小説『闇夜にはマロウティーでも』
作者:狂ピエロ(カガク生活)

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中に入ると女性、知宇夢が一人でせっせと働いていた。客はまだおらず、一人だけで準備をしていた。
「いらっしゃいま…せ…」
知宇夢の言葉は途切れた。
「こんにちは。今日はちょっとお話をお伺いに来ました。」
帯夢が手帳を見せながらそういった。
「はい…檸檬のことですね。昨日話したとおりです。檸檬は私の親友です。私が殺す訳が…」
そこまで言ったところで帯夢が遮った。
「…旦那さん。あなたには夫がいますね。」
「…」
「旦那さんのこと、なぜ黙っていたんですか?」
「…ご存知でしたか。」
「はい、とある人物の意見を聞いて調べてみたんです。」
帯夢はちらっと私の方を向いた。そして知宇夢の方を向きなおし、
「で、なぜ黙っていたんですか?」
「…ということは檸檬とあの人の関係もですか?」
「はい、被害者と旦那さんは付き合っていたらしいですね。」
「…まぁいつかはバレるとおもっていましたよ。お話しします。今お茶を淹れますね。そこの椅子にでもおかけになってお待ちください。」
私たちはその席について待っていた。そのときに帯夢が話してきた。
「なぁ、お前はどう思う?」
「…?何がですか?」
「知宇夢のことだ。あいつが犯人ではないことはわかったがどうも変な感じだ。」
「そうですね。あまり知られたくなかったんでしょう。今回の事件を境に忘れようとしていたのかも…」
「なるほどな。」
すると奥からお茶を持って知宇夢が現れた。お茶を私たちに配って自分も席についた。
「…あの人とはだいぶ昔に出会いました。バーに行ったら彼がいて、私の話を聞いてくれたんです。アドバイスもしてくれて、とてもやさしい方なんだと思い惹かれていきました。そして付き合って4年、私たちは結婚したんです。結婚した後もたまに喧嘩もしましたがお互い愛し合っていました。しかし3ヶ月前、彼はいきなり仕事が忙しくなり、家にいる時間が少なくなりました。彼は常連客が増えたと言っていましたが、私にはどうもそうは思えませんでした。そして後をつけることにしたんです。すると彼の隣にいたのは…檸檬でした。私は絶望に苛まれ、その場にへたれこみました。あの人はもう…」
そこまで言うと彼女は泣き出してしまった。
「檸檬は…私の…親友でした。あの子…そんな人の男を…取るような子には…うぅ…」
私は同情してしまった。恋愛経験はないが、親友に自分の夫を取られるなんて…
すると帯夢が冷酷な声でこう言った。
「…それで殺意が芽生えたということは?」
私は驚いた。こんなに悲しんでいる人を殺人の容疑者にするなんて…!
「いえ…!そんなことはありません!あの子は根はいい子なんです。おそらく彼が誑かしたのでしょう。私が彼女を殺そうなんて…そんな風に思ったことなんてありません。」
「そうですか。ならいいんですが…それでは俺たちはこれで。おい、行くぞ。」
「え!あ、はい…」
私は彼女に礼を言い、その場をあとにした。

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