約束の三日後――
「ようこそ、ヴァーリ・ルシファー。来てくれて嬉しいよ」
三日前と同じ場所で、朧は今回は普通に立っていた。
「あんな魅力的なオファーを断れるわけないだろう?」
ヴァーリの姿も禁手である鎧ではなく、普通の白いシャツだった。
「それでは、案内しよう。『禍の団』へ」
その言葉と同時に、地面に黒い魔方陣が現れ、朧とヴァーリをどこかへと転移させた。
朧とヴァーリが転移した先は、どこかの古城であった。
「付いて来い」
朧はそれだけ言うとヴァーリに背を向けて歩き始める。
しばらく歩くと、石造りの巨大な扉が現れた。
「ここに『禍の団』の幹部がいるが、喧嘩をふっかけるなよ。面倒だ」
(別にそれもアリだが)
石造りの扉はその大きさ通り、その重さを感じさせる鈍い音を立てて開いていく。
扉の向こうには異様な雰囲気を漂わせる面々が立ち並んでいた。
「白龍皇、ヴァーリ・ルシファーの到着だ」
朧の声に中にいる者たち全員が扉を向いた。
朧はそんな視線をものともせずに進み、玉座に座るオーフィスへと近づいていく。
「オーフィス、久しぶり」
「久しい、朧」
二人はそれだけ言い合うと、朧は玉座への階段を上り、オーフィスの伸ばした手を取ると、一瞬で彼女と椅子の間に入り込んだ。
「それでは、ヴァーリ・ルシファーの歓迎会を始めまーす」
もちろん、朧の言う歓迎会は普通の意味ではない。
「何か言いたい事があれば挙手して発言どうぞ」
それを聞いて手を挙げたのは学生服の上に漢服を着た男。
「本当に彼は信頼できるのかな?」
「信頼ねぇ……。ヴァーリ、何か証明できるか?」
「そうだな。近頃、天使、悪魔、堕天使の代表が会談を開くらしい。その情報を提供すればいいかな?」
「なるほど。その会談で和平が成立すれば、我々としては厄介だな。それに、その会談に集まった面々を殺害すれば、三大勢力に大きな被害を与えられるな。情報としては有益だろう。これでいいか? 曹操」
曹操は不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「他に意見のある者は?」
「そやつは本当にルシファーの子孫なのだろうな!」
挙手せずに発言する。
(俺としては別にそうで無くても構わないが……)
「だ、そうだが?」
それにヴァーリは幾枚もの悪魔の翼を出す。
「これで十分だな、シャルバ」
シャルバは苦々しく舌打ちする。
それからしばらく待ったが、他に言葉を発する者はいなかった。
「他に何も無いようなら、さっきヴァーリの言った、会談について話したいが?」
それには誰も異論を唱えなかった。
「では、会談の話に移ろう」
「それを襲撃するとなれば、『禍の団』としては最初の大きな仕事、ひいては『禍の団』のお披露目になるんだろうな。相手が三大勢力となれば……きゅ――魔王派が適任だろうな。あそこの土地柄を考えると、来る悪魔の代表はサーゼクスだろう。異論がないなら、会談を襲撃し、それを魔王派の者に行ってもらうが?」
それに反論は存在しなかった。旧魔王派に真っ向から反対できるのは英雄派ぐらいなので、旧魔王派と英雄派が反対しなければ大抵通る。
「少しいいかな?」
「なんだ、曹操」
「ヴァーリの事だ」
「それは先ほど済んだ話だろ?」
「だが、今度の作戦は『禍の団』にとって重要な作戦になる。それを新参者の情報を頼りに行うのは少し不安じゃないか?」
「なるほど。では、どうしろと?」
「ヴァーリにいくつか任務をさせるというのはどうだろうか?」
「任務か。今ある案件は、グシャラボラスの次期当主の暗殺ぐらいか……もう一つ、誰か何か無いか?」
朧が周りに尋ねると、英雄派の中から一人の男が手を挙げた。
「アーサーか。何かあるのか?」
「これは私事ですが、行方不明になっている最後のエクスカリバー――支配の聖剣の捜索などはどうでしょうか?」
「いいんじゃないか? なら、グシャラボラス家の次期当主の暗殺と、支配の聖剣の捜索。それを完遂したら信頼に値すると、そう判断することとする」
「暗殺は趣味じゃないな」
ヴァーリはそれに不満げな表情をする。
「だったらサポート役を付けよう。一人で暗殺と捜索は難しいからな。アーサーは確定として……――美猴、黒歌、居るか?」
「あいよ、ここに居るぜぃ」
「居るにゃん」
朧が二人を呼ぶと、二人はどこからともなく姿を現した。
「お前ら、さっきヴァーリに与えられた任務を手伝ってやれ」
「「えー……」」
二人も不満そうな顔をした。
「はぁー……これだから戦闘狂共は……」
朧は心底うんざりして顔を振った。
「もう一度聞くけど……や・る・よ・な?」
「分かった」
「あいよ」
「分かったにゃん」
朧が少々凄んで見せると、三人はすぐに頷いた。
「最初からそう言えばいいんだよ。曹操、これで文句は無いな?」
「ああ、十分だ」
「他に意見があるなら今言え。今後は何を言おうが聞かん」
朧が最終通告すると、今度こそ反論は出なかった。
「では、歓迎会はこれにて終了。――解散」
なお、この間ずっと、オーフィスは朧にもたれかかってすやすやと寝ていた。