小説『フェンダー』
作者:あさひ()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

三島はぼそぼそとしゃべるじめじめした感じの青年であった。
部屋のソファーに座り、持っている最新型ノートパソコンのバッテリーのコンセントを電源につなぎ、ネット回線を接続し、パソコンを開いてその電源をオンにした。未央はその隣に座り、パソコンのデスク画面をじっと見つめた。セットアップが完了するとデスクトップに黒いボックスが現れていた。
「かかってる。」
三島はにんまりと笑った。
(?)
三島はそのボックスに猛烈なスピードで暗号の打ち込みを始め、ネットワークに送り始めた。未央にはちんぷんかんぷんな暗号ばかりだった。しばらくすると、三島のパソコンに住所録や電話帳、ワクチンの作成方法などの様々な情報が大量に送りつけられてきた。それを見た未央は思わず
「きっとあのサイトの罠にはまった人たちの情報だ!」
と三島の横で騒いだ。
「いいから静かにしていてください。ミスが命取りになるんで。」
未央は口をつぐんだ。
(ひえ?。気味の悪い人だとは思ってたけどこの人ウイルス作る人だとは。昔ネット犯罪したのかも・・・。)
未央は疑わしげな目で三島を見つめた。
その後三島と未央は奥の部屋から出て、三島は自分のデスクに戻り山川に提出する資料作りを始めた。三島のお陰で、共犯であるヤクザの集団が逮捕され、被害者の体内から見つかったものと同じ成分の覚せい剤が押収され、ネットワークの情報から主犯も確定した。
犯人は山川の推測した通り、矢島病院の医院長であった。


医院長の名は矢島洋平という名だった。警察が取り調べにあたり、山川をはじめとする刑事や未央もその調査に協力した。その結果犯人の居場所が暴かれ、逮捕状が裁判官から発せられた。

―逮捕予定日
未央はこっそり警察の後を追っていた。妹を追い込んだ犯人をこの目でしかと見届けようと思っていた。実はその後をバイクで晃が追いかけていた。未央にばれないようなるべく距離を置いてバイクを走らせていた。晃は兄から羊の血の話を聴き、今のアルバイトをやめてその日から未央の行動を偵察していたのだった。

未央の車が高速道路下から十字路を左折した直後に信号が赤になり、晃は待ちぼうけを食わされることになってしまった。すると、十字路の右道路わきに停まっていた黒色の乗用車が目の前を通り過ぎて行ったが、晃はその車が気になって仕方がなくなった。運転手は一人でサングラスをしていてたばこを吸いながら運転をしていた。晃は何か嫌な予感がしていた。晃は焦る気持ちを押さえて信号が青に変わるのを待っていた。

信号が青に変わると晃は猛スピードで十字路を左折し、その道を道なりに走って行った。すると、晃の視界に未央の車とあの黒い乗用車が現れてきた。晃はしばらく様子を見ていたが、その黒い乗用車は未央の車の後ろをついて離れない。晃は心を決めてバイクのスピードを上げ黒い乗用車を追い抜き、その前でバイクを止めた。すると、さらに後ろの幾台もの車がクラクションを鳴らした。警察はそれに気が付き、数台あるうちの一台だけ道路わきに停まり、未央もそれに気が付きバックミラーを見た。黒乗用車から現れた男は一目散に細い脇道へと逃げ出した。晃はバイクを道路わきに放り、ヘルメットをかなぐりすてると一目散に走り出しその後を追った。未央もバックミラーに見覚えのあるそのバイクの男を目にし、車を停めた。車から出てきた二人の警察官は後ろの道路が渋滞している様子を見て困り果てた顔をしていた。そしてそのうちの一人が何やらトランシーバーで話し始めた。そしてもう一人に向かってうなずき、まだエンジンのかかっている黒乗用車を道の脇に移動させるためにその車の中に入った。未央は車の中にいない方の警察官に話しかけた。
「私は府川署の刑事です。」
「刑事?」
警察官は少し考えてからびっくりした顔をした。
「まさか、君、失踪した緒方佳奈の姉?」

-13-
Copyright ©あさひ All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える