小説『フェンダー』
作者:あさひ()

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「私は今ここで佳奈に会えてとびっきり幸せよ。」
未央は優しくうつむいている佳奈の肩を抱いた。少しばかり傾いてきた陽射が温かく二人を包んだ。

未央はその日、佳奈をかくまっている家に一晩居候することになった。六人家族の二世帯であり、四歳と六歳の男兄弟がいて、二人とも佳奈をよく慕っていた。佳奈には実はいいなづけがいて、願わくば結婚を考えているということだった。未央は佳奈に再会したら一緒に暮らすつもりでいたため、それを知ったときは多大にショックを受けたが、再会と絆の喜びを胸に一人東京に戻ることを決意した。

―数日後
「未央くん、妹さんはどうだった?」
山川は未央のデスクの手をやり、資料作成をしている彼女に朗らかに問いかけた。
「はい、元気にしていました。これで私も残りの人生歩いていけそうです。」
未央は山川の方を向いてにっこり笑った。
「でも、仕事は今まで通りしっかりやってくれよ。じゃないといつまでも見習いのままだぞ。」
「へ?へ。」
未央は半ばいらだちながらも妹との再会前と同じ調子で仕事を続けた。でも、その胸は温かい思いと安堵感で一杯になっていたのであった。



―END―





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