小説『ハイスクールD×D Dragon×Dark』
作者:()

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 パン!


「何度言ったら分かるの?あのシスターの救出は認められないわ」
 兵藤の頬を叩いた部長が言う。

 えー……何故こんな事になっているのかと言うと、俺が学校に行ってる間に家から出たアーシアは途中で兵藤と出会って遊んでいたら堕天使に連れ去られた。という訳だが……。

(だから俺は家から出るなと言ったんだ……)
 あの家は少々特殊に出来ており、あの中に居れば大抵の事は大丈夫な造りになっている。


 話を戻す。それで、兵藤はアーシアを助けるために教会へ行こうとし、部長はそれを止めている。

 この事についてはどちらも間違ってはいない。ただ二人の中の優先順位が違うだけだ。捕まっているのがもし兵藤だったなら、部長は救出に向かっただろう。

 つまり、この件に関しては、いくら話し合った所で妥協(だきょう)点は存在しない。


「だったら俺一人で行きます。儀式ってのがアーシアの身に危険を及ぼさない保証はありませんし」
「儀式?」
 思わず口を出す。その言葉には聞き覚えがあったから。一般的な意味では無い方で。

「ああ、堕天使がそう言ってた。それでアーシアの苦悩が消え去るって。何か知ってるのか?」
「その前に一つ確認。アーシアは神器(セイクリッド・ギア)を持ってるのか?」
「ああ。傷を治す神器(セイクリッド・ギア)を持ってた」
「なる程。だったら儀式ってのはその神器(セイクリッド・ギア)を抜き出す儀式だ」
「それはアーシアに何か悪影響があるのか?」
「兵藤、お前はまだ目覚めたばかりだから分からないのだろうが、神器(セイクリッド・ギア)ってのは生まれてから今まで俺達と共にあった物。それを失うという事は臓器を失うのに等しい。結論を言うと、神器(セイクリッド・ギア)を抜かれた者は死ぬ」
 俺の話を聞いた兵藤は顔色を変えた。

「そんな……!部長、やっぱり俺……」
「駄目よ。あなたの行動が私や他の部員にも多大な及ぼすのよ」
「でしたら俺を眷属から外してください」
「そんな事できる訳ないでしょう!」
 二人の意見は真っ向から対立する。

 そこで姫島先輩が部長へなにやら耳打ちする。

「大事な用事ができたわ。私と朱乃はこれから少し外へ出るわね」
「部長!話はまだ――」
「イッセー、あなたにはいくつか話しておく事があるわ。まず、あなたは『兵士(ポーン)』を弱い駒だと思ってるわね?」
 兵藤はその問いかけに黙って頷く。
(それは違うと思うなぁ……。古来より昔か歩がない将棋は負け将棋と……あ、これは将棋の話か。しかも駒の強さ関係ないや)

「それは大きな間違いよ。『兵士』には他の駒には無い『プロモーション』と言う力があるわ」
「プロモーションと言うと……ポーンが盤の端にたどり着くとキング以外の他の駒に変わる事ですよね?普通のチェスにおいては」
「そうよ。この場合、盤の端というのは敵陣地の最奥部になるわ。けど、転生してから日の浅い今のイッセーでは『女王(クイーン)』の駒へのプロモーションは無理でしょう。それともう一つ。神器(セイクリッド・ギア)は想いの力で動き出し、その威力が決定するわ。強い想いがある程、神器(セイクリッド・ギア)の力も強くなる。それと、覚えて置きなさい。『兵士』でも『王』は取れる。これはチェスの基本で、悪魔の駒でもそれは変わらないわ」


 そう言い残すと、部長は姫島先輩と共にジャンプした。

 兵藤はそれを見送ると、意を決したようにため息を吐く。

「それじゃ、行きますか。二人も行くだろ?」
 俺は軽く、どこかへ出かけるように立ち上がり、購買へ行く時のような気楽さで二人を誘う。

「そうだね」
「三人だけでは心配ですから」
 二人もそれに軽く応じて立ち上がる。それを見た兵藤は軽く動揺している。

「何動揺してるんだ?さっき部長が言った事を考えればこうなるのは分かるだろうに」
「それに、部長が本気で君を行かせたくないなら、閉じ込めてでも止めただろうし」
「みんな……ありがとう!それじゃ、4人で救出作戦と行きますか!」




 堕天使が根城にしている教会にたどり着いた俺達は、地下にあるであろう儀式場の目指すために教会の扉を開け放つと、そこにはあの時のエクソシスト――聞いた所によると名前はフリード――が居た。

「ご対面!再開だ――」
「問答無用でくたばれ」
 何事かを言おうと口を開いたのを見た俺は、神器(セイクリッド・ギア)の発動し黒手袋を呼び出し、一本の槍を創り出して投擲(とうてき)する。
 それはフリードに一直線に向かうが、避けらてしまった。

「おいおい、まだ話の途中ですぜ!」
「だから言ってる事はほとんど分からないんだって。分かっても同じ事するが」
 フリードの軽口に耳を貸さず、二本目の槍を創り出して投げる。

「物を創り出すタイプの神器(セイクリッド・ギア)かよっ!」
「あー……きっと正解。冥土の土産にどうぞ。あ、お前はクリスチャンだったか?」
 だったら冥土は知らないなぁと思いながら、俺は一瞬で創り出させるだけの槍を創り出し、一斉に投げつける。

「しゃらくせえ!」
 フリードは光の剣で槍を弾くが、全てを弾き終わった時には刀身は消滅していた。

「おわ!一体なんですかこれは!?」
「俺の神器(セイクリッド・ギア)で創り出された物は全て天使・堕天使が持つ光力と相反する性質を持つ。――兵藤、今なら殴り飛ばせるぞ」
「おう!」

 左手に赤い籠手を出現させた兵藤がフリードに向かって殴りかかる。
 フリードは拳銃で兵藤を撃つが、『戦車(ルーク)』へとプロモーションし、神器(セイクリッド・ギア)で能力を倍にした兵藤の前に敢え無く弾かれる。
 その事に驚いたフリードの顔面を兵藤がぶん殴る。
(惜しい、柄で防がれたか)


「ふざけんなよクソがぁぁぁ!」
「何言ってるかは分からんが、さっきから禄な事言ってはいないんだろうな……」
「そうだね。神父とは思えない口の汚さだ」

 俺達四人はフリードを囲む。
 状況不利と悟ったフリードは閃光弾らしき物で俺達の視界を奪う。

「……そこの雑魚悪魔――イッセー君だっけ?それとそこの神器持ち。俺、お前等は絶対殺すから。それじゃ、ばいちゃ」


 そう言い捨てて逃げ出すフリード。本当なら追いかける所だが、今回はアーシア救出が優先なので見逃してやろう。
 
 

 地下にある大きな扉、し……もとい小猫が言うにはその先にアーシアが居るらしい。

 兵藤と木場の二人が扉を開けようとすると、ひとりでに扉が開いた。
 中に居るのは堕天使――確かレイナーレと言う兵藤を殺した奴――と光の剣を持った大勢の神父。そして奥で十字架に縛り付けられた少女、アーシア。

「いらっしゃい、悪魔のみ――」
「先制攻撃だ。弾けて消えろ」
 俺は黒い球状の物体を投げる。

 それは神父の集団の頭上で炸裂。無数の鉄片を撒き散らす。
「やっぱ人間には人間の武器だな」

 俺が投げたのは手榴弾(しゅりゅうだん)。と言っても本物ではなく黒き御手(ダーク・クリエイト)で作成した物だが……創るのしんどい。フリード退(しりぞ)けてからずっとこれ創る準備してたけど何とか間に合ったってタイミングだったし。

「ほら兵藤。とっととアーシアを助けに行け。周りは俺達が片付けるから」
「ああ!」
「もう遅いわ。もうすぐ儀式は終わるもの」
「ちっ!小猫!兵藤をアーシア目がけて思い切り投げ飛ばせ!アーシアにぶつける位の勢いで構わない!」
「……分かりました」
「邪魔はさせん!」
 兵藤を持ち上げる小猫に神父が殺到する。

「させないよ!」
 それは黒い(もや)のような物をに包まれた剣を持った木場に防がれる。
(あの剣から出てるもの……俺の神器と似た力をしてるな)
 現に今も光の剣の刀身を消滅させていく。
 それよりも殺気が凄いな。今の俺よりも強い。
 ま、アーシアを助けるという目標があるから抑えているがな。

「悪魔め!滅してくれる!」
 はい、NGワードいただきました。

「俺は……人間だよ!」
 創り出した黒い剣を振るう。それの刀身は蛇腹状になっており、更に伸長する事で複数の敵を切り裂く。

 蛇腹剣。簡単に言えば斬れる鞭と言った所だろうか。普通の剣に比べて強度が低いのが玉に(きず)だが……。
有象無象(うぞうむぞう)相手にはこれで十分だ。――小猫、やれ」
 蛇腹剣を操り神父を切りつけながら、俺は小猫へ命じる。

「……いきます」
 小猫に投げられた兵藤は一直線にアーシア目がけて飛んで行き、レイナーレを巻き込む勢いで激突した。


「間に合ったか?」
「アハハハハハハハ!やったわ!これで私は至高の堕天使になれる!私をバカにした者達を見返すことができる!」
 体から緑色の光を発するレイナーレ。どうやら神器(セイクリッド・ギア)は彼女の手に渡ってしまったようだ。それにしても――

「思ったよりもくだらない理由だな……ま、堕天使風情にはお似合いか」
「何ですって?」
 レイナーレが眉尻をあげてこちらを睨むが、俺はそれを気にせずに兵藤に声をかける。

「兵藤、アーシアを連れて上に上がれ。可能性は低いが、そこの堕天使から神器(セイクリッド・ギア)を引き()がして元に戻せば生きられるかもしれない」
「だったら俺も……!」
 拘束からアーシアを解き放った兵藤が言うも、俺はそれに首を横に振る。

「アーシアを(かば)いながらは戦えない。お前は彼女を助けに来たんだろう?だったらレイナーレの事ではなく、彼女の事だけを考えればいい」
「分かった……すまねえ」
「逃げられると思っているの?この大勢の神父から!」
「兵藤、右手を高く上げて、左手でしっかりアーシアを掴め。絶対に離すなよ」
「あ、ああ。……?」
 疑問に思いつつもいう事に従い、手を上げた兵藤の腕に黒い紐が巻き付く。

「よいしょっと」
「うおぉぉぉっ!?」
 俺が紐を引っ張ると兵藤が宙を舞い、そのままこちらへ飛んでくる。

「お帰り兵藤」
「お、お前なぁ!他に方法は無かったのかよ!?」
「そんな事はどうでもいいからとっとと行け」
「そうだな。三人とも死ぬんじゃねえぞ」
「はいはい」
「分かってるよ」
「・・・・・・」
 兵藤の声に俺は軽く、木場は力強く、小猫は無言で頷く。

「朧!木場!小猫ちゃん!帰ったら俺の事はイッセーって呼べよ!絶対だからな!俺達、仲間だからな!」
 そう言って兵藤――いや、イッセーはこの場を立ち去った。

「仲間か……」
 俺にとっての初めての仲間になるんだろうな。『禍の団(カオス・ブリゲード)』の奴らは仲間とは言えないから。

「存外悪くないな」
 今度は剣を一振り創り出し、神父達を斬る。

「そういえばあなた」
 神父達を蹴散らし続けていた俺に、レイナーレが飛んで近づいてきた。

「さっき、私の事をくだらないって言ったわね」
「言った。堕天した(からす)の分際で至高とか本気で言ってるなら本気で笑えるぞ」
「烏とまで言ったな!この人間が!」
「はいはい、堕天した駄目天使なんだから自重しましょうね。ま、ここでお前は死ぬのだけれど」
「調子に乗るな!」
 激昂したレイナーレが光の槍を投げつける。それを俺は黒手袋で包まれた左手で受け止める。
 掴まれた光の槍はあっさり消え去る。

「なにっ!?」
「残念でした。今度は無いよ?さようならっ!」
 右手で剣を振るい、レイナーレを斬りつける。しかし、それは寸での所で躱されてしまい、軽い切り傷を作るに留まる。でも――
「これで十分だ」

 目の前でレイナーレが崩れ落ちる。
「くぅぅぅ……!一体何が!?」
「お前の身に起こっている事を説明してやろう。俺の神器(セイクリッド・ギア)黒き御手(ダーク・クリエイト)で創られる武器は光力を相反する性質を持つ。そして、これは悪魔にとって光が毒であるように、天使・堕天使にとっての毒でもある。ま、その程度なら全身に激痛が(はし)るくらいだ。トドメ刺すのが楽になるから俺にとって堕天使は単なるカモだな。――聖書に載るクラスなら話は別だが」
「だけど……今の私には聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)がある!」
 レイナーレは手に緑色の光を灯すと、傷ついた部分に手を当てる。

「回復か。殺すのが面倒だな。さっさとしないとアーシア死ぬし」
 一気にトドメを刺すべく剣を振り下ろす。しかし、それはレイナーレが空を飛ぶ事で避けられた。
 レイナーレはそのまま出口へと向かう。

「逃げる気か!木場、止めろ!」
「分かった!」
 木場は高速で動いてレイナーレを切りつけたが、軽い手傷を負わせるに留まる。

「くそっ!俺はあいつを追いかける!後は任せて良いか?」
 二人は力強く頷く。

 それを見た俺は、全力で上へと駆け上った。

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