小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

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「最後に一つだけ言っておこう。『白い龍(バニシング・ドラゴン)』はすでに目覚めている。その調子では絶対に勝てないだろうね」
「それじゃあイッセーくん。裁いて欲しくなったらいつでも言ってね」
 そうイッセーに言い残して、二人の聖剣使いは立ち去った。

 その後、木場も聖剣を探すために去って行ってしまった。

「やれやれ、木場の奴。あの状態ではエクスカリバーには勝てないと分かって欲しいんだけど……」
「……朧先輩。これ」
 子猫が俺の上着とシャツを持って話しかけてきた。
「……これ、ありがとうございました」
「いや、気にするな。大した事じゃない」
 そういうと、子猫はしばらく黙った後、一言だけ漏らした。
「……鍛えてるんですね」
「……ま、身体能力じゃ人間は悪魔にも天使にも勝てないからな」





 次の休日。イッセーに呼び出され駅前に行くと、イッセーと子猫。そして、シトリー家の次期当主である生徒会長支取蒼那(しとりそうな)ことソーナ・シトリーの眷属悪魔である匙元士郎(さじげんしろう)がいた。
 それと、何故か子猫は逃げようとする匙をしっかりと掴んでいた。ううむ、状況が分からん。
「よおイッセー。今日は一体何の用だ?」
 なので普通に訊くことにした。
「聖剣エクスカリバーの破壊許可を紫藤イリナとゼノヴィアから貰うんだ」
 思いもよらぬことを聞かされて、若干思考がフリーズする。
「…………なるほど。それで堂々とエクスカリバーを木場に破壊させて妄執を断ち切ろうと。それはいいが、何で匙がいるんだ?」
「協力してくれそうな悪魔に、他に心当たりが無かったから」
 その匙を見ると、子猫を振り切って逃げようとしていた。協力する気ないじゃないか。
「だったら俺は喜んで協力させてもらおう」



 それから町中を探すこと二十分。道端で物乞いをしている二人を発見した。
 二人の話から察すると、イリナが贋作(にせもの)買って無一文……馬鹿だ。
 そして挙げ句の果てに喧嘩し始めたので、取り敢えず、俺が様子見がてら近づく。俺が行くのは相手が聖剣を持っているからである。
 近寄って行くと、二人が気づき、こちらを警戒し始めたので、さっきコンビニで買ったおにぎりをビニール袋から取り出す。
「欲しいか?」
 二人は頷く。
「なら奪ってみよ!」
 そう言って、イッセーたちと打ち合わせた通り、二人を三人がいるファミレスまで誘導するため、食欲に取り憑かれた二人から逃げ、ファミレスへと駆け出す。
 予想通り彼女らは追ってきたが、よっぽど腹を空かせているのか動きがこの前よりもよく、少々逃げるのに苦労した。


「Wait(待て)!」
 ファミレスの前に到着すると、おにぎりをビニール袋にしまい直して手の平を前に突き出すと、二人は動きを止めた。
「いいか? ここは飲食店だ。俺たちはこれからここで飯を食う。お前らも同席するか?」
 二人は鼻息荒く頷く。言語を取り戻して欲しい。
「よし。だったらこの中では聖剣は抜くなよ。いいな?」
 二人は再度頷いた。これで第一段階クリアだ。後はあいつら注文し、一口でも食べればそれで問題解決だ。
 グルルと腹を鳴らす――実は喉だったらどうしよう――二人を従え、俺はファミレスに入店した。



「ふはは、存分に食べるがいい」
 こんな事を言わなくても二人は思う存分食べているのだが。伝票を見ると、二人だけで、値段は四桁を超えていた。
 ちなみにイッセーたち三人は俺の後ろのテーブルにいる。
「ふぅ……落ち着いた。君たち悪魔に救われるとは世も末だな」
「末期なのはお前らの財布だ。あと、俺は悪魔じゃない」
「で、私たちに接触した理由は?」
「話が早くて助かる」
 この場での交渉は、悪魔であるイッセーたちよりも、人間である俺の方が波風が立たないので、そうさせてもらった。
「俺たち――いや、ここでは便宜上俺だけということにしようか――俺は、エクスカリバーの破壊に協力したいと考えている」
 俺の言ったことに二人は目を見開き、お互い顔を見合わせる。
「そうだな。一本くらいなら任せていいだろう。ただし、こちらとの繋がりがバレないようにしてくれるのなら、だが」
「間にただの一般人である俺が入れば、何の問題も無いな」
「ちょっと、いいのゼノヴィア。相手はイッセーくんとは言え悪魔なのよ?」
「イリナ。私たちが交渉したのはこの人間だ。その人間が悪魔の力を借りても、私たちが悪魔の力を借りたことにはならない」
「そういうことだ」
 それを聞いても、イリナは納得していないようなので、少しばかりダメ押しすることにした。
「断るようなら、ここの支払いを済ませずに店を出るだけだけど? 無銭飲食に銃刀法違反。しばらくは聖剣どころじゃないだろうなぁ?」
 伝票をピラピラさせながら言うと、二人は顔を引きつらせる。
「さあ、どうする? 別に俺はどっちでもいいんだよ? お前たちが無銭飲食で捕まったのなら、その間に聖剣を破壊すればいいのだからな。さぁ、どうする?」
 イリナは長い間悩んでいたが、しばらくして渋々と頷いた。
「協力の申し出を受けてくれたこと、感謝するよ。それでは、こちらの協力者を呼ばせてもらうけど、いいかな? といっても、拒否するようなら金払わずに出るだけだけど」
 そういいながら、イッセーに木場を呼ぶよう伝える。
(俺たちより悪魔みてえだ……)
 イッセーがそんなことを考えているとは露知らずに。





「朧君」
 木場を呼び出し、経緯を説明した後にゼノヴィアたちと情報を交換して別れた後、木場は俺に話しかけてきた。
「これを考えたのは俺ではなく、イッセーだ」
 木場の問いかけを遮り、イッセーへと流す。
「ま、仲間だからな。お前には何度か助けられたしな。今回はお前の力になろうと思って

な」
 その言葉に納得いかない顔をしている木場。
「……祐斗先輩、私、先輩がいなくなるのは……寂しいです」
 子猫は僅かに寂しそうな顔をする。普段無表情な分破壊力が高い。
「……お手伝いします。……だからいなくならないで」
(あれ? 自分のことではないのに胸が痛む……)
 それは木場も同じだったのか、苦笑いながらも心からの表情を見せた。



 その後、話の分からない匙に木場が身の上話をすると、匙は号泣して協力することを宣言した。そして、自分の夢について話し始めた。
「俺の目標はソーナ会長とデキちゃった結婚することだ!」
「――は?」
 思わず間の抜けた声が出てしまったが、いやしかし待って欲しい。何故デキ婚なのか? 普通に結婚するのでは駄目なのだろうか? それに、悪魔の出生率は低い――寿命が長いからだろう――から、デキ婚は人間よりもありえないのでないのか?
 そう思った俺とは違い、イッセーが目から涙を流した。
(え? 何でそうなるの?)
「匙! 聞け! 俺の目標は部長の胸を揉み、そして吸うことだ!」
 匙の目からも涙が溢れ出す。
「……もう駄目だこいつら」
「……あはは」
「……最低です」
 俺たち三人が嘆息する中、イッセーと匙が固く握手をしていた。

 イリナじゃないけど、こいつらに天罰落ちないかな……。

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