小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

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「ふんふん、ふ〜ん♪」
「レイナーレ」
 鼻歌を歌いながら朝食の支度(したく)をするレイナーレの背後に、朧が話しかける。
「あ、おはようございます、黒縫さん」
「うん、おはよう。少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「はい、何でしょうか?」
 火を止めて振り向いたレイナーレに、朧は思い切って言ってみた。
「隣が凄いことになってるんだけど」
「ええ、凄いですよね。リフォームだそうですよ」
 軽く返されたのが気に食わず、朧は少々ムキになって反論を始めた。
「いや、凄いってレベルじゃないから。朝起きて、窓の外見て、一体何が起こったのかと思ったよ。寝る前の風景が一切見受けられないし」
「そうそう、お隣さんは引っ越したそうですよ」
 レイナーレは得に聞いていないことまで言い始めた。
「引っ越した? じゃあ、あの家は一体誰の家なんだよ?」
「表札には、兵藤って書かれてましたよ?」

「……悪魔の仕業(しわざ)か!」



 一方、朧を除くオカ研のメンバーは改装されて広くなったイッセーの部屋に集まっていた。
「この夏は皆で冥界に行くわ」
 リアスが言うところによると、毎年、夏には冥界にある実家に行くそうで、それには眷属である一誠も同伴するのである。
「俺も冥界に行くぜ」
「俺も冥界に行きたいかも?」
「冥界ですか。懐かしいですね……」
『ッ!』
 いつの間にか現れた三人に、オカ研の部員が驚いた。
「普通に玄関からだぜ?」
「そこの窓から」
「すいません、玄関から上がらせていただきました」
「気がつきませんでした」
 木場が素直な感情に口にした。
「俺は普通に入って来ただけだぜ? 修行不足だな」
「俺は抜き足差し足入って来たよ」
「私は気配を消す魔法具を使いました。すいません」
 アザゼルはあっけらかんと、朧は不敵に笑い、レイナーレは申し訳なく言った。
「それよりも、お前らが冥界に行くなら俺も行くぜ。何せ俺はお前らの『先生』だからな」
「先生、禁手化(バランス・ブレイク)がしたいです……」
「そうか、頑張れ」
「差別だ!」
 アザゼルは朧の叫びを無視すると、懐から手帳を取り出した。
「冥界でのスケジュールはリアスの里帰りに現当主に眷属悪魔の紹介。それと例の新鋭悪魔たちの会合。それとお前らの修行だな。俺はお前らの修行に付き合うだけだがな。お前らがグレモリー家にいる間、俺はサーゼクスたちと会合か。ったく、面倒くさいな」
「諦めてください。あなた総督でしょう?」
「総督なんざ、シェムハザの方が向いてるのによ……」
 朧の言葉にアザゼルがぼやき、それを見たレイナーレは苦笑いをしている。
「ではアザゼル――先生の行きの予約はこちらでしても良いのかしら?」
「ああ、よろしく頼み。悪魔のルートで冥界入りするのは始めてだから楽しみだぜ」
「部長、俺も行きたいです」
「駄目よ」
 朧の希望はあっさりと跳ね除けられた。
「ですよねー。はぁ、じゃあまたあの道で行くしかないのか……」
「あの道?」
 朧の独り言に一誠が反応した。
「そう、あの道。等活(とうかつ)黒縄(こくじょう)衆合(しゅごう)叫喚(きょうかん)・大叫喚・焦熱(しょうねつ)・大焦熱・無間(むげん)と続くあの道だ」
「それ地獄だろ!」
 人が通れる道では無かった。
「でも安全に通り抜けられるのはこの道だけなんだが……」
「そんな所通るくらいだったら、直接転移した方がいいんじゃないのか?」
「俺の転移、移動できる距離そんなに長くないんですよ。そんなことしたら次元の狭間に出ます」
 次元の狭間に人間が生身で放り出されると、大抵消滅する。
「そうか、まあ頑張んな」
「酷い、見捨てないでよ先生!」
「うるせえ、誰が手前なんかの先生になるか」
「鬼ー、悪魔ー!」
 そう言いながら、朧は窓から飛び出していった。
「俺は堕天使だ」
「あはは……それじゃあ、私もこれで失礼します」
「ちょっと待った」
 退出しようとするレイナーレを、アザゼルが引き止めた。
「何でしょうか、アザゼル様」
「お前さん、『禍の団(カオス・ブリゲード)』には?」
「入ってません。組織の存在さえこの間知ったぐらいです」
「そうか……引き止めて悪かったな」
「いえ。お気になさらず。おじゃましました」
 一礼してレイナーレは玄関から家を出た。

「アザゼル、今のはどういうことかしら?」
「さあな。一つ言えるのは、奴は何かを隠してるって事だけだ」
「あの、どういうことですか……?」
 リアスとアザゼルの会話に、一誠がおずおずと口を挟む。
「イッセー、前にも言ったと思うが、奴はこの間の戦いで仲間であるはずのカテレア・レヴィアタンを殺害した。だが、その前にギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)を利用して護衛たちの時間を停止させたのも奴で、木場とゼノヴィアを気絶させたのも奴だ」
「それって一体、どういうことなんですか?」
「それが分かれば苦労はしねぇよ。ただ、奴は味方とは言えねぇが、かと言って敵だと言い切れる訳でもない。どっち着かずだ」
「でも、彼はヴァーリチームを作ったのは自分だと言ってたわよね?」
「ああ。恐らくはそれなりの立場にいるんだろうが、それだとますます分からなくなる。そんな立場にいる奴が、旧魔王派の象徴である、旧魔王の末裔(まつえい)たちを殺すのは立場的に拙いはずなんだが……ああクソっ、内情が分からねえと何とも言えねぇな」
 アザゼルは頭を掻き(むし)った。
「とにかく、あいつには気をつけろ。今のあいつは俺からすれば何でああなってるのか分からないほど様変わりしてるが、あいつが危険な事には変わりねえんだ」
「あの、先生……」
「なんだイッセー」
「コカビエルも言ってましたけど、昔のあいつって一体どんなんだったんですか?」
 アザゼルはその問いにしばらく黙り込んだ後、一言だけ言った。
「あの時のあいつを言葉で例えるなら――まるで『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』のようだった――それ以外に言い様はねえよ」

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