小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

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「はぁ、本気で面倒だ……。アース神族の相手なんて、無駄な事したくないんだけど。トールが出てきたらこっちに勝てるのはオーフィスしかいないんだから、(はな)から相手になんてならないし。俺なら見かけた瞬間に逃げるね」
 なお、朧にはオーフィスを戦わせる積もりは毛頭ない。
「ああ、面倒だ。何故英雄(アインヘリヤル)などという、既に死んだような奴らを殺し直すという面倒な作業をせねばならんのだ」
 朧の歩いた後には、筋骨隆々な男たちの死体が転がっていた。
英雄(アインヘリヤル)などいくら出てこようとものの数ではないが、ヴァルキリーならまだしも、神が出てきたらどうしたもんかね」

 両手から黒い粒子をたなびかせながら、朧は奥の大扉を蹴り開けた。
「おやおや、こんな所までお客さんかの」
 そこにはローブ姿の老人と、鎧姿の銀髪の女性――ヴァルキリーがいた。
「……北欧神話が主神、オーディン様ですか。全く、ついてないですね。――まあ、ついてないというなら、俺の人生は不幸続きだ」
 朧は深々とため息を吐いた。
「苦労しとるようじゃのう、若いの」
「いえいえ。私の悩みなど星の数ほどある内の、たった一つしかないのですから」
「達観しとるの」
「諦観しているだけですよ。人生は諦めで、諦めきれず生きてます」
 そう言って、朧は大量の黒の魔方陣を空中に展開する。
「お下がりください、オーディン様!」
 お付きのヴァルキリーがオーディンの前に立ち、北欧系の魔方陣を多数展開し、そこから各属性の攻撃魔法を掃射する。
「黒炎、焼き尽くせ」
 朧の魔方陣からは黒い炎が溢れ出し、ヴァルキリーの魔術を消し去った。
「命が惜しければ退()いてな戦乙女(ヴァルキリー)。あんたじゃ俺には勝てないよ」
「だからといって、退()くわけにはいきません!」
 ヴァルキリーは魔方陣を新たに展開する。
「中々良い根性。名前を聞こうか?」
 そう言って朧も再び魔方陣を展開する。
「……ロスヴァイセです」
「黒縫朧です。縁が合ったらまた会いましょう。――黒雷、撃ち貫け」
 ロスヴァイセの魔方陣から魔術が放たれるよりも早く、朧の魔方陣から黒い雷が(ほとばし)り、ロスヴァイセの意識を刈り取った。
「殺してはおらんようじゃの」
「殺すには惜しいですから」
「もしやこやつに惚れたか? だったらロスヴァイセの将来も安泰なのじゃが」
「寝言は寝て言えクソジジイ。ミーミルに片目を差し出して手に入れた知識も耄碌(もうろく)したか」
 からかう様なオーディンに、朧はドス黒い表情で答えた。
「おお、怖いのぅ」
 朧は表情を普通に戻すと、黒手袋から一本の剣を創り出す。
「さて、主神たるあなたの扱いは、こちらも決め(あぐ)ねているので――」
 (きっさき)を先端にして落ちる剣の柄頭(ポメル)を人差し指と親指で摘み、手元で一回転させて手に取る。
「俺としては、殺しておこうかと」
「どうしてそうなるか、聞いても良いかの?」
「旧魔王派はあなたを欲している。俺は旧魔王派が嫌い。これで十分ですか?」
「理由は分かったが、はいそうですかと頷く訳にはいかんのぅ」
「そりゃそうでしょうね。でも死んでください」
 黒い剣を振りかざし、オーディンに斬りかかる。
「――グングニル」
 オーディンは左手に槍を出現させ、その槍を朧へと突き込むと、槍から放たれたオーラが朧が居た場所を抉りとった。
「おっと、殺してしまったかの?」
「ご心配なく、生きてますよ」
 朧は建物の天井に張り付いており、そこから魔力を込めた剣を下にして高速で落下する。
 オーディンが迎撃のために突いたグングニルと剣が激突し、一瞬の均衡の後で朧を一気に飲み込んだ。
「ちっ、神の相手なんて命がいくつあっても足りねえぞ」
 朧が擦り切った衣服を叩きながら、オーディンの後ろにいつの間にか回り込んでいた。
「ふむ。仙術かの?」
「手習い程度だけどな。どこぞの猿と猫と付き合ってると、自然に覚えざるを得ないんだよ。逃げるあいつらをしばき倒さないと、ストレスが溜まってしょうがないからな」
 そんな理由で仙術を覚えた者は他に居ない。
「それにしても、流石は北欧の主神。接近するのも命懸けとは……」
「諦めて帰ったらどうじゃ? 今なら見逃してやるぞい」
「それはそれはとても魅力的な提案ですが……もう少しだけ付き合ってもらいましょうか!」
 朧の周囲に黒の剣と魔方陣が多数展開され、朧の周囲を黒く染める。
神器(セイクリッド・ギア)と魔術の混合かの?」
「……よくお分かりで。ミーミルの泉に左目を差し出した価値はあったということですか」
「よく神器(セイクリッド・ギア)を使いこなせているようじゃの。最近の小僧にしては珍しい」
「お褒めに預かり光栄です。――黒剣(こくけん)、消し去れ!」
 宙に浮かぶ黒い剣が全てオーディンに鋒を向け、一斉に撃ち出された。撃ち出された黒剣は魔方陣を通過することで黒いオーラを纏い、空間を揺らめかせながらオーディンに向けて突き進む。
 それはオーディンが勢いよく杖で地面を叩いた瞬間に黒の粒子となって霧散した。
「――〜〜〜ッ! 黒霧、収束、圧縮!」
 その粒子は朧が掲げた手元に集まると、巨大な槍の形を取った。
「黒槍、穿(うが)て!!」
 更に魔力を上乗せされた黒い大槍は衝撃波を発しながら突き進むが、オーディンのグングニルによってあえなく破壊された。
「……駄目、か……」
 ガックリと肩を落とす朧に、オーディンが声をかける。
神器(セイクリッド・ギア)の扱いは大したもんじゃが、少々小手先の技術に頼りすぎじゃな。一度原点に立ち戻ったらどうじゃ?」
「……助言、感謝します。それでは、これで失礼させていただきます」

 朧はオーディンに苦々しい表情で一礼すると、足元に魔方陣を出して、この場から転移して逃げ去った。

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