小説『闇夜にはマロウティーでも』
作者:狂ピエロ(カガク生活)

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「まず…俺には動機がない。俺が被害者を殺す理由なんてない。お前は何故俺を疑うんだ?」
仮面越しだがかなり真剣なことが声から感じ取れる。
「…帯夢さん、あなたは最近ある事件を担当しましたね?」
「…仕事だからな。どんな事件を捜査したかなんて忘れたよ。」
「とぼけても無駄です。これはあなたにとって忘れられない事件なんですから。喫茶店男性毒殺事件、覚えてますね?」
「ああ、なんとなくなら覚えているな。」
この人は嘘が苦手なのだろうか。声が震えている。きっと動揺しているに違いない。
「あの事件、関係者が全員同級生でしたね。そう、あなたを含めて。いかがでしょう?」
すると銃が光だし、先からなにやら白く光った弾のようなものが出てきた。それが帯夢の仮面に当たると仮面の端が欠けた。
「…そうだ。あれは俺にとっても残念な事件だった…だがそれはみんな一緒。そんなときにまた事件を起こすのは如何なものだろうか?」
今だ。私はこの言葉を待っていた。
「あなたは知ってしまった。事件は捜査できずに終わったけど、あなたは独自で捜査した。その結果あなたが発見した事実、それが真犯人、蔵巣 檸檬…ですよね?」
また弾が出て仮面に当たった。図星だったようだ。仮面がまた欠ける。
「…あの事件、ある人物の圧力で捜査はできずこの事件は幕を閉じた。あんな簡単な事件、赤子でも解けるはずだった。なのに…」
悲しんでいる様子が見て取れた。仮面の欠けた口の部分から涙が流れている。
「そうだな。そこまで知ってたらもう隠すことはないだろう。そう、俺はあいつに恨みを持っていた。だからといって俺があいつを殺すわけがない。俺も一応警察だ。そんな馬鹿な真似はしない。」
帯夢はその涙を拭い、静かな声で訴えた。
「それじゃあ、事件のはじめから辿っていきましょうか。そうすればあなたも認めざるをえなくなるでしょう。ここからが本番です。いきますよ?」
「ああ、やってみろ。俺の無実がすぐわかる。」
私は深呼吸し、最初から事件を話し始めた。
「あなたは私をこのバーに呼び出した。これが事件当日の夕方ですね。これは私の携帯の着信履歴を見れば明らかです。」
「ああ、そうだな。」
「これにも事件のある意図があったはずです。」
口がピクっと動いた。
「意図?俺はただお前と酒が飲みたかっただけだ。お前も二十歳になったからな。」
「本当にそれだけでしょうか?」
私は帯夢に問いかけて一呼吸置いて続けた。
「あなたは事件の犯人を私に仕立て上げようとした、いかがですか?タイミングも完璧でしたし。」
そういうとまた仮面が欠けた。今度はその口の近くが欠け、頬が出てきた。
「…だが仮にそうだとして、俺はどうしてお前にしたんだ?別にそれならお前じゃなくて近くの客でよかったはずだ。違うか?」
「…あなたは私のほうが都合が良かったのです。私は睡眠薬を常備してましたからね。仮に酔いつぶれなかったらそれを使って私をマスターの部屋へ運ばせたらいいだけ。まぁその計画は完璧だったらしいですが…」
弾が出て仮面がどんどん欠けていく。どんどん顔が露わになり、両頬が出てきた。
「…ほお、面白い。で、後は死体を転がしておいたらいいんだったな?」
「ええ、そのとおりです。」
帯夢が珍しく認めた。何か策を練っていたのだろうか?
「だが死亡推定時刻、俺は家にいた。それは家族に聞いてもらえばいい。俺がバーにいたのはお前が寝て十数分くらいだ。そんな時間で人を殺すのには無理があるんじゃないか?」
「…それも想定内ですよ、帯夢さん。」
「…!」
「あなたはある方法を使ってそう仕向けたのです。それが…死亡推定時刻のズレです。」
「…!!」
「あなたは刑事です。だから死体安置所を使うのは簡単でしょ?それを利用したのです。」
銃が光り、弾が出る。仮面はとうとう目の部分だけを覆う、オペラ座の怪人のようになっていた。
「…そうか。面白い…!面白いぞ花茂芽!!!ハハハハハハハハ!とても愉快だ!!」
帯夢の人格が壊れ始めた。そろそろラストスパートだな。
「だがな?お前の推理は本当に俺だけなのかぁ?俺にしか犯行は不可能なのか!?」
これが一番難しいところだ。さぁ、この哀れな殺人犯にとどめを指そうか。
私は人差し指を突きたてた。
「ええ、もちろん。さぁ、化けの皮を剥がして差し上げましょう。参りますよ?」

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