小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「お集まりの皆さん、大変長らくお待たせしました」
 レーティングゲームの会場。本来なら(・・・・)グレモリーとアスタロトが戦う舞台に、一つの声が響く。聴く者はいない。何故なら、この空間が使われるのはもう少し先の事であるからだ。
「これより、皆様がご覧になりますのは、共に魔王の血族である悪魔の一戦――ではなく、神仏悪魔による、諦めの悪い古臭い蝙蝠(こうもり)の駆除――でもなく、俺の単なる、周りを巻き込んだ復讐だ」
 聞こえない故彼は語る。黒く塗り固めた胸の内を。
賭けた(ベット)のは我が命。勝率(レート)は換算不可能で、配当金には平穏を。――さあ、受けて(コール)頂戴、全世界」

 世界に対する宣戦布告は、誰にも届かぬ独り言。

「さて、早く結界装置設置しないと。アスタロト側の本陣はどっちだったっけ? ああ、そういえば結界に工作しなくちゃいけないんだよな。それとオーフィスを迎えに行かないと……」

 …………。





「さて、始まりました。『禍の団(カオス・ブリゲード)』旧魔王派対etc. ――皆死んでしまえ」
 真っ黒な椅子の上で、膝の上に寝ているオーフィスを乗せ、朧がサラッと毒を吐いた。
「という訳だから、適当に行ってらっしゃいフリード。適当に殺してきていいよ」
「ひゃはっ! そっれじゃあ、行ってきまぁすっ!」
 横に立っていたフリードは人間とは思えない速度で駆け出していく。
「ま、改造した成果はあったかな? どうせすぐに死ぬけど」
 フリードを見送った後、朧はすぐに興味を失い、膝上のオーフィスを撫でる。
「あなたはもしかすると、実はぜーんぶ知っていて、知らないのは俺で、守るつもりが守られてるだけなのかも知れませんね。――だからどうだっていうんですけど」
 朧が撫でながら呟くその言葉は、実はもう既に何度も自問自答した事。仮令(たとえ)自分が何も知らない愚か者だとしても、止まれないのである。
「ああ、意味もない事を何度繰り返し呟くのか。所詮(しょせん)俺はその程度か。――どう思います、アザゼル総督?」
「悩む事自体は悪くねぇよ。それがいい結果に繋がるならな」
 朧の後ろにはいつの間にかアザゼルが来ていた。
「そうですか。それでは是非とも悩みましょう。――(ろく)でもない(たくら)みごとを」
 そう言って、アザゼルに興味を無くした様にオーフィスを撫で続ける。
「おい、普通に無視すんなよ。しかも、お前の膝の上にいるのは……」
「うるさい黙れ。オーフィスが起きるだろうが」
 朧は振り向かず、音もなく剣を創り出し投擲する。
「うぉ――」
「だからうるさいな」
 アザゼルに悲鳴すら許さず、黒箱(ブラックボックス)に閉じ込めた。
「やれやれ、やっと静かになったか」
 と思ったらタンニーンがやって来たので再び黒箱に閉じ込める。

「あああああ、面倒だ面倒だ」
 光力とブレスで幾度も黒箱を壊し、その度に閉じ込め直す行為が百回ほど続いた時、朧が痺れを切らして苛立ったように叫んだ。
「面倒だ面倒だ。ああそうだ。アザゼルの相手は貴様に任せるんだったな、クルゼレイ」
 朧が指を鳴らすと魔方陣が出現し、そこから貴族服を着た男が姿を現す。
「お初にお目にかかる、堕天使の総督。俺はクルゼレイ・アスモデウス。真なるアスモデウスの血を継ぐ者として、貴殿に決闘を申し込む」
「……旧魔王派のアスモデウスか」
 その一言にクルゼレイが激昂する。
「旧では無い! 真なる魔王だ! カテレア・レヴィアタンの仇討ちをさせてもらう!」
 アザゼルもそれに応じる。
「さて、今頃うちの教え子たちはディオドラの所にたどり着いた頃かね?」
 アザゼルが何となく口にした言葉に、朧がこれまた何となく答えた。
「今、たどり着いた所だね。――フリードの野郎、あっさりやられて逃げやがって。後で始末しないと」
 小声でついた悪態は誰にも聞こえず、それを上塗りするように朧が言葉を続ける。
「ディオドラ・アスタロトには『蛇』を渡してるけど、元が下種(ゲス)だから勝てないでしょうね。いい気味だ」
「……それじゃあ、やるか!」
 アザゼルが気合を入れ直し、人工神器(セイクリッド・ギア)の鎧を纏おうとした時、新しい魔方陣が現れた。
「くはっ、ここで現ルシファーのお出ましですか。良かったなクルゼレイ、憂さ晴らしができるぜ」
 クルゼレイは朧の軽口に付き合わず、今現れた男――現魔王、サーゼクス・ルシファーを憎々し気に睨みつけていた。
「クルゼレイ、矛を下げてはくれないだろうか? 今なら話し合いの道も用意できる」
「話し合いだぁ?」
 サーゼクスの言葉に反応したのは、クルゼレイではなく朧。彼はオーフィスから離れ、黒いオーラを漂わせながらサーゼクスを睨みつけている。
「話し合いだと? 当代の魔王、それは侮辱だ。一度負け、僻地(へきち)に追いやられた悪魔共の命を懸けた決死の戦いに、話し合いなんて、なあなあな手段で済ませようとするな。命懸けの相手には、同じく命懸けで立ち向かえよ。それが礼儀だろ。そして言わせてもらうぞ。――話し合い程度で揺らぐような覚悟で、俺たちはテロなんてしていない。話し合いなんかでどうにかなるなら(・・・・・・・・・・・・・・・・)! 端っからテロなんざしてねぇんだよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)ぉぉぉ!」
 声を荒げて、自身の覚悟を――決して誰の言葉でも止まらないと――言い切ると、今度はクルゼレイに発破をかける。
「何してやがる、アスモデウス(・・・・・・)! とっとと目の前の怨敵(おんてき)を殺せ!」
「言われるまでも無い!」
 クルゼレイが両手に巨大な魔力の塊を作り出し、それを見たサーゼクスは目を閉じ、開いた時には目には冷たいものが映り込んでいた。
「クルゼレイ。私は魔王として、今の冥界に敵対する者を排除する」
「貴様が、魔王を語るな!」
 怒りの叫びと共に放たれた幾つもの巨大な魔力塊は、サーゼクスの滅びの魔力を球体かしたもの――『滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクスティンクト)』によって削り取られ、避けられ、防御障壁に阻まれる。
 そして、自在に動く魔力球の一つがクルゼレイの口から体内に入り込み――
 ――クルゼレイの腹部に穴が空いた。

「全く、期待外れも(はなは)だしい。オーフィスの『蛇』の力を借りてこの程度。所詮(しょせん)負け犬は負け犬か」
 その穴を空けた者――黒縫朧は、腹部から血を流すクルゼレイを、先ほどまでとは打って変わった、何の感情も映らぬ瞳で見下ろす。サーゼクス、アザゼル、タンニーンの三人はそれを見て目を見開いていた。
「貴、様ァァァ! 俺は真なる魔王の血族! 正当なる魔王アスモデウスなのだぞ!」
 激昂したクルゼレイに、朧は鼻で笑って返す。
「はっ。王なぞ、ただの人を纏めるための一階級に過ぎんだろうに。リーダー、(おさ)(かしら)――その相似形に過ぎん。相応(ふさわ)しくなければ()げ替える、その程度の存在だ。それに従わない者にとっては、王なぞただの獲物だ」
 もう、朧にとってクルゼレイは道端の歩く(アリ)に等しい――踏み潰すだけの存在だ。
「お、おのれぇぇぇ!」
 クルゼレイが最後の力を振り絞って朧に反撃の魔力を放つ。朧はそれを黒手袋で包まれた右手で弾き飛ばす。
「最期に教えてやるよ。カテレア・レヴィアタンを殺したのはアザゼルではなく、俺なんだよ」
 それを聞いたクルゼレイの顔には、これ以上ないほどの憤怒(ふんど)が浮かんだ。
「せめてもの手向(たむ)けに、同じ方法で殺してやろう。――刃花開放(はなひら)け、黒咲(ブラック・ブルーム)
 朧が指を鳴らすと、クルゼレイの体を内部から、多種多様な黒い刃が刺し貫いた。
「――二人目」

-50-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




「ハイスクールD×D」リアス・グレモリー 抱き枕カバー(スムースニット&セベリスライクラ本体改)セット
新品 \0
中古 \
(参考価格:\)