小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
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 木場が今まで復讐を望んでいたのは、同志たちの魂が復讐を願っているとしたら、憎悪の魔剣を振り下ろす訳にはいかなかったからだ。
 しかし、その想いは先ほど解き放たれた。同志たちは復讐を望んではいなかったからだ。
「でも、全てが終わったわけじゃない。バルパー・ガリレイ、あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕らが生まれる」
「ふん。研究に犠牲はつきものだと言うではないか」
 バルパーへ再度怒りを覚えた木場に、オカルト研究会の面々から声援がかけられる。
「僕は剣になる。部長の、仲間たちの剣になる! 今こそ僕の想いに応えてくれ、魔剣創造(ソード・バース)!!」
 木場の中の魔剣を創る神器(セイクリッド・ギア)と、先ほど木場の身に宿った聖なる因子が融合し、能力が昇華される。
 今まで創り出されていた魔剣は、神々しさと禍々しさを(あわ)せ持つ一本の剣へと変化し、木場の手に収まる。
「――禁手(バランス・ブレイカー)、『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』。聖と魔の力を有する剣の力、その身を受けるがいい」

 木場は目にも止まらぬ速度でフリードに接近し、聖魔剣を振るう。フリードは常人では捉えきれない速度に反応し、四本が一つになったエクスカリバーで聖魔剣を受け止める。
 ぶつかり合った聖魔剣とエクスカリバーは拮抗し、徐々に聖魔剣のオーラがエクスカリバーのオーラを押し返していく。
「本家本元の聖剣が出来損ないに負けんのかよ!」
「それが本来のエクスカリバーであれば勝てなかっただろうね。だけど、今のエクスカリバーには僕と同志たちの想いは斬れない!」
 フリードは木場から距離を取り、エクスカリバーの剣身を伸ばして木場を襲わせる。
 天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)の力を持つ刃は、擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)の力によってその身をいくつもに増やし、上から高速で蛇の(へび)く襲いかかる。
 それを木場は(かわ)し、避けきれない刃は聖魔剣で受け止める。
「んなろぉぉぉ! だったらこれでどうだぁぁぁ!」
 フリードの持つエクスカリバーが透明の聖剣(エクスカリバー・トランスペアレンシー)の力で不可視になって、再び木場を襲う。
「無駄だよ」
 しかし、目に見えない神速の刃を木場は見えているかのように躱し、避け、防ぐ。
 木場はフリードの強すぎる殺気によって攻撃がどこから来るかを感じ取り、的確に対処していく。
「クソクソクソっ! 何で当たらねえんだよ!?」
 苛立つフリードの横合いからゼノヴィアが左手に聖剣を持ち、右手を宙に掲げて割り込んでくる。
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアと。我が声に耳を傾けてくれ」
 ゼノヴィアの言霊によって、空間に歪みが発生する。ゼノヴィアはそこへ手を入れると、聖なるオーラを発する剣を引き抜く。
「この刃に宿りしセイントの御名において我は開放する。――デュランダル!」
「デュランダルだと!?」
 デュランダルの登場に、その場にいる全員が――今まで一切動じなかったコカビエルを含めて――驚愕する。
「バカな!? 私の研究ではまだデュランダルを扱える聖剣使いは生み出せないはずだ!」
 自分の研究が関わっているが故に、バルパーの驚きは人一倍だった。
「そうだろう。私は数少ない天然物だからな」
 その答えにバルパーは絶句した。
「デュランダルは触れたもの全てを斬り刻む暴君でね。異空間に隔離しておかないと危険極まりない、私の手にすら余る剣だ」
 ゼノヴィアがデュランダルを構え、デュランダルからは聖魔剣を超えるオーラを発する。
「こんな超展開はお呼びじゃねえんだォォォ!!」
 フリードが叫びと共に向けた透明ないくつもの刃は、デュランダルの一振りで全てを砕かれ、その残骸を校庭に(さら)した。
「所詮は折れた聖剣か。デュランダルの相手にもならないな」
 殺気が弱まったフリードに木場は接近し、受け止めるためのエクスカリバーごとフリードを斬り払った。
「見ていてくれたかい? 僕らの力はエクスカリバーを超えたよ」



「聖魔剣だと……ありえない。聖と魔――二つの相反する要素が混ざり合うなど……そうか! 聖と魔のバランスが大きく崩れているとすれば……つまり、聖と魔を(つかさど)る者――魔王だけでなく、神も――」
 エクスカリバーが破壊されたからか、深刻そうな表情で考え事をしていたバルパーは、何かに思い至り、そして、コカビエルの光の槍に胸を貫かれ即死した。
「バルパー、お前は優秀だった。その考えに至れたのもそれ故の事だろう。だが、俺一人で十分だ」
 コカビエルが立ち上がり、校庭にいる者全てにプレッシャーがのしかかる。
「赤龍帝の力を限界まで高めて誰かに譲渡しろ」
 コカビエルの申し出に皆驚いたが、そうでもしなければ勝てないと感じた面々は、不本意ながらもコカビエルの言う通りにした。
 一誠が力を高める間、重い沈黙が辺りを支配する。一誠以外の者――特に木場とゼノヴィアは隙あらばコカビエルに攻撃しようと身構えているが、歴戦の堕天使は立っているだけなのに隙一つ見せなかった。
「――きた!」
 一誠が高めた力をリアスに譲渡すると、彼女のオーラが増大する。
 その強大さを肌で感じるコカビエルは狂喜する。
「消し飛べぇぇぇッ!」
 リアスから放たれた大質量の滅びの魔力を、コカビエルは真っ向から受け止める。
「面白い! 面白いぞ! サーゼクスの妹よ!」
 コカビエルはそれを手に光力を集めて相殺させていく。
「――それじゃあ、そのまま死ね」
 リアスの滅びの魔力がほとんど消え去った瞬間、声と共にコカビエルの左肩を黒い一矢(いっし)が撃ち抜いた。
「ぐうぅぅぅ――アァァァッ!!」
 コカビエルは手に集めた光力が霧散し、残った滅びの魔力を体に受けて地に落ちた。

Jackpot(ジャックポット)――(ひそ)かに(ひそ)んでいた甲斐があったぜ」
 校舎の屋上で、朧は大弓を今まさに一射撃った後の姿勢で(たたず)んでいた。
「中々隙ができないから、こんな最後の最後まで出れなかったが……ま、隙というならあいつの心構え自体が隙なのだが」
 朧は弓から手を離し、フェンスを乗り越える。
「さて、コカビエルにとどめを刺すか」
 朧はフェンスの向こう側に立ち、気軽に一歩踏み出し、落下した。

「よう、コカビエル。気分はどうだ?」
「……背後から撃たれるとはな」
「お前の好きな戦争(何でもあり)(のっと)ってやったんだ。文句を言われる筋合いは無い」
 地に落ちたコカビエルは四肢に力を込め、立ち上がる。
「おいおい……堕天使なら致命傷だってのに立ち上がるのかよ」
「当たり前だ。この様に楽しい時に寝ていられるか……!」
 コカビエルは十の翼を広げて立ち上がる。
「その意気込みは買うが……無理だ」
 ゴフッ!
 コカビエルは口から黒い血を吐き出す。
「俺の神器(セイクリッド・ギア)の副次効果は知っているだろう? 天使・堕天使に猛毒とも言える影響をもたらす。それがたっぷり込められた矢を受けた堕天使が消滅していないというだけでも驚きなのに、戦闘なんて無理だ。光力も(ろく)に扱えないんだろ?」
「それがどうした! 待ち望んだ戦場が、今ここにあるのだぞ!」
「愚かな堕天使。三大勢力間戦争なんてもう起こらないのに。旗頭を失った天使も悪魔も、そして数が打ち止めになった天使・堕天使も、もう人材の消費でしかない戦争はしない」
「黙れ!」
「いい加減にしろ。神も魔王も死んだんだ(・・・・・・・・・・)。これ以上は戦争する意義がない」
 朧の言葉に、二人のやり取りを見ていた全員が驚愕する。
「――それは、本当ですか?」
「何が?」
 アーシアは信じられない事を聞いた表情で朧に、否定して欲しいという思いから再度問いかける。
「神は……主は死んでいるのですか?」
「……死んだらしいよ。俺はそれを見てないけど、それは確かなことで、聖魔剣の存在がその証明だ」
「そんな……」
「……嘘だ」
 アーシアとゼノヴィアは多大なショックを受け、アーシアは膝からくずれ落ちて隣の一誠に抱きとめられる。木場も少なからずショックを受けていた。
(……しまった。この話は秘密だったか……)
 朧はアーシアたちの反応を見て反省した。価値観は違うが、理解ができていない訳ではない。
「――だが、それは終わった事だ。今はお前だ、コカビエル」
 朧は手にロングソードを創り出し、コカビエルに向ける。
「降伏しろ。さもなくば殺す」
「誰が降伏などするものか……!」
「だろうね。では死ね」
「――それは困るな」
 突然、どこからか声が聞こえてくる。それを聞いた朧は上空に剣を投げた。
 剣を追って視線が上がり、剣が見えなくなった瞬間、白い閃光が空から校庭に降ってくる。閃光は地面を穿つことなく、その数センチ上空に浮いていた。
「『白い龍(バニシング・ドラゴン)』……」
 閃光が落ちた場所には、背中から八枚の光の翼を出す、白い全身鎧(プレートアーマー)を着た誰かの姿があった。
「『白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)』の禁手(バランス・ブレイカー)、『白龍皇の鎧(ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル)』か……。白い龍(バニシング・ドラゴン)、コカビエルを連れ戻しに来たのか?」
「アザゼルに無理矢理でも連れて帰るように言われてるんでね。殺すのは勘弁してもらえるかな?」
「……後でアザゼルに謝罪するように言っておけ。俺では無く、悪魔にな」
「伝えておこう」
 ドッ!
 白龍皇は頷くと、コカビエルに一瞬で詰め寄り拳打を打ち込む。
「おのれ、アザゼ、ル……」
 コカビエルは気絶し、地面に突っ伏した。

 コカビエルとフリードを担いだ白龍皇が空へ飛び立ち、戦いは終結した。

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