小説『闇夜にはマロウティーでも』
作者:狂ピエロ(カガク生活)

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奥の部屋は相変わらず警察が捜査中だ。
「私は何を話せばいいんですか?もう話すことは話しましたよ?」
なにかこれだと犯人の言い草のように思える。もうちょっと言葉はなかったのだろうか、私。
「お前に聞くことは何もない。むしろ俺から話したいんだ。今回の事件についてな。」
「はぁ…」
「まず被害者と関係があったのはあのマスターだ。彼氏…だったらしい、被害者のな。それ以外に接点のある人物はいなかった。まぁ奴らの話を聞く限りじゃな。お前はどう思う?」
私は一人しか頭に思いつかなかった。
「…あの、被害者じゃなくてマスターに関して気になることが。」
「なんだ?」
「マスターは恋人が死んだのにもかかわらず全く落ち込んだ様子を見せていません。しかもあの女性…OL風の女性に対する反応が気になるのです。何か関係あるのでしょうか…?」
「反応というのはどんな感じなんだ?」
「何かきまづい感じの…なんて言うんでしょう?変な感じなんです。」
「そうか、まあいい。その点はあとで追求することにしよう。他に気になったことはないか?」
「そうですね…引っかかることならあります。さっきジャームが捜査していたときにふと見たのですが、檸檬さんの死体の口からは泡が出ていませんでしたよね?」
「ああ、出ていなかったな。普通青酸カリで中毒死を起こした場合は泡を吹いて死ぬはずなんだが…あらかた犯人が拭いたんじゃないか?」
「それはあまり意味がないんじゃないでしょうか?そんなの後で調べたらわかるはずですし、犯人に有利ではないはずです。ましてやその泡のついた布なんか持っていたらすぐ犯人と断定されます。私としては檸檬さんがここで死んだとは考えにくいのです。」
「それは聞き捨てならないな。どういうことだ?」
珍しく帯夢が私の話を真剣に聞いてくれている。だがその顔がちょっと恐い…
「檸檬さんが死んだソファーには泡の跡がないんです。シミみたいなのがないんです。ですからここじゃないところで殺されて運ばれたんじゃないかって私は思うんです。」
「なるほどな…じゃあお前はあの青酸カリの入ったマロウティーも偽物だというのか?」
「いいえ、あれには口紅がついていました。あれはおそらく彼女のものです。」
「被害者が死んでから口に当てたということは?」
「それはありえません。彼女の口は青酸カリの中毒による泡で下唇の口紅がはがれています。あの口に当てたなら欠けた口紅の跡がつくはずです。」
「なるほど…では犯人は何故カップで人を殺したんだ?」
「ここはバーです。お酒以外にもコーヒーとかいろんな飲み物のある珍しいバーです。そこであのカップが出てきたらここで死んだと思わせることが可能です。そういう心理的な罠だったんです。」
「そういうことか。筋が通っている。じゃあ殺されたのはどこだというんだ?」
「おそらく彼女が知っているところでしょう。あのお茶が飲めるところです。家かカフェかどこかでしょう。」
「わかった。一回捜査してみよう。」
「お願いします。」
それだけ伝えて私は家に帰った。あれだけ伝えたらもう大丈夫だろう。後は彼の連絡を待つだけだ。今日はいろんなことがありすぎて疲れた。私はベッドに横になり深い眠りに落ちた…

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