小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

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「冥界での待機命令?」
「はい、『禍の団(カオス・ブリゲード)』の方がそう伝えるようにと」
「面倒だなぁ……皆について行けたら楽なのに」
「それは流石に……」
 密入国したら即お縄である。
「それじゃあ、行ってくるわ」
「お気を付けて」
 朧が立ち上がると、レイナーレが一礼する。
(さーて、地獄の亡者に久しぶりにご挨拶するかな)





「死ぬかと思った! 冥府に来てるという意味では死んでるかも?」
 朧は地獄の門を開き、冥界へとやって来た。
「あー、風呂に入りたい。シャワーでも可」
 朧の着ている白いシャツには、少量の血が付いていた。門の近くに生息しているケルベロスのものである。
「と言っても、ここらの本拠は旧魔王派の物だからなぁ……使わせてくれるかな?」
 そこまで旧魔王派の心は狭くない。
「そもそもどこ集合か聞いてなかったや。己、村八分か!」
 実はレイナーレの伝達ミスで、半分以上被害妄想である。
「どーしたもんかね?」
 先行き不明になった朧は、行く当てもなく彷徨(さまよ)っていると、一軒の建物を発見した。
「この際、あの家をお借りしようか」
 気配を探る限り、中には誰もいないようだし。

 中に入ると、確かに人はいなかったが、その割には最近掃除された形跡があった。
「家主が最近使ったのかな? となると、冷蔵庫の中には期待できなさそうだ」
 朧が冷蔵庫を開けると、そこには予想とは違い、大量の食材が詰め込まれていた。
「これは、これから使用されるということか……。まあいいや。持ち主が来るまでお借りしよう」
 人はこれを、無断借用と言った。



 家を無断借用し始めてから、三日が経過した。
「あ、小猫。邪魔してるぜ」
 ついに現れた使用者、塔城小猫に朧が挨拶する。
「……何でいるんですか朧先輩」
「そうだよ、聞いてよ小猫ちゃん!」
 朧が小猫に紅茶を淹れたながら愚痴り始め、紅茶を飲み終える頃まで愚痴に付き合った小猫は、黙って立ち上がって部屋へ行き、ジャージ姿なって戻って来て、そのまま部屋の外に――
「無視しないで!?」
 行こうとした所で朧に引き止められた。
「……何ですか? 私、修行したいんですけど」
「手伝う! それ手伝うし食事の準備もするから無視しないで!」
「……しょうがないですね」
 そう言われた朧がもの凄い笑顔になった。どれだけ寂しかったのだろうか。
「……何があったんですか?」
「かれこれ二週間はぼっちです。出会ったのは悪鬼羅刹ばかりです。会話をしたのは久しぶりです」
「……よしよし」
 朧の不憫(ふびん)さを小猫が慰めた。



「ふーん、これがアザゼルが用意したメニューねぇ……フツーだな」
 小猫の練習メニューを脇に置く。
「続けてば強くなるだろうね。フツーに」
「……フツーに、ですか」
「うん。フツーに。――死ななきゃだけど」
 朧が付け加えた一言に、小猫の表情が変わった。
「……死ぬ、ですか」
「うん。今のお前の強さは下級悪魔にしては強いってぐらいだからな。戦争になれば死ぬ」
 朧の言葉には容赦がない。
「まあ、お前は生来のものを使えば何とかなるだろうが」
 その朧の言葉に、小猫が身を固くする。
「何だ。嫌なのか?」
「……だって、あの力は……」
「姉のようになるのが嫌か?」
「ッ!? ……何でそれを?」
 驚く小猫に対して、朧はせせら笑う。
「今俺の所属している組織の性質考えてみな。ぴったりな奴がお前の知り合いにいるだろ?」
「――……まさか……!」
「ご明察」
 朧が何かに気付いた様子の小猫を見て数回手を叩く。
「でも、それは今は気にするな。――強くなりたいんだろう? それも今すぐに」
「……はい……!」
「だったら仙術を使え。それが嫌なら――」
 朧は立ち上がって、神器(セイクリッド・ギア)を発動させる。
「表に出ろ――殺してやる」




「あぅっ!」
 小猫が朧の剣で吹き飛ばされる。
「立ちな、小猫。――(らい)、奔れ」
 雷が朧が左手に出現させた魔方陣から小猫に向かって飛び、その体を吹き飛ばす。
 小猫は吹き飛ばされながらも空中で姿勢を整え、着地すると朧に向かって走り出した。
「流石は猫と言ったところか」
 朧は近づく小猫に投槍を投擲(とうてき)するが、小猫はそれを回避していき、そして拳を――
「残念ながら、俺の方が手足は長い」
 打ち込む前に朧の足が小猫の拳を押さえる。
「お前は肉弾戦が得意だけれど、いかんせん間合い(リーチ)が短すぎる。攻撃が届かなきゃ、『戦車(ルーク)』の攻撃力も意味が無い」
 朧は小猫が一歩下がるのに合わせて踏み込み、胸部中央に右手を当てる。
「次は森林だ。視界が満足に利かない場所で、貴様は仙術なしでどこまで出来るか、見せてもらう」
 強烈な震脚(しんきゃく)とともに、密着状態で放たれた掌底は小猫を森林まで、放物線の軌道を描くように吹き飛ばした。
「はぁ……」
 小猫が森の中に落ちたのを確認した朧は、一つため息を吐いた。
「……人を鍛えるなんて、経験無いから難しいなぁ」
 傍目からは一方的に甚振(いたぶ)ってるようにしか見えない。
「せめて、仙術を使う踏ん切りがついてくれればいいんだけど。全部あの黒猫が悪いな。せめて妹には一言言って――って、言えることではないのか」
 黒歌と白音(小猫)の過去を一応知っている朧は、事情の複雑さに頭を痛めた。
「あー面倒。なんで関わりないことで頭を痛めなければならないんだ」
 朧は考えるのをやめ、小猫が落ちた森へと歩き出す。










「世界の悪意に触れて、力に(おぼ)れて、それで何かが変わっても、結局は何も変わりはしないのに」










「はぁ、はぁ、はぁ……」
 小猫は森の中を走っていた。ただ逃げているのではなく、森から抜け出すために。
 バキバキバキ――
「……また来る」
 木が薙ぎ倒される音が近づいて来るのに合わせて、小猫は身を屈めた。その頭上を小猫が頭を下げた一瞬後に、「く」の字型の黒いブーメランが木を切り裂きながら、弧を描いて飛翔していった。
「小猫ー、逃げられると思うなよー!」
 遠くからかけられる声に構うことなく立ち上がり、さっきまで目指していた方向が倒木で塞がれているので、別の方向へと進み始めた。
 先ほどからこれの繰り返しで、小猫は森の中をぐるぐると回っていた。
 バキバキ――
 再びの倒木音。それを聞いた小猫は、今度は屈むのではなく飛び上がる。 そのすぐ後に、地面から30センチほどの高さをブーメランが通り抜けていった。
 ブーメランが飛んでくる高さは一定でなく、それに加えて、飛んでくる方向もまちまちで、小猫の立っていた場所にブーメランが突き立つこともあった。
「中々慣れてきたな。じゃあ、少し難易度を上げようか」
 朧がどこからか見ているのではないかと疑ってしまうが、小猫は朧がどこにいるのかは分からなかった。
「二つ行くぞ」
 その声と同時に、倒木音が二方向から聞こえてき、小猫は対応を迷った。
「動かなきゃ死ぬよ?」
 小猫はその言葉に押されるように、音がしない方向へと思い切り踏み切った。
「いらっしゃい」
 小猫が飛んだ方向の茂みの向こうには朧がおり、着地した小猫へと手にしたロングソードを振り下ろした。

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