オカルト研究会の部室にはいつものメンバーに加えて、スーツを着崩したアザゼルが来ていた。
「俺がこの学園に滞在できる条件はグレモリー眷属の悪魔が持つ未成熟な神器を正しく成長させることだ。『禍の団』ってけったいな組織の抑止力の一つ――特に対『白い龍』専門だな」
「ハハッ、そりゃ面白いや」
そう言って笑ったのは、オカルト研究会の部員の一人、黒縫朧だった。
「いや、お前何でここにいるんだ?」
「部員だからだ」
「いや、お前敵だろ」
「その前にここの生徒で、ここの部員だよ」
アザゼルに何事も無いかのように答えた。
「まさかあなた、スパイじゃないでしょうね?」
「ハハハ、逆スパイならしてやってもいいですよ」
「信用できないわ」
「でしょうね。ふぅ……俺の信頼はどこからも最底辺ですねぇ。一部を除いて」
朧はため息を吐いた言葉は、誰の耳にも届かなかった。
「俺のことは気にしないで続けてください。何を聞こうと言うつもりはありませんし」
そう言って朧はソファに横になった。
「そういや、さっき何で面白いって言ったんだ?」
「そうだったな。白龍皇は他数名と独立したチームがいる事はご存知ですか? 一応俺が作ったようなものですが」
「ああ。判明してるメンツは白龍皇と孫悟空をだけだけどな」
「残りのメンバーとオカ研のメンバーとの対比がそれなりに面白いんですよね。ちなみに俺もその一人ですが」
朧はそう言って、木場とゼノヴィア、それに小猫へと視線を向ける。
「どういうことだ?」
「これ以上は内緒です。言ったら面白くないでしょう?」
そう言った朧は不貞寝するかのように転がった。
「それじゃあ、話を戻すぜ。聖魔剣の。お前、禁手状態でどれくらい戦える?」
「現状では一時間が限界です」
「駄目だな。最低でも三日は保たせろ」
「俺は限定条件付きで十秒ですけど……」
「話にならん。お前は一から鍛え直す。白龍皇は禁手状態で一ヶ月は保つぞ」
「そんなに長いのにどうやって測ったのか?」
一ヶ月間鎧で過ごしていたと考えるとシュール過ぎる。
「そういうお前は、どれくらい続くんだ?」
「いえ。俺は禁手化なんてできませんよ」
「何?」
「嘘じゃないですよ。禁手なんてそうそう至れるものでもないでしょうに。しかも俺は最近まで普通に生きてたんだから、そんな生き方で禁手になれるようなら、禁手は禁手と呼ばれてないでしょう?」
「そうかよ」
(まあ、実際は一度至りかけたんだけど)
アザゼルは朱乃とバラキエルに関する話をした後、一誠の方を向いた。
「おい、赤龍帝――イッセーでいいか? お前、ハーレムを作るのが夢なんだってな?」
「ええ、そうッスけど……」
「だったら俺がハーレムを教えてやろう。これでも過去に数百回ハーレムを形成した男だぜ?」
それを聞いた一誠が感銘を受けたかのように目を見開いた。
「騙されるなイッセー。数百回形成したということは、数百回崩壊したということだぞ。しかもアザゼルは堕天使の幹部が次々と結婚しそうな中、一人だけ独り身街道まっしぐらなんだぞ」
「ちょっと待て! なんでそんな事知ってるんだよ!」
「風の噂で聞いたんだ」
風は何でも知っていた。
「当面の目標は赤龍帝の完全な禁手化。それとお前らのパワーアップだな。夏休みの間に修行して達成するべきだ」
「いいですね、修行。俺も昔やりましたよ。天界の居候連中相手に。たまに熾天使が出て来てマジ焦ったなぁ……」
「それしみじみできるようなエピソードじゃねえぞ。普通に考えたらトラウマもんだ」
「確かに、燃える天使とか夢に出てきそうですねぇ……」
朧が天界にいた時、一番死にかけた時のことを思い出して、虚ろな表情で笑った。
「ククク、未知の進化を始めた赤龍帝の籠手。それに聖魔剣。更に停止世界の邪眼だ。俺の研究成果を叩き込んで独自の研究形態を模索してやる」
アザゼルは危険な笑いをした。
「あーあ、アザゼルの危険な一面が顕わになっちゃったよ。死ぬなよお前ら。ところでアザゼルさんや、俺の神器は?」
「お前は既に独自路線走ってるから無理」
「見放された!?」