小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「ついてきてしまって申し訳ないです。この車は私を追っていたんだと思います。きっと犯人の仲間です。」
警察官はそれを聞くと、黒乗用車に向かって叫んだ。
「その車で今逃げていった奴を追え!! ウイルス事件の共犯者だ!! まだ残っていたんだ!!」
黒乗用車は細い道路に入り高スピードで走っていった。未央も警察官も晃と犯人が走っていった先にかけていった。
走りつかれた未央がその周辺を三十分ほどうろうろしていると、その目の先に黒乗用車が現れた。目付の悪い赤いTシャツを着たサングラスをかけた男が手錠をかけられていた。その男の脇で警察官がトランシーバーで何やら話をしていた。そこにもう一人男がいた。黒づくめの格好をし、ほてった顔をした晃だった。
「お疲れ様です。」
未央が警察官にそう言うと、警察官は目で未央にあいずちを打った。
「君は西川晃くんね。」
未央は晃に微笑みかけた。
「俺はお前を助けようとしたんじゃない。」
「佳奈のためでしょ。」
未央は晃の肩にポンと手を置いた。晃は顔を赤らめて下を向いて黙っていた。そこにパトカーに乗ったさっきの警察官が現れ、そのパトカーと黒乗用車は自分の署へと向かっていった。

未央は晃を後手席に乗せて、警察官たちに教えられた場所に向かった。
「まさか主犯の逮捕まで君がやろうって気じゃないでしょうね。」
「俺はそこまで馬鹿じゃない。」
未央は
「ははは」
っと軽快に笑った。未央は真剣な顔つきでバックミラーで晃の顔を伺った。幾分顔が擦切れていて、殴られた形跡があった。腕にはナイフで傷つけられた跡があった。犯人と激しく乱闘したのだろう。晃は「お前こそ」と言いそうになったのを抑えていた。

主犯である矢島洋平は警察官によって無事逮捕された。未央も晃もしっかりとその顔を見届けたのだった。未央は晃を病院に連れて行き、警察官にバイクをそこまで運んでもらって「経費は署から出る。」ということを告げ、両親にきちんと報告することを悟してから家へと戻って行った。


―翌日
珍しく山川がかんかんに怒っていた。
朝礼が終わるとすぐに未央に大股で近づいてきた。
「君の行動は何を意味しているのか分かるかね。」
普段はきょとんとした丸い目の端がつり上がり奥が黒光りしていた。
「もう二度としませんから。ごめんなさい。」
(どうせ経費が余分にかかってるから怒ってるんだ。)
と思いつつも、
未央は深々と頭を下げた。
「ごめんで済めば」
「警察はいらない。」
山川はふうっとため息をつくと自分のデスクに戻った。未央はそんな山川についていって躊躇することなく話を始めた。
「今回の事件に妹のことが絡んでいたのですが・・・。」
「ん?」
山川は野太い声をあげた。なんだよ?、という目付をしていた。
「この事件の解決を利用してマスメディアを通じて私から妹にメッセージを送ってもいいでしょうか?」
山川は少し真剣な顔つきになってしばらく考えてから
「・・・。君が見習いじゃなかったら許してないところだが・・・。」
とつぶやいた。
「だが?」
「今回ばかりは許すとしよう。」

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