小説『闇夜にはマロウティーでも』
作者:狂ピエロ(カガク生活)

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俺は檸檬の家に着くと一呼吸置き、インターホンを押した。
「…はい?」
「オレだ…少し話があってな。」
「…ああ。帯夢君。どうぞ…」
軽く話を済ませるとドアのチェーンを解く音がして、その後檸檬が顔をのぞかせた。
「…久しぶり。中へどうぞ…」
相変わらず暗い感じだ。そんなことを考えつつ中に入っていった。
意外と中は片づいていた。
「そこ…座ってて…」
檸檬は奥でお茶の準備をしているのだろうか?ティーポットの中になにやら茶っぱのような物をいれ、こっちに持ってきた。それに机の上に置いてあった電気ケトルから湯をいれ、しばらく放置していた。
「…意外と片付いているんだな。」
俺はそっけない言葉を発した。いや、緊張してそれしか言葉が出てこなかったのだ。
「ええ…一応女だからね…」
「まぁ…そうだろうな。お前もお茶好きなのか?」
俺は心理的に彼女を追い詰めることにした。おそらく単刀直入に聞いても逃げられる。
「ええ…ハーブティーとか…よく飲むわね。それがどうかした?」
「いや、どうということはないんだが…例えばどんなお茶を飲むんだ?」
「そうね…」
そこまで言ったところで俺は檸檬の言葉を遮った。
「マロウティーはどうだ?」
すると一瞬彼女の目が大きく見開いた。
「…いいえ?そんなお茶…聞いたことないわ。」
「…そうか。ならいいんだ…が…?」
俺はさっき檸檬が茶っぱを取り出した棚を見た。するとそこには濃い紫の乾物のようなものが入っていた。
「?これはなんだ?」
俺はおもむろに立ち上がりその乾物を見に行った。
「…!だめ!それはだめ!」
いつもより激しい口調になり俺を止める檸檬の声がしたがもう遅かった。俺はその容器に手をかけ、蓋を開けた。開けた瞬間、思い出したくない匂いがした。
…あの時の…マロウティーの匂い…!
「お前…何故嘘をついた…?」
「どうせ…貴方はあたしを疑って来たんでしょ?あの喫茶店男性毒殺事件の容疑者として…」
檸檬の話し方が急に達者になった。
「察しがいいな。そのとおりだ。マロウティーを隠したのもそのことか?」
「…ええ、そうよ…あいつを殺したのも…あたし。どう?これで満足?」
なんだか憎たらしくなってきた。だが俺はその苦しさを抑えた。
「…あいつが悪いのよ…浮気もので…女を弄ぶような男、この世に居るべきじゃないのよ。だから…消した。」
もうこらえきれない…だがもう一息だ。
「…そうか。だが俺はお前を逮捕しにきたんじゃない。お前を…助けたいんだ。いいか?俺の言うとおりにするんだ…」
俺は小声で檸檬に行動方法を伝えた。このときから、復讐の歯車は回り始めていたんだ。

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