小説『フェンダー』
作者:あさひ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

「そう・・・。中学三年生の時は別々のクラスになっちゃって淋しかったんだろうな。」
未央は手元のコップを口に当てた。
ふと未央の脳裏に西川の家の庭で見た温室に咲くランの花びらが浮かび上がった。
(蘭の花ことばって何だったっけ・・・?)
未央はコップを手元に戻し暗いテレビ画面をじっと見つめていた。


―数日後
未央は研究所での事情聴取にうんざりしていた。これまでの数日間、未央は隙あらば刑事のふりをしてこっそりと妹の中学生の時の周辺の人間のことを調べ上げていた。
「あの、山川さん。」
「うん?」
「ちょっと外出してきてもいいですか?妹の中学の頃の同級生に事情聴取してきたいんです。」
「ん?君の妹がこの事件に関連しているんじゃないかと思うのか?」
未央はこっくりうなずいた。
「君の器用さは褒めてやるが、あの男に食ってかかったもんだから遠回りになったな。」
未央は山川のその言葉を聞いて後ろめたさを感じた。
「意味のない事情聴取はないよ。真実はひょんなことから明らかになるんだからな。」
「ありがとうございます。」
未央は山川に深々と頭をさげると急いでバックを手に取り上着を着ながら刑事課を出ていった。

未央が事情聴取で分かったこと・・・それは次のようなことであった。

佳奈と晃は中学一年生の時に図書館で知り合い、同じ係りになったのを機に仲良くなっていった。中学三年生になったとき、受験や日々のごたごたのせいで二人の距離が離れていった。ある日別の女と晃との関係が噂に広まり、意地悪な男子が佳奈にそのことをわざわざ伝えたという。


「山川さん、前私に見せていただいたサイト、見せていただけますか?」
「ん?三島に聞いてみて。彼ならとっておくだろう。」
未央は三島に頼み、その自殺サイトの書き込みを見た。未央は三日間も書き込みの履歴を調べていた。そこには衝撃的な書き込みがあった。
「羊の血」

(佳奈だ・・・・佳奈が中学三年生だった時の書き込み・・・、佳奈はどうしてこの策略に気が付いたんだろう。佳奈が死のうと考えたのは間違いない・・・。佳奈の部屋に警察が立ち入ったこともあるけど、覚せい剤の痕跡はどこにも見当たらなかったし、佳奈が覚せい剤を使用している様子なんて全くなかった。それなのに覚せい剤が送りつけられる前にどこかに佳奈が失踪したことも相手は知っている・・・。家に覚せい剤なんて送りつけられていない・・・。)

未央はさらに書き込みを調べてみた。
そして未央は「まさか」という顔をした。すっかり顔色は青ざめていた。


未央は山川のところへ行き
「押収したウイルスサンプルの一部を預からせてもらえないでしょうか?確かめたいことがあるんです。」
と申し出た。
「どういうことだ?」
「私の妹がこの事件に関わっています。私の妹は自分がキリストの血を持ってるって言ってるんです。」

-11-
Copyright ©あさひ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える