“此れ”とは此の包みの中の物を指すのだろう。
一体何が…?
風呂敷を留めるちりめんの紐に手をかけると、其の笑顔を絶やさぬままに忘八は告げた。
『“人目に”というのは勿論の事、貴方様も含まれますれば。』
何、だと…?
紐に触れた指が止まる。
聞き間違いであろうか?
私は包みにやった視線を彼へと戻し問い返した。
『私も、ですか…?』
『はい。』
然し彼の答えは変わらなかった。
聞き間違い等ではない。彼の瞳が暗に告げる。
―見ルンジャナイ― と…。
其の笑みにぞくりとした何かを感じた。同時に此れを持つ事に恐れも感じたのだ。
布越しに伝わる感触に違和感等はなく、大した頼みでもない。
引き受けるに渋る理由はないように思う。
私も客だが、私にすれば彼もまた客なのだ。
もし断るのならば理由がいる事だろう。
然し、何故此の様な…。
『…中身の解らぬ物を一月もの間持ち歩けと?』
『左様に。』
こんな事に何の意味があるというのか?
もしも私が此の中身を見たとして、其れを黙っていれば彼には解らぬだろうに。
一体何を考えているのか…。
『其れは一月後に御返却頂きます。おっと…後でこっそり見てしまおうなんて思わないで下さいましね?
不躾な事とは重々承知しておりますが、貴方様は其れを只持ち続けてくれさえいればいいのです。
よろしいですね?』
“よろしいですね?”という言葉に相反した物を言わさぬ態度。
気圧されるように私は黙って頷いた。