って、この場の悪魔の皆さんに遅れを取ることはないわ」
 自身満々にイリナが言った。
「それで、奪われたエクスカリバーがどうしてこんな極東の地方都市に関係あるのかしら?」
 木場の発する殺気がかなり強まる中、部長はできる限り穏便に終わらせるために言葉を紡いだ。
(日本人としては極東と呼ばれることに少しイラっと来るのだが。普通に日本と言えんのか)
「盗まれたエクスカリバーはこの町に運ばれたんだ」
(なんだ? 堕天使はこの街がお気に入りなのか?)
「私の縄張りには出来事が豊富ね」
 部長も額に手を当てて嘆息する。恐らくその出来事は厄介事と等号(イコール)で結ばれてます。
「それで、どこの誰が盗んだの?」
「奪ったのは『神の子を見張る者(グリゴリ)』だよ」
(いいえ、私です)
「確かに、奪うとしたら堕天使くらいなものかしら。聖剣は上の悪魔にとって興味が薄い物だもの」
 堕天使はともかく、悪魔は逆立ちしたって使えないからな。
「奪った者たちの主導者はグリゴリの幹部、コカビエルだ」
「コカビエル……聖書にも記された者の名前が出されるとはね」
 出てきた名前の有名さに、さすがの部長も苦笑する。
「私たちの依頼――いや、注文とは私たちと堕天使のエクスカリバー争奪にこの町の悪魔が一切介入しないこと。――つまり、そちらはこの件に関わるなと言いに来た」
 そのお願いと言えない一方的な物言いに、部長の眉が釣り上がる。
「随分な言い方ね。もしかして、私たちが堕天使と手を組んで聖剣をどうこうすると思ってるの?」
「本部はその可能性があると思っている」
 その瞬間、部長が纏う魔力の重圧が増した。
「部長、落ち着いてください。ただの使い走りにキレても意味がありません」
 だがまあ、そう言っても部長の怒りが収まるはずもない。
「上は悪魔も堕天使も信用していないのでね」
 組織の性質を考えたらそりゃそうだろう。むしろ逆だったら柔軟すぎる組織と褒めたいくらいだ。
「堕天使コカビエルと手を組んだら、あなたが魔王の妹でも完全に消滅させる。――と、うちの上司から」
 そんなことを伝えれば、この聖剣使いは殺されるかもしれないというのに……酷い上司だな。もしくはこいつの腕を信頼しているか。
「私は堕天使とは手を組まない。グレゴリーの名にかけて、魔王の顔に泥を塗るような真似はしない!」
 それを聞いたゼノヴィアと呼ばれた聖剣使いはフッと笑った。
「それが聞けただけでもいいさ。エクスカリバーが三本もこの町にあることを伝えておきたかっただけだからね」
 部長は少し表情を緩和させて尋ねる。
「正教会からの派遣は?」
「奴らは話を保留にした。仮に私たちが奪還に失敗した場合、残った一本を死守するつもりなんだろう」
(控えめに言って馬鹿じゃないだろうか)
 戦力の小出しは一番の失策で、一本残った程度でどうするんだ。だったらそもそも奪還任務なんて提案するなよ。
「では二人だけでコカビエルからエクスカリバーを奪取するの? 無謀ね。死ぬつもり?」
 呆れ顔の部長に、二人は至極真面目に答える。
「そうよ」
「私も同意見だが、できるなら死にたくはないな」
(……理解できない)
 望んで死ぬということが理解できないのではなくて、何もしてくれない神のために死ぬというその思い――つまり信仰が、理解できない。
(しかもこの任務に神の意思なんて欠片も関わってはいないだろうに)
「相変わらずあなたたちの信仰は常軌を逸しているのね」
 相変わらずということは、何か信者に嫌な思い出でもあるのだろうか?
「我々の信仰を馬鹿にしないでちょうだい」
「私たちの役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手から無くすことだ。そのためなら私たちは死んでもいいのさ」
「二人だけでそれが可能なのかしら?」
「ああ、むろ――」
「無理だと、言わせてもらう」
 発言権どころか、聞く権利すら本来なら存在しない俺だが、話に割り込んだ。
「無理だと?」
「ああ。無理だ。普通の上級堕天使程度ならいざ知らず、コカビエルがいるからな。お前らは聖書に記された者がどの位強いのか分かっているのか? あのクラスになるとバケモノだよ。ただ聖剣が使える程度の人間では相手にすらならない」
 この言い草にカチンときたのか、ゼノヴィアが言い返してきた。
「私たちには秘密兵器が――」
「だから、武器の問題じゃなくて使い手の問題だってば。どんな名剣を――それこそエクスカリバーを超える歴史に名を残す聖剣を使ったとしても、使い手がお粗末なら棒と変わらないと言ってるんだよ」
「貴様……?」
 ゼノヴィアがこちらを値踏みするような視線を向けてきたが、これ以上は何も言う気がないので目を閉じる。どうせこいつらは何を言おうが意味なんてないんだから。

「……それでは、そろそろお暇させてもらう」
 そう言ってゼノヴィアが立ち上がり、それに続いてイリナも立ち上がった。
 そのまま帰ればいいのに、二人はアーシアに、視線を向ける。
「もしやと思ったが『魔女』アーシア・アルジェントか? まさかこんな所で会うとはな」
 『魔女』と呼ばれたアーシアは身を震わせた。それは彼女にとって苦々しい思い出だったからだ。
「あなたが一時期内部で噂になっていた『魔女』になった元『聖女』さん? 堕天使や悪魔も治す力を持っていたらしいけど、悪魔になっているとは思わなかったわね」
 イリナにまじまじと見られてアーシアは困惑する。
「大丈夫よ、悪魔になっていることは誰にも言わないから安心して。『聖女』アーシアが周囲にいた方がこれを知ったらショックを受けるでしょうからね」
「しかし、『聖女』と呼ばれた者が悪魔か……堕ちる所まで堕ちたものだな。まだ我らの神を信じているのか?」
「ゼノヴィア、悪魔になった彼女が主を信仰しているわけないじゃない」
 イリナは呆れ顔でそう言ったが、ゼノヴィアの方は真面目な顔をしていた。
「いや、彼女からは背信行為をする輩でも、罪の意識を感じながらも信仰心を忘れない者がいる。そういった者と同じものがその子から伝わってくるんだよ」
「そうなの?」
 その問いかけにアーシアが悲しそうな表情で答える。
「捨てきれないだけです。ずっと、信じてきたのですから……」
「それならば、今すぐ私たちに斬られるといい。罪深くとも、我らの神なら救いの手を差し伸べてくれるだろう」
 その言い草に俺の頭に血が(のぼ)った。
「触れるな」
 そう言ってアーシアの前にイッセーが立ちふさがった。
「アーシアに近づいたら俺が許さない。あんた、アーシアのことを『魔女』と言ったな?」
「ああ。少なくとも、今の彼女はそう呼ばれる存在であると思うが?」
 イッセーが強く奥歯を噛み締めた。
「ふざけるな!救いを求めていた彼女を誰一人助けなかったんだろう!?」
「『聖女』にそんなものは必要無い。『聖女』に必要なのは分け隔てない慈悲と慈愛だ」
「その点で言えばアーシアは聖女の資格は十分だな。なにせ悪魔だって分け隔てなく治すんだからな」
 これは皮肉だが、割と本音だ。
「こういう言い方はアーシアに悪いが、聖女なんて信者集めるための道具に過ぎないだろう? ご利益あるんだから、信者もさぞかし増えただろうなぁ?」
 皮肉げに口を歪めて言う。
「貴様、我らの信仰を愚弄(ぐろう)するか……!」
「俺が愚弄するのは一信者ではなく、その上に立ってる奴だ。まあ、宗派分裂している神の教えに、どの程度の信憑性(しんぴょうせい)があるかは怪しいがな」
 クククと不敵に嘲笑(あざわら)う。
「貴様、それは我ら教会全てへの挑戦か?」
「無神論者にとって、宗教なんて都合の良い人心操作だよ。しかも俺は日本人。神様なんてそこら中に存在している国の住人だぜ。知ってるか? 八百万(やおよろず)
「教会に所属する者としては、その暴言は見過ごせないな」
 ゼノヴィアは聖剣を包みから取り出した。
「俺よりもこいつと戦ってもらおうか」
 それと同時に木場が立ち上がる。
「誰だ、君は?」
「君たちの先輩だよ。失敗だったそうだけどね」
 そして、部室の中に無数の剣が出現した。

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