小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

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 小猫は森の中の開けた場所に立っていた。その身に着けているジャージは全体的にボロボロで、所々切り裂かれていた。
 シュッ
 空気を引き裂く音がすると同時に小猫が振り返り、飛んできた木でできた矢を左手で払いのける。
 その背後から、朧が音もなく接近し、手に持ったナイフで小猫を突き刺さんとばかりに(せま)った。
「……フッ!」
 短い気合いの声と共に放たれた右回し蹴りが朧のナイフを弾き飛ばし、次いで突き出された左拳が、朧の顔の前で止まる。
「おー、怖い怖い」
 朧が両手を挙げて降参の姿勢を取る。それを見た小猫は、左手を下ろし、右手を頭上へと突き出した。
 バキッ!
 その拳は倒れてきた樹木を真っ二つにへし折り、空高くに吹き飛ばした。
「よく気付いた、なっ!」
 小猫はそれの声と同時に突き出された朧の貫手(ぬきて)(さば)き、反撃の左拳を朧の腹に突きこんだ。
「ゴフッ……!」
 朧はその場に膝を着いてしばらくうずくまっていた後、ふらつきながら立ち上がった。
「ふ……もう教えることはない。免許皆伝だ」
「……何の免許ですか?」
「…………さぁ?」
 そう言った朧の脛に、小猫のローキックが放たれた。





「さて、余計なことはさておき、一応仙術を使う踏ん切りがついて、それなりに使えるようになって……お兄さん嬉しいよ」
「……はぁ」
 朧は嘘くさい涙を流しながら話しているが、小猫はどちらかというと彼が作った料理に注意が行っていた。
「俺との特訓という名の単なる戦闘行為をしながら、アザゼルから出された修行メニューもこなしていたのは驚いたが、まあ仙術の回復もあったから何とかなったようだな」
「……ええ、まあ」
「今日で修行の期間も終わりなんだっけ?」
「……はい」
「戻ったら、みんなと修行の成果を報告し合って、その後にパーティーだったか?」
「……確かそうだったと」
「その際に俺のことは言わないでくれると助かる」
「…………考えておきます」
 この時だけ、小猫はどうするか少し言い渋った。
「別に、尋ねられたら話してもいいけどな。ないと思うけど」
「……先輩はこれからどうするんですか?」
「お前はこの屋敷の魔方陣からグレモリー家の本宅に直接ジャンプするんだろ? それについて行く訳にもいかないから、この屋敷からお暇してどこかに行くことになるな。――おっと、どこに行くかは聞かないでくれよ? 俺も分からないんだから」
 朧は冥界の地理に明るくなかった。
「……そうですか。それでは、ここでお別れですね」
 食事を食べ終えた小猫が、名残(なごり)惜しそうに言った。名残惜しいのは朧ではなく、彼が作った料理だが。
「そうだな。けど、そう遠くない内に会えるさ。同じ学校なんだから」
「……今思うと、テロリストが学校に通うってかなり変わってますよね」
「好きでしてるわけじゃないからな。俺としては学業優先だ。テロで生計は立てられない」
「……変な所で現実的ですね」
「周りがちっとも現実的じゃないからな」



「小猫はさっきお別れと言ったけど、俺としてはまだお別れするわけにはいかないのであった」
 お別れしたらまた一人ぼっちに逆戻りである。
 なので朧は、小猫が転移した際の魔方陣と魔力の消費具合から転移先の座標を確認し、その少し離れた場所に転移した。

「グレモリー眷属は…………いたけど、一緒に凄いのがいるな。『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーンか……」
 タンニーンは『六大龍王』に数えられた伝説のドラゴンであり、今では悪魔に転生してしまったが(そのため『六大龍王』は『五大龍王』に変わった)、その力は今も健在で、吐くブレスは魔王に匹敵する。
「流石に戦いたくないなぁ……。それにしてもどこかへお出かけかな? ドレス姿ということは、パーティーかな?」
(誰も彼も綺麗だねぇ……何故かギャスパーもドレス姿だが)
 男の娘だからアリだが。
「さて、どうやって追跡(ストーキング)したものか?」
 魔方陣で転移(ジャンプ)されるよりマシだが。
「仕方ない。ここは我が故郷である日本古来より伝わってない隠密スタイルに(なら)おう」
 朧は抜き足差し足忍び足でドラゴンの一体に近寄ると、その尻尾に細い糸を結びつける。その糸の先は黒き御手(ダーク・クリエイト)で構成された(たこ)が付いていた。
「Let's play Ninja!」
 そう言ってる本人は本気だから手に負えなかった。
 ドラゴンたちが飛び立つと同時に、朧は誰にも気付かれることなく大空へ舞い上がった。
「この高さ怖ッ!」
 ……叫び声は風に(まぎ)れて聞こえなかった。



「うわぉ!?」
 目的地であろう超高層高級ホテルの目の前にたどり着くと、ドラゴンたちは降下を始めた。
 そのせいでありふれた代物(しろもの)である細い糸が切れ、朧は凧ごと吹き飛ばされた。
「ぬ、よ、ほっ! (ふう)、吹け!」
 朧は凧から手足を離すと、空中で姿勢制御し、眼下に出現させた魔方陣から風を起こし、勢いを弱めてから地面に墜落した。
「ぬぉぉぉ……死ぬかと思った……」
 上空数百メートルから落下した朧は、木のおかげも合って無事だった。
「さて、どうしよ? 『禍の団(カオス・ブリゲード)』が様子を見ているようには思えないしな……」
 その時、朧の腹の虫が鳴った。
「よし、パーティーに潜入しよう」
 大胆不敵というか、無謀という、実の所を言うと何も考えてないだけである。
「こんな時、魔力を服に変える技術(スキル)があると便利です」
 服装をタキシードに変え、仙術による気配察知でパーティー会場がホテル最上階である事を確認すると、一気に外壁を駆け上がり始めた。
「ぬぉぉぉぉ! 重力に負けるかぁぁぁ!」
 ……朧は時々、考えが浅い所があるようだ。

「無事潜入……あんまり無事じゃないな!」
 今の朧は息も絶え絶え、足はガクガク、しかし汗は全くかいていない。冥界も高度が高くなるほど気温は下がるらしい。
「さあ、当初の目的である空腹を満たそう」
 悪魔の血が一応混じっているためか、誰にも怪しまれることなくパーティー会場に侵入した朧は、テーブルの上に載っていた料理を取り皿にちょこちょこと盛り付けた。どうやら種類が多い方が好きなようだ。
「もぐもぐ……俺の口に合わない。やっぱ、日本人なら日本食だよねー」
 その割には結構食べている。どれだけ空腹なのだろうか?
「ケフッ、腹も(ふく)れたし、他に誰かいないか探そう。運が良ければ黒猫の一匹ぐらいいるだろう」
 食事のためだけにパーティーに潜入した朧は、使った皿とフォークをテーブルの空いた場所に置き、会場から出て行く。控え目に言ってバカじゃないだろうか。
 そのバカの後ろを、一人の悪魔が後をつけて行った事に朧は気づかなかった。

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