小説『闇夜にはマロウティーでも』
作者:狂ピエロ(カガク生活)

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学校へ行く度、彼らとの絆は深い物になっていた。特に泰武とは同じクラスだからか仲が一番よかった。
学校を卒業したあともその仲は途絶えず、30年たった今でも度々連絡を取り、時には一緒に出かけたりもした。あいつといられる時間が一番素直になれる時間のような気もした。
つい最近こんなことがあった。俺と泰武は喫茶店へお茶を飲みに行くことにした。なぜか珍しく泰武から誘ってきたのだ。着くとあいつはこんなことを言い出した。
「俺もお前と出会ってもう30年か…早いもんだな。」
「ああ、俺もお前と出会ってなかったらこうして友人と茶を飲むこともなかっただろうからな。」
「そうだな…ここに呼ぶ相手も居なかったんだろうな。前から美味しいって聞いてて一回来てみたかったんだ、ここ。」
「…何故一人で来なかったんだ?」
「え…なんでって…ここに男一人とか…寂しいにもほどがあるだろ?」
「フッそうだな。」
俺はそう微笑んだ。そして俺とあいつは注文を済まし、お茶が来るのを待った。
お茶が来るまで俺らはたわいもない世間話をしていた。その話を聞いていると、どうやら生活は出来ているようだ。
「お待たせしました?こちらマロウティーになります。」
ウェイトレスが変な日本語と共にお茶を持ってきた。
あいつと同じのなんて言ったが、また変な色のお茶だな…
「なぁ知ってるか?このマロウティーってな、色が変わるんだぜ?」
そう言うと泰武は机に置いてあったレモンをマロウティーに入れた。するとみるみる内に色が桃色へと変化していった。
「…!なんだこれは?」
俺はショックを受けた。こんな変化のあるお茶なんて聞いたことがない。
「これねぇ、酸性になると色がピンクになるんだ。驚いた?」
「驚いたなんてもんじゃないよ…すごいな、これ。」
すると泰武は得意気な顔をしてみせた。
それから俺らは茶菓子をつまみながら茶を飲んだ。なんと美味なのだろう。
そして俺らはまたたわいもない話をし、店をあとにした。
「この喫茶店うまかったな。また来ようぜ!」
「ああ、今度はお前が奢れよ。」
「それはどうかなぁ?」
泰武はおどけた様子を見せ、俺に背を向け車に乗り去っていった。
俺はこのおどけた顔が最後に見る親友の顔になるとは思いもしなかった…

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